「連想力」
クリエイティブな発想力を高める思考法


 クリエイティブな人の思考法には、1つの特徴がある。
連想することが早く、うまいのだ。
そしてこの連想は、コツさえわかれば誰にでも使いこなすことができる。
本稿では、ビジネスで特に有効な連想の3 つのパターンを紹介する。

連想力とは

クリエイティビティを発揮するには、感性や発想力など生まれ持った第六感的な何かが必要と感じている人が多いかもしれない。実際、天性の感性や発想力といったものを持ち合わせた稀有な人がいることは事実であるが、クリエイティブな人の思考法をよく見ると、もう1 つ大きな特徴があることがわかる。それは連想することが非常に早く、そしてうまいことである。

皆さんもご存じのとおり、連想とは1つの物事から何かしら関係性のある別の物事を発想することであり、ある種の思いつきの域を出ないように聞こえる。しかしながらクリエイティブな人は、意識的か無意識的かは別にしても、連想を非常に体系立てて活用している人が多い。筆者自身も経営コンサルティングという仕事を通し、クライアントの経営課題を解決するにあたり、より斬新な切り口を検討するときや、アウトオブボックスなアイデアを必要とするとき、客観的に課題を見つめるときなど、体系立てた連想を活用している。

体系立てた連想の魅力は、天性の才能にかかわらず努力することで誰にでも習得が可能であること、また明日からでも練習を開始できることである。連想を体系立てて活用できるようになると、日常の何気ない生活や趣味の時間などに、自らが仕事をするうえでのヒントが落ちていることに気がつく。そしてそうした物事から触発され、柔軟な発想力を身につけることができると考える。本誌の特集テーマであるクリエイティブシンキングの第一歩として、今回は体系立てた連想とそれを高めるコツを紹介していきたいと思う。

連想のパターン

体系立てた連想を行ううえで何よりも重要となってくるのは、連想にはパターンがあることを認識することである。連想と聞くと無秩序のように聞こえる人もいるかもしれないが、実は3つにパターン化することができる。1つ目は同じような業態特性を持った事象間での「業態連想」、2つ目は同じ目的を持った事象間での「目的連想」、3つ目は同じような環境に身を置いている事象間での「環境連想」である。この連想のパターンを意識し、日々練習を行っていくことが、連想力を使いこなす最短の道筋であると考える。以下ではこれら3つの連想パターンに関して、それぞれ事例を交えて、活用のイメージを掴んでいきたい。

パターン①:業態連想

業態連想とは、先に記したように同じような業態特性を持った事象間での連想である(図1)。例えば、読者の方々が30名ほどのメンバーの組織の長であると仮定して「組織マネジメント」という課題を考えてみよう。組織マネジメントには企画立案、役割分担、業務管理など多様なことが求められるが、日ごろの業務に埋没していると斬新な切り口で捉えることが非常に難しくなるのが常である。ここで、業態連想を活用して思考の切り口を発見してみたい。

業態連想のステップであるが、はじめに課題の業態分析を行い、次に同じような業態特性を持つ事象を連想し、最後にそこから示唆を得るというステップになる。まず、組織の長として置かれている業態特性を考えると、中規模組織であることに加え、企画、管理、事務など多様な能力を保有する社員を束ねる組織ということが見えてくる。次に、同じような業態特性を持つ他の事象の連想であるが、例えば、プロサッカーチームとその監督の役割は近しい事象である。ご存じのようにプロサッカーチームはフォワード、ミッドフィルダー、ディフェンダー、ゴールキーパーと多様な役割を担う総勢20∼30名の選手から構成されており、欧州のトップリーグなどになると国籍もバラバラの集団である場合が多い。それを束ねる監督はまさに組織の長の責任が問われている。

