“超”分析:問題解決力を高める技法 01
“超”分析の3つのステップ


 分析は、最も身近なビジネスツールの1つである。多くの人は、その有用性を感じながらも、 一方では「実務でいまひとつ使いこなせていない」と感じているのではないだろうか。本連載では「実務で使いこなすための分析」、そして「実際の問題解決に役立つ分析」として、超"分析を提起する。
第1回では、超"分析を行うための3つのステップ、すなわち俯瞰」分解」比較」と、それぞれのアプローチの方法、さらに実践運用上の留意点主に心理面)について述べる。

"超"分析の定義と3つのステップ

売上げが伸びない、利益が上がらない、あるいはチームメンバーの長時間残業が恒常化してしまっている……。ビジネスにおいて直面する問題を解決するためには、市場や事業環境、コスト構造や業務の効率を分析する作業が欠かせない。しかし、いざ、仕事の中で分析をしていて、以下のような状況に直面することはないだろうか?
社内の問題に対して自分なりに分析を行い、分析結果を上司や経営者に提示するが、こちらの訴えたかったことが通じず、判断は「政治力」によって行われてしまう。苦労して分析をしただけに、相手が動いてくれないことへの不満や徒労感を覚える。

いつも同じ対象について、同じ内容の分析を繰り返している。例えば、市場の分析といっても、毎期の数字のアップデートを行う程度であり、局所的な問題への対症療法にしかなっていない。

上記のような経験を通じて、「ビジネスの現場では分析はあまり頼りにならない」と感じている人もいるかもしれない。私たちは、上記の状況は手法としての分析の限界によるものではなく、「問題解決にフォーカスした分析」がなされていないためであると考えている。

そこで本連載では、問題解決に資する分析として、"超"分析を提起したい。

以下で"超"分析とは何か、今まで解決できなかった問題をどのように解決していくのかを解説する。

まず、分析の定義であるが、本連載では、分析を作業ステップの観点から、"俯瞰することにより対象範囲を選定した上で、範囲内に含まれる事象を分解し、分解した事象の集合同士を比較するプロセス"とする。

つまり、分析のプロセスには以下の3つのステップが含まれる(図表1)。

図表1 分析のプロセス

  • ①「俯瞰」:分析する範囲を設定するステップ(分析の質を左右する重要なステップであるが、実際には良否の判断をすることなく、無意識的に行われている)
  • ②「分解」:対象範囲の中の事象をある特定の基準によって切り分け、比較するための要素を抽出するステップ
  • ③「比較」:分解した要素同士を比べる指標を設定し、要素同士の優劣を測定するステップ

また、そもそも分析とは何を目的にして行うものなのかという側面からの定義は、"問題解決のために課題発見・打ち手の選定を行うこと"とする。

例えば、課題発見の例でいえば、"売上げ低迷チャネルが他のチャネルに劣っている要因は何か"といった分析のケースが当てはまり、打ち手の選定でいえば"どこのチャネルの売上げを伸ばすのが最も効率的か"といった分析のケースが当てはまる。いずれのケースであっても、分析の3ステップの構造は基本的には変わらない。

次に"超"分析の定義であるが、"超"分析とは、「分析の3ステップを高度化することで、問題解決により深く寄与することのできる分析」と定義する。各ステップの特徴としては、「俯瞰」における範囲設定の自由度の高さや、「分解」における切り口の多様さ、「比較」における要素相互間の比較可能性の幅広さや偏りのない公正さが挙げられる(図表2)。

図表2 ありがちな分析と

「俯瞰」のアプローチ

次に、具体的にどのようなアプローチで"超"分析を行うのか、各ステップについて説明していく。まず対象範囲設定のための「俯瞰」には、"物理的シフト""状態的シフト""価値的シフト"を伴う3つのアプローチがある(図表3)。

図表3 「俯瞰」の3つのアプローチ

1番目に挙げた"物理的シフト"を伴う俯瞰とは、「時間」および「空間」を対象としたものである。「時間」については、分析の対象とする時間スパンを5年もしくは10年単位へと変えることや、現在の営業時間外に分析対象を広げる

ことなどが含まれる。例えば、りそな銀行はかつて顧客の待ち時間短縮を目的に店舗営業時間を延ばしたが、これは既存の営業時間内で打ち手を探すという思考から、対象の時間シフトをして、営業時間を広げることも対象とした結果、打ち手の方向性を見出した事例といえる。

「空間」のシフトとは、都道府県、国など、地理的に分析範囲を変えることである。具体的には、日本国内だけを分析対象とするのではなく、世界各国・地域も分析対象範囲とすることで、より多くの成長機会を見出せないか検証する、といった例が挙げられる。

2 番目の"状態的シフト"を伴う俯瞰とは、プロセス間で見た状態の違い・変化を捉えることである。ここでのプロセスとは「個人の活動プロセス」と「集団・組織の活動プロセス」に大別される。

前者の「個人の活動プロセス」は、購買行動、消費行動、その他生活シーンなどで捉える類のものである。例えば、大塚製薬の「ポカリスエット」は、スポーツ時だけでなく、風呂上がり、目覚め後の水分補給など、消費者ニーズの発生する幅広いシーンを想定し、マーケティング活動に取り入れている。これは消費行動を幅広く分析の対象に捉えた事例である。

後者の「集団・組織の活動プロセス」としては、バリューチェーンや業務プロセス(サプライチェーン、開発活動、採用プロセスなど)が例として挙げられる。ビジネスの全体観を持って自社・競合の強み、弱みなどを比較し、自社の課題の手がかりを見つける時にはバリューチェーンを使い、業務効率化の余地を見つけたい時は業務プロセスで見るのがよい。

3 番目の"価値的シフト"を伴う俯瞰とは、既存の範囲に対応する価値に、新たな価値を加えたり、引いたりして、範囲の再設定を行うことである。それは「実用的価値」と「感情的価値」の2つに分かれる。

「実用的価値」については、"機能の足し算""機能の引き算"という2つの範囲設定の観点が存在する。"機能の足し算"とは、味(甘み、辛み、うまみ…)、温度(温める、冷やす)、耐久性など、何かを追加することによる価値向上が見込める場合にその要素を分析範囲に取り込むことである。"機能の引き算"は、時間・手間の節約、使い捨て、汚れ落とし、臭い消しなどの要素を分析範囲に取り込むことである。サントリーの「DAKARA」は、他の機能性飲料が栄養素を補給・補充する領域で勝負していたのに対して、"取りすぎた塩分、脂肪等を排出する"というコンセプトで新たな領域を確立した。分析対象として"何を引くか"ということに焦点をあわせて、商品を開発した事例といえる。「感情的価値」については、"興奮を伴うものか""落ち着きをもたらすものか"という観点を切り口に範囲設定を行う。興奮系の範囲設定とは、ワクワク、楽しさ、かっこよさ、スポーティー、ステータス感などの概念を既存の認識から拡大することで範囲設定をしなおすことである。例えば特撮ヒーロー物における、子供にとっての「かっこいい」という要素を母親にとっての「かっこいい」 ="イケメン")にまで範囲を広げたり、「ワクワク」という要素を父親も楽しめるストーリーの深さ・複雑さまで範囲を広げたりすることなどが、興奮系の範囲拡大として考えられる。同様に、落ち着き系の範囲設定とは、安心感、幸福感、癒し等の概念を既存の認識から拡大することで範囲設定をしなおすことである。最近はやりの「エコフレンドリー」の概念も、落ち着き系の範囲設定により見出された領域といえるだろう。"超"分析では、これらのアプローチで俯瞰することで色々に分析範囲を変えてみて、様々な候補の中から「どの範囲が最適か」を決める。

最適な範囲を確定するためには、「設定している範囲がどのような目的に整合するものとなっているか/その目的は最適なものとなっているか」を範囲の候補ごとに検討する必要がある。例えば、映画配給会社が音楽ビジネスを行うことを考える際に、「映画音楽のCD売上げ」と分析の範囲を設定したのでは、音楽ファイルや「着うた」などが検討対象に入らず、収益拡大の打ち手は限られるだろう。一方、「CD、ネット配信、楽譜なども含めた音楽コンテンツ全体の売上げ」と範囲設定すれば、ユーザーの視聴スタイルの変化(CD離れなど)にも対応可能な幅広な分析ができる。

「分解」のアプローチ

俯瞰により分析対象範囲を設定したら、次に「分解」のプロセスが来る。分解については、"縦の関係""横の関係""斜めの関係"という3つのアプローチがある(図表 4)。