具体的には、チームの目標設定、勝つための戦術選択、コーチや選手の役割分担、個々人の動機付けなど、学ぶことが非常に多い。例えば、戦術とは試合の勝ち方であるが、詳しく見てみると、攻撃の動き/守備の動き/攻守の切り替えの動き、ボールを持ったプレイヤーの動き/周辺プレイヤーの動き、ゴール前までのビルドアップの仕方/最後のゴールフィニッシュの仕方、など多様な切り口で議論されていることがわかる。自分たちより強く攻撃的なチームと戦う場合には、こうした多様な切り口を通して、「相手の良さをどのように消すか、相手の攻撃をいかにして寸断するか」や「数少ないチャンスをどう生かすか、そのために攻守の切り替えスピードや効率的なカウンターをいかに仕掛けるか」といったことを検討していくことになる。競合他社の攻勢に対する対抗策の企画・検討は、厳しい市場競争に直面している組織の長にとっては常に課題であり、こうした業態連想が新たな視点を提供してくれると考える。

また、監督、コーチ、キャプテンの役割分担も、組織マネジメント上に示唆深いと思われる。特に、サッカーチームでは必ず監督、コーチ以外に、選手を代表するフィールドキャプテンという存在を置いている。その役割は様々であるが、主に監督と選手間のブリッジ、選手たちの統率と牽引、フィールド内での状況判断などが重要な役割を占めている。管理側と執行側の関係と役割分担は、あらゆる組織における普遍的な課題であり、組織の長として業務管理を行う際の視点としても重要となってくることが多い。サッカーにおけるフィールドキャプテンの機能を今の組織で誰がそれを担っているのか、その役割が明確でない場合に誰を充てるとよいのかといったことを再考する切り口になる。

業態連想

パターン②:目的連想

次に目的連想である(図 2)。目的連想とは、一見全く違うアプローチに見えて、同じ目的を目指す事象間での連想である。例えば読者の方々が新商品開発の担当者であると仮定して「自然派食品あるいは消費財の新規開発」という課題を抱えているとしよう。食品や消費財の新商品開発の場合には、顧客のニーズ分析、業界のトレンド分析、競合他社との差別化、自社が過去に出してきた商品との差別化などの基礎的な分析がまずは求められるが、クリエイティブな方々はより柔軟な考え方で目的連想をしている場合が多い。こうした目的連想のステップを分解してみると、はじめに課題の目的を設定し、次に同じような目的を持った他の事象を連想し、最後にそこから示唆を得るというステップになる。

まず、今回のケースの目的を考えると、自然派というキーワードがあげられる。その背景には、食品を食する、あるいは消費財を活用することで、顧客がより健康になる、癒されるといった目的が隠れていることがわかる。次に、同じような目的を持つ他の事象の連想であるが、健康や癒しというキーワードに着目して、色々な前提条件を取り払うと非常に多岐にわたり連想が可能になる。

例えば、旅行を癒しの目的で行う人が多い。あるいは音楽を聴くこと、植物を見ることなどを趣味として取り入れている人もいるであろう。さらにはヨガ、瞑想法、呼吸法などを健康や癒しのために取り入れている人は、企業の経営陣などにも多い。これらは、必ずしも食品や消費財と関係のないものではあるが、人を健康にする、あるいは癒しを与えるという共通の目的に対して異なるアプローチをとっている商品やサービスであり、そのアプローチや考え方などから柔軟な示唆を得ることが可能であると考えられる。

また、音楽や植物などを分析していくと、人が健康や癒しを感じる色(視覚)、匂い(嗅覚)、音色(聴覚)があることがわかってくる。健康や癒しというのは、五感全てで感じるものであり、そうした要素を食品や消費財などの新商品開発などに役立てていくことは可能であるし、実際そうした開発がなされているケースもある。また、呼吸法などからも示唆を得ることは可能である。呼吸法の生理学的な効果などは本稿では省かせていただくが、呼吸法の価値を分析してみると、1日1回自分を見つめる時間を作ること、呼吸を通して体のリズムを整えること、呼吸に集中することで日中忙しい頭を空にする瞬間を作ることなど多様な要素があることがわかる。こうした分析から浮かび上がってくる、自己を見つめる、体のリズムを整える、頭を空にするといったキーワードは、食品や消費財などの新商品開発などを検討していく際の切り口に活用することができると考える。