図表4 「分解」の3つのアプローチ

1番目の"縦の関係"による分解とは、集合を特定要素の大小によって分けることである。物理的な大小、高低、長短、軽重等で切り分けたり、社会で規定される価値に基づく大小・高低等で切り分けたりすることが含まれる。例えば、物理的な大小としては、サイズによる製品の分類や、本社からの距離による支店の分類などがあり、社会で規定される価値としては、価格帯などがある。

2 番目の"横の関係"による分解とは、集合を特定要素の種類の違いによって分けることである。切り口としては、「物理面」と「社会面」に大別される。

「物理面」は、時間や空間の要素に分けられる。時間の観点には、売上高等の業績を年/月/週/日で見たり、事業全体を短期・中期・長期、過去・現在・将来で捉えたり、製品やプロジェクトのライフステージを揺籃期・成長期・成熟期に分けることなどが含まれる。空間の観点には、地域(国、都道府県等)で切ってみたり、物流を陸・海・空で捉えてみるなどが含まれる。

「社会面」は、"人・デモグラフィック"の観点と"企業・ビジネス"の観点がある。"人・デモグラフィック"では、年齢、性別、所得、職業、新規客・既存客等で個人属性を詳細化する。"企業・ビジネス"は、組織(会社、支店等)、プロセス、チャネル、製品等の他に、財務構造(B/S、P/L、固定費・変動費等)で対象を分解する。

3 番目の"斜めの関係"による分解とは、上記のような縦横では切れないサイコグラフィック(個々人の趣味・嗜好のような心理的属性)な要素や行動特性を捉えることである。既存の切り口だけでなく、似たもの同士をグルーピングして新たに定義することが必要なケースもある。ここでは"性格・価値観"という切り口と、"ライフスタイル・行動特性・ニーズ"の切り口を提示したい。

まず、"性格・価値観"は、「個人の静的な特性」により規定される切り口である。例えば堅実、冒険的、野心家、和を重んじるなど、といった違いで表される分解の切り口を指す。

次に、"ライフスタイル・行動特性・ニーズ"は「個人の活動」により規定される切り口である。例えば、新しいもの好きなのか、保守的なのか、とにかくコストを気にするのか、購買の手間を極小化したいのか、といった違いで表される分解の切り口を指す。

以上、対象を様々な角度から分解するアプローチを見てきたが、"超"分析であるためには、どの切り口を使い、どの程度の粒度まで分解するかを考えることが必要である。この場合も分析の目的の達成度合いが重要になる。

具体的には、「どのような要素が抽出されると、より課題や打ち手が明確になりやすいか」という観点から試行錯誤し、最適な切り口を探すことが望ましい。また、粒度も「意思決定および行動に移せる施策に落ちるレベルまで」分解することが大事である。例えば、各チャネルに対して自社商品の売上げアップを狙うには、チェーンストア単位で見るだけではなく、個店単位・アイテム単位など、有効な打ち手が見えてくる可能性のある複数の候補を検討する必要がある。

「比較」のアプローチ

分解により要素が分かれ、問題・課題、打ち手の候補が洗い出されたら、次に「比較」のプロセスが来る。比較については、"定量指標による比較""定性情報による比較"という2つのアプローチがある(図表5)。

図表5 「比較」の2つのアプローチ

1番目の"定量指標による比較"は、「物理指標による比較」と「ビジネス指標による比較」を評価する場合に分けられる。「物理指標による比較」については、日常生活にも使われる一般的な、個数・人数、時間等の指標を用いることの比較である。

「ビジネス指標による比較」は、事業の収益性を評価する売上高、利益、フリーキャッシュフローなどの指標がある。また、プロジェクトの評価については、期待収益性を反映したIRR(内部収益率)や期待価値創出額を反映したNPV(正味現在価値)などの指標がある。この他にも、業界全体と比べて安全性を見るD/Eレシオ、格付けや、資産効率性を見るROA、ROE、EVAなど、さまざまな財務指標が挙げられる。

2番目の"定性情報による比較"については、「定性情報の量換算による比較」と「定性情報のままの比較」に大別される。「定性情報の量換算による比較」は、人の感情・ニーズ、自然・生理現象等を量としてカウントして行う比較のことである。例えば、「従業員のモチベーションを測る」と いう時に、モチベーションというものは直接測れないので、「従業員の就労満足度調査結果」 退職者率」 業務スピード(前提:モチベーションが高いほど速い)」等の代替要素を指標に設定して比較を行うようなケースが当てはまる。