パターン③:環境連想

次に環境連想である(図3)。環境連想とは、同じような環境に身を置いている事象間での連想である。例えば昨今話題となっている「日本の外交戦略」という課題を考える際に、環境連想を活用してみたい。まず環境連想のステップであるが、はじめに課題の環境分析を行い、次に同じような環境下にある他の事象を連想し、最後にそこから示唆を得るというステップになる。環境連想は業態連想や目的連想以上に、最初の環境分析をきちんと行うことが大切であり、その分析自体もやや難易度が高いため、詳細に事例を記載してみたい。

まずは、日本の外交戦略が置かれている環境分析を行うと、いくつか大きな特徴があることがわかる。1つ目はグローバル化の進展による新世界の出現。1990年代から2000年代にかけて進展した市場、人材、資本などのグローバル化は、全く新しい世界を作り上げてきた。2つ目はBRICsと呼ばれて久しい新興大国の出現。特に地理的に近い中国とロシアの動向は外交情勢を緊迫させている。3つ目は日本社会の成熟。高度経済成長期、その後の経済停滞期を経て、今の日本は人口の減少と高齢化の進展に直面する一方で、経済や文化においては成熟を極めつつある。

次に、同じような環境下にある他の事象の連想であるが、例えば、中世ヨーロッパに栄えたヴェネチア共和国は非常に参考になると考えられる。ヴェネチア共和国は地中海貿易で1000年以上栄えた中世を代表する国家であるが、その後期に置かれた環境は今の日本に似ている点がある。新世界の出現という点では、当時はアメリカ大陸が発見されたことで様々なものがヨーロッパに輸入されるようになり、世界の中心が地中海から大西洋へとシフトした時代であった。新興大国の出現という意味では、当時のヨーロッパでは長年にわたる小国の争いが集結し、オスマントルコ帝国およびフランス帝国といった新興大国が出現しており、領土拡大や経済発展を戦略的に進めていた。そして社会の成熟という点では、地中海貿易の結果として、当時のヴェネチア共和国は複数の文化が織り交ざる稀有かつ高度な文化的発展を遂げていた。このように、今の日本と当時のヴェネチア共和国が抱えていた環境というのは、いくつかの点で非常に似ており、加えて両者が共に国際貿易により経済発展を遂げてきた経緯を踏まえると、その環境の類似性はさらに高まることがわかる。

示唆の導出となるヴェネチア共和国の外交戦略分析に関しては、多数の書籍などにも記載されているため本稿では割愛させていただくが、最終的にヴェネチア共和国はナポレオン率いるフランス帝国によって占領され、その長い歴史を閉じることになる。当時のヴェネチア共和国がとった外交戦略を学ぶことは、今の日本の外交戦略にとって良い点・悪い点双方から学びが深いものと考えられる。

環境連想

連想力を高めるコツ

①:連想の「格」を意識する

ここまで連想のパターン認識と体系化の方法を紹介してきたが、より筋の良い連想を行ううえで肝として押さえておくべきなのが、連想をする際に「格」を意識することである。例えば、業態連想の項で扱った組織マネジメントの場合は、組織の大きさが1つの「格」である。30名の組織課題を考える際に、家族などの小さな組織から連想することも可能であるが、人数の違いによる相違が必ず出てしまう。同様に環境連想で扱った日本の外交戦略では、国家という規模感や責任の大きさが1つの「格」であると考えられるため、歴史上の国家あるいは同等の「格」を持つグローバル企業などが連想先として筋の良いものになると思われる。

仮に「格」が違う事象間での連想を行ったとしても良いアイデアや発想を見出すことができることもあるが、「格」を揃えるということは安定して筋の良い連想を行ううえでの前提条件であると考えられる。加えて、副産物的には連想をもとに考えた自らのアイデアや切り口などを他人に説明する際、あるいはプレゼンテーションする際に、信用力としてアイデアを支えてくれるという側面もある。