一方、「定性情報のままの比較」を行う場合もある。例えば、定量化の過程における情報損失の影響が大きいケースや、定量化をしなくても同程度以上の精度での判断が期待されるケースである。具体例として、前者では、店舗の出店立地の選定が挙げられる。候補地の比較にあたって通行者数や最寄り駅からの距離などの定量情報を参照するものの、街並みの雰囲気や周囲からの視認性などの定性情報も総合的に取り入れた上での判断を行うことが必要となる。 後者では、有識者の卓越した知見(定量化困難な背景も含む)をもとにオプションを比較、判断するケースなどが考えられる。

以上の「比較」のプロセスにおいて、"超"分析では、比較対象の特性を踏まえた上で、目的に整合する指標を選定しなければならない。

比較対象について、例えば、扱う商材が異なる営業社員の能力を測ることを考えた場合に、商材ごとの単価が大きく違わなければ売上額で評価することが可能だが、単価が異なる場合にはそうはいかない。そのような場合、バラツキの度合いが平均を中心に分布するようであれば、平均からの乖離を偏差値化して表す、そうでない場合には商材ごとの営業成績の順位で評価するなど、対象の特性を踏まえた指標の選定を行う必要がある。

目的と整合しているかどうかについて、例えば、家選びをする時に、自動車通勤をするのであれば勤務先からの距離が重要な指標になるが、電車通勤をする時には電車の便のよさのほうがより重要な指標となるなど、目的に応じて選定すべき指標が変わってくることに注意する。

ケースで学ぶ"超"分析の活用法

"超"分析の方法論についてはご理解いただけたと思う。ここからは、2 社の企業事例を見ながら、具体的な運用イメージやその効用を確認してもらいたい。

コカ・コーラ社*1、2のブランド拡充

1990年代から2000年代にかけて、日本では飲料に対する消費者の嗜好が多様化した。お茶、ミネラルウォーター等のカテゴリの売上げが大きく伸び、健康志向を反映して機能性飲料も伸びていった。

競争環境が激化する中、2007年コカ・コーラ社は調査手 法「コンシ ュ ー マ ー・ ベバレ ッジ・ ランドスケ ー プ(CBL)」に基づき、4409人を対象に飲料の消費実態調査を行った。調査は、「対象者の属性」 製品」 購入場所(販路)」 購入動機」 飲用場所・時間帯」 飲用量」 飲用時の気分」など約100 項目にわたる質問を行うという広範なものであった。

CBLの特徴は、ニードステーツという概念を導入し、顧客の飲料の購買動機を19に分類したことが挙げられる。ニードステーツにおける分類は、例えば、「気分一新」 栄養補給」 食事との相性」などのように、「なぜその飲料を買うか」にフォーカスしている。これらの動機は、購買する瞬間には明確に認識しているものの、購買後の調査では追跡することが極めて困難な要素が多く含まれている。このため、購買後に「なぜその商品を買ったか」を尋ねたり、消費者グループに商品についてインタビューをしたりといった調査では把握しきれない情報を捉えることができる。

この調査により同社は、消費者の購買時の心理状態をきめ細かく把握し、カニバリゼーションを避けつつ、ブランドのラインアップを拡充することに成功した。

例えば、2005年発売の「アクエリアス アクティブ ダイエット」は、基幹商品「アクエリアス」の販売数量を落とすことなくヒットした。前者は"体重管理"、後者は"積極的な補充"というニードステーツが強いことがその要因である。

また、「ノーカロリーコカ・コーラ」と「コカ・コーラ ゼロ」も、「カロリーオフのコーラ」というカテゴリに共存しながらも、前者が 20∼30 代女性を対象顧客としてスタイリッシュなイメージを、後者が 20 ∼ 30 代男性を対象顧客としてワイルドかつシャープなイメージを確立することで、すみ分けに成功している。

本事例における"超"分析のポイントは、2つある。1つ目は、分析対象範囲を「飲用後」から「飲用前(消費動機)」へとシフトさせたことである。これは、購買・消費行動プロセスの観点から行った、"状態的シフト"を伴う「俯瞰」である。

清涼飲料の消費者は、マスマーケティングの影響や、前回の購買時の記憶、知人からの口コミなど、様々な要素を積み重ね、購買の意思決定の材料としている。したがって、「飲用後」の調査では次回購買時に影響する要素のごく一部しか汲み取れない可能性が高い。そのような背景から、「飲用後」の上流プロセスである「飲用前」の調査に踏み切ったと考えられる。

2つ目は、消費者ニーズを"縦""横""斜め"に多量のサンプルをとり、細かく「分解」している点である。消費者のニーズを捉えるために、4000人強のサンプルに毎回飲料を購入する際の購買動機を事細かに聞くなどして、商品開発に多様な応用をきかせることができる具体的な打ち手の導出に成功している。

ブラウン社*3の新商品投入

1990年代の後半、ドイツのブラウン社は経営上の大きな岐路に立っていた。重要な市場の1つである日本において、1997年に松下電器産業(現パナソニック)から"水洗いできる"という革新的なシェーバーが登場した。これにより、長年シェアトップを維持していたブラウン社は、その年にシェアを逆転され、1999年には15パーセンテージポイントも差をつけられた(松下45%、ブラウン30%)。

そこでブラウン社は、洗浄可能なシェーバーの開発・市場投入を検討するプロジェクトチームを立ち上げる。しかし、それまでドライシェーバーのみを製造していた同社にとって、全く新しいものを開発することになるため、プロジェクトは困難を極めた。「技術的に何が最適か?(水洗いか、アルコール洗浄か)」シェーバーと洗浄機をどう売るか?(別売りか、セット売りか)」セット売りにした場合に、見栄えが不格好にならないか?」顧客や流通はそれを望むのか?」等々、答えを出すべきことが山積していた。

その中でも一番の難問は、洗浄可能なシェーバーの"清潔さ"に関する議論であった。ブラウン社内の多くの人たちには「洗浄可能なシェーバーは、細菌が繁殖しやすい環境を作り、悪臭も放つため不潔である」という信念があり、導入に反対していた。過去にドライシェーバーで築いてきた"清潔さ"という価値を失うリスクを負うことは難しかったと考えられる。

そこでプロジェクトチームでは、"清潔さ"を測るための指標を定義し、サンプルテストの結果を定量化することで、客観的な判断材料を用意しようとした。

具体的には、汚れを"剃りかす""細菌数(増殖率)"等に分解して比較・評価の指標とした。そして、モニター調査により、アルコール洗浄機で洗ったシェーバーとブラッシングしたドライシェーバーの汚れを調べて数値化した。

その結果、洗浄機で洗ったシェーバーは、ドライシェーバーよりも2∼7倍"清潔さ"が高いという結果が導き出され、新商品投入の社内的合意を得ることに成功した。

 

本事例は、"定性情報の量換算"による「比較」を表している。ポイントは、"清潔さ"という個人の感覚によって解釈の差が出る概念を、"剃りかす""細菌数(増殖率)"といったモノ、自然現象へと還元して「量換算」したことが挙げられる。

定性情報に対して、新たに指標を設定する場合は、説得する相手の関心にフォーカスする必要がある。「何が反対もしくは納得のポイントなのか?」についてを相手との議論の中で見極める必要がある。ブラウン社の例でも、プロジェクトチーム側は、反対者の真の理由が「細菌の繁殖、およびそれが引き起こす悪臭」であるということを特定した。そうすることで、関係者が納得する指標を設定して合理的な評価、意思決定につなげることができるのである。

ともすれば感情論や抽象的な議論に陥りそうな状況において、評価可能な指標を基に議論・判断した結果、新規アイディアを実現させて、シェーバー事業の再成長につなげることができた。

"ありがちな分析"にはまる「心理のワナ」

ここまで、超"分析を知識・スキルの面から見てきたが、今度は心理的な面から眺めてみたい。私たちは"超"分析を行うことの難しさは、知識・スキルの面だけではなく、心理的な障害によるところも大きいと考える。そこで、心理的障害を乗り越え、"超"分析を行うためのコツを、ステップごとに述べたい。

まず、「俯瞰」についてである。人には「自分自身がとれる打ち手」によって知らず知らずに思考範囲を縛られるというワナがある。例えば、「パソコンの長時間使用により目がかすむ」といった症状を持つ人に対して、眼科医は"身体"を対象に範囲設定し、生体的な原因を突き止め、薬を処方する。一方、システムエンジニアであれば、"パソコンの使用環境"に対して範囲設定し、眼精疲労を防ぐために、1時間おきに目を休めるようにポップアップのメッセージを出すなど、システムでの対応策をとることになるだろう。このように、それぞれ自分のとれる打ち手を検討範囲の暗黙の前提としてしまう。