②:ミーハー+オタクで「T字」に情報収集する

加えて、連想力を高めるためには、その源となりうる情報(知識や経験)をデータベースとして蓄積させていくことも重要である。その際、自らのデータベースが「T字」となるよう心がけることが大切である。

「T字」というのは、ミーハー的に様々な情報に興味を持つこと(T字の)と、オタク的に深く知っている分野を作ること(T字の)をあわせて行うことである。広さと深さのどちらかに偏ってしまうのではなく、それぞれを意識して自分自身の中にデータベースを構築していくことが重要である。

T字のを収集していく活動としては、様々な本やニュースに目を通すといった方法以外にも、異業種の人たちと交流する、色々な国を訪れる、余暇を充実させるなど好奇心旺盛に新しい物事を探していくことが重要である。この際、読者の方々にぜひ意識していただきたいのが、知識を増やすのではなく体験や経験を増やすことである。体験や経験というものは知識と違い無意識の中にも残るものであり、体が覚えているものである。連想法の究極の姿もまた、無意識から筋の良い連想ができることにあると考えると、無意識の中にどれだけの情報を持てるかが重要になってくると筆者は考えている。

他方、T字のに関しては、趣味や生活など何でもよいので仕事以外にもう1つ打ち込む世界を作ることが大切である。欲を言えば、歴史の長さがあるものや関わる人が多いテーマに打ち込めるとより良いと考える。なぜならば、そのようなテーマは取得可能な情報量が多く、多くの議論がなされているため、結果として深みのある世界を体験することができる可能性が高いからである。筆者の場合は前述のヴェネチア共和国やローマ帝国などヨーロッパの文明史に非常に興味を持っており、時代背景、成功と衰退の歴史、皇帝のリーダーシップ、多文化/多宗教を束ねる統治体制、戦場における主導権確保など色々な角度から本を読み、人と話し、遺跡を見てきた。こうした知見は日々の経営課題解決の場においても連想しやすく、新たな発想の着眼点にも役立っている。

③:今日から始める

3つ目のコツは、今日から始めてみることである。例えば、今日読んだニュース、立ち読みした雑誌、閲覧していたサイトなどから、何でもいいので1つ自分の仕事への示唆を見出してみよう。そして数日かけて、業態連想、目的連想、環境連想を一通りやってみていただきたい。回数を重ねていくことで連想の感触を得ることができると思う。また、仕事やプライベートを通して出会った人との会話で、斬新な発想や鋭いアイデアなどに接する機会があったら、なぜそうした発想が出てきたのか、その背景にある連想を見つめてみる、あるいは議論してみることも大切である。

おわりに

今回は体系立てた連想とそれを高めるコツを紹介してきた。冒頭に記載したように、連想は天性の才能にかかわらず、努力することで誰でも習得が可能なものである。意識的に練習を重ねていくことで、連想力が身につき、いずれは無意識に連想を活用し、発想豊かなアイデアを導けるようになると思う。ぜひ今回ご紹介した連想力を皮切りに、クリエイティブシンキングを身につけていただきたいと思う。

<プロフィール>
石田 真康
東京大学工学部卒業。 ハイテク・IT業界、自動車業界などを中心に、全社戦略(中計策定支援、ポートフォリオ戦略、シナリオプランニング)、事業戦略、R&D戦略、オペレーション改革等を支援。
主要メディアへの執筆のほか、日経Automotive technologyやJMC(日本機械輸出組合)などで自動車・機械・電機メーカーを対象とした講演・セミナー多数。政府系機関のワーキンググループ委員等。
ITmediaにコラム 「宇宙ビジネスの新潮流」 を連載中。
著書に「電気自動車が革新する企業戦略」(共著、日経BP社、09年)

 

(「Think!」(東洋経済新報社) 2011年1月21日号)

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