ビジネスにおいても、「予算がない」他部署の協力を求めるのは難しい」などの個人の権限のレベルの制約条件が思考の枷となり、本来分析の対象とすべき範囲を見失ってしまうことも多い。

こういったワナを乗り越えるためには、立場の異なる人とのディスカッションや、自分自身での思考実験を通じて、思考の束縛条件を明確に認識することが必要である。「絶対に従うべき束縛条件」と考えていたものを「条件を外れるとデメリットも生じるが、それを上回るメリットがあれば外してもよい条件」という程度に相対化することができれば、範囲設定の自由度は大きく向上する。

次に、「分解」を難しくしてしまうワナとして、人間はある集合を定義した場合に、その集合を均一の性質を持つものと見なしがちな傾向があり、これが分解の切り口を見出しにくくしてしまうということがある("どうせ切っても同じもの同士になるのだから、切ってもムダ"と思ってしまうのである)。

おそらく、複雑な外界の多くの事象をよりシンプルに理解・把握するために物事をグルーピングし、「グループごとに特質を理解しよう」とする自然な心の働きが、対象への均一化した見方を生んでいるのではないだろうか。いずれにしても、自分自身で貼ってしまった「○○は××の傾向」というレッテルに抗って、新たな傾向が見つかる分解の切り口を探すのは至難の業である。

「細かく見たところで違いがない」との思い込みのワナを乗り越えるためには、集合の個々の要素をいくつかサンプリングして、生データに触れてみることが有効である。実際に生データを見てみれば、今まで同一だと思い込んでしまっていた集合の中にも、異なる性質を持つ要素が多く含まれていることを実感できるであろう。特に、想定していた傾向と異なる要素を見つけられたら、それが何に起因するのかをつぶさに観察することで、新たな「分解」の切り口のきっかけとすることができる。

最後に、「比較」の水準を高めにくくしてしまう心理的な背景としては、「結論ありき」の比較をしてしまうということが大きい。具体的には、「こういう結果になってほしい」という部署の都合や、上司や自分自身の思い込みなどを「比較」のスタート地点に置いて、「なってほしい結果を証明する」といったようなケースである。結論を証明したいと思うあまり、合理的に判断の妥当性を検証する(=意思決定の質を高める)という、分析の本来の目的を失ってしまう。

このようなワナへ対処するためには、自分たちにとって都合の良い側面だけを見ようとするのではなく、努めて多面的な情報を集めることが必要である。「上司の合意を得られるように」という狭い視野ではなく、経営の目、株主の目など、色々な目線を想定して、自分たちの主張があらゆる批判に耐えうるようにという意識を持って、情報を収集し、比較を行うことが重要である。

 

今回は、"超"分析の方法論を、事例を交えながら解説した。では、これらの技法をビジネスの実践に活かすにはどうしたらよいだろうか。

分析技術を身につけるためには、受け身の座学だけではなく、自分で考え、手を動かしてみることが何よりも重要である。そこで、次回からは毎回ケーススタディを展開していく予定である。ぜひ、積極的に頭と手を使い、スキルアップの参考にしていただきたい。

「売上げを上げる」第2回)、コストを下げる」第3回)、「業務効率を改善する」第4回)という事業活動の3つのシーンを題材とし、それぞれに特色あるケースを紹介していく予定である。

  • *1『日経 MJ』(2007年3月23日)
  • *2『日経情報ストラテジー』(2008年8月号)
  • *3"Braun:The Syncro Shaver(A )and(B)"(DesignManagement Institute)



<プロフィール>
小清水  大 (こしみず・だい)
京都大学工学部卒、同大学大学院工学研究科修了。 国内事業会社(インフラ設計関連)を経てA.T. カーニーに入社。 エネルギー、化学、物流、小売業界を中心に、全社戦略(グループガバナンス、シナリオプランニング、ポートフォリオ戦略、中計策定支援)、事業戦略、オペレーション改革等を支援。


兼松  浩介 (かねまつ・こうすけ)
A.T. カーニー アソシエイト(本稿執筆時)
1978年米国ノースカロライナ州生まれ。2003年東京大学教養学部(国際関係論)を卒業し、A.T. カーニーに入社。金融、IT、エンターテインメント、自動車、ケミカル等の業界に対する全社戦略、新規事業戦略、営業改革、業務効率化、コスト削減等のプロジェクトを手がけている。

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