“想い” を実現するためのまとめる力


コンサルタントが成長し、次のステージに進む上で必要とされる力は、
分析結果を戦略として昇華して“まとめる力 ”だ。
そしてこの力は、コンサルティング・プロセスのみならず、
個人や企業がやりたいことを形にする上でも必要な力である。

今求められている“まとめる力”

企業 活動において重 視される能力が、知識や専門性を生かした「論理的思考能力」から、異なる考えや価値観を 1 つの世界観に収斂させる“まとめる力”にシフトしています。そしてこのことはコンサルティングにおいても同様で、雑多な分析結果を 1 つの戦略にまとめ上げる“まとめる力”がますます重要になっています。

本稿ではコンサルティングのプロセスをいくつかのステージに分解しながら、それぞれのステージでどんな“まとめる力”が必要なのか、陥りがちな罠にも触れながら、議論を進めていきます。

多くの先進市場が成熟期を迎え、需要の低減に企業は苦しんでいます。これは人口成長が鈍化している上に、単一機能領域が高度に発展を遂げ、進化余地が限られてきたためです。

こうした環境で新たな市場を切り開くには、すでに進化した機能を組み合わせ、新しい体験や世界観を創造するしかありません。付加価値もこうした融合領域にシフトしています。

こうした融合領域では、ただ単に機能を組み合わせるだけでなく、新たな次元に飛躍するような創造性が求められます。たとえば iPhoneは、ケータイにブラウザとカメラと音楽プレーヤーを組み合わせたものといえますが、単に個々の機能をつなげただけではありません。使い心地(Look & Feel)を統一し、これまでにない、まったく新しい体験を生み出す世界観を提示しています。

世の中の動きがこうした流れにあるなか、コンサルタントに求められる力も、専門性を生かした科学的分析力から、いくつかの分析結果を戦略にまとめ上げる“まとめる力”にシフトしています。通常のプロジェクトでは、個別の専門性を持ったコンサルタントが複数人集まり、チームとしてコンサルティングを進めますが、分析結果を戦略にまとめ上げるのは、プロジェクトを統 括するマネジャーの役割です。

コンサルタントがキャリアアップする上での難所の 1 つが、この「分析結果を戦略としてまとめ上げる」マネジャーの壁です。多くの若手コンサルタントがこの壁を越えられず苦戦しています。この壁を乗り越えるには、単に論理的思考能力だけではなく、斬新な視点や新たな発想といった創造力が求められるからでしょう。

コンサルティング・プロセスと“まとめる力”

標準的なコンサルティング・プロセスでは、図表 1 に示すような 6 つのステージを経ます。

 

  • 「分析」…情報を集め“意味”を導出するステージ
  • 「俯瞰」…集まった意味情報を全体的に鳥瞰するステージ
  • 「構造化」…意味情報を表層と基盤に分け整理するステージ
  • 「結晶化」…解決策を深く考えまとめるステージ
  • 「現実化」…得られた解決策を現実に適合化させるステージ
  • 「伝達」…個々のステークホルダーに響くよう表現をカスタマイズするステージ

 

コンサルティングでは、このうち「俯瞰」 構造化」 結晶化」の 3 つのステージで“まとめる力”を発揮する必要があります。本稿では、この 3 つのステージに絞って、話を進めたいと思います。

それではここから、仮想事例として「苦戦が続く日本の携帯端末メーカーがiPhone 対抗戦略を策定する」という場合を想定して、どのような“まとめる力”が必要になるのかを考えてみることにしましょう。

図表1 コンサルティング・プロセス

俯瞰ステージ

携帯端末の事業戦略を策定する場合、一般的に最初の「分析」のステージでは、ユーザーのニーズ分析、競合の動向調査、技術動向調査、競合と自社のコスト構造分析などを行います。続く「俯瞰」のステージでは、これらの情報を全体的に鳥瞰し、携帯端末事業環境の全体像を把握します。この俯瞰ステージにおいて大切なのは、「できるだけ広く捉えること」と「補完する力」の 2 つです。

携帯端末の事業戦略を考える場合、ともすると、 ケータイユーザーのアンメット・ニーズ(まだ満たされていないニーズ)はどこか」 こうしたニーズは自社の技術でどこまで充足できそうか」といった目の前の課題にとらわれがちです。しかしアップルに大きく水をあけられた日本メーカーが、こうした近視眼的な視座で彼らに対抗することができるのでしょうか。

俯瞰ステージでは、当該事象の外側に注目することが大切です。次世代携帯端末のあるべき姿を考えるためには、たとえば「今後、社会がどう変わるか」「こうした社会変化の下でケータイの果たす役割はどう変わるか」といった視座で考察してみる必要があります。視座を高めると新たなイメージが湧いてきます(図表 2)。

図表2 視座を高めると新たな世界が見えてくる

この俯瞰ステージでもう1 つ大切なのは、「補完する」ことです。煩雑な情報を整理し始めると、情報の欠損があることに気づきます。そして論理的思考能力の高い人ほど、この情報の欠損部分が気になり、必死になって欠損情報の収集に注力してしまいがちです。しかし、将来に向けての事業戦略を考える場合、すべての情報が事前にすべて集まることなどありません。ある程度情報が集まったら、欠損部分にとらわれずに思い切って全体像を俯瞰してみることが必要です。1000 ピースのジグソーパズルで 300 ピースしかなくても、思い切って全体像を想像してみる大胆さが重要です。

このとき、大切なのが「パターン認識力」です。複雑多様な事象を何らかの根本的なものに置き直し、特徴を抽出する考え方です。たとえば多くのピースが欠損しているジグソーパズルがあり、出来 上がりの絵が馬か 牛かわからなかったとします。サラブレッドか農耕馬かを見極めるためにはもっと多くのピース(情報)が必要かもしれませんが、馬か牛かは限られたピースでも判断がつきます。馬であれば 動力源になるし、牛であればミルクが栄養源となる。活用先が大きく違うので、その区別さえつけばよいのです。

携帯端末事業の将来構想を考えるような場合も同様でしょう。「競合の技術情報が入ってこない」 参入予定の販路の意向がはっきりしない」など見通しが不明瞭な状況が続くことはよくありますが、限られた情報の間を補完して全体像を大まかに俯瞰し、 高付加価値製品で攻めるのか」 新興国並みのローコスト商品で勝負するのか」などの大方針を決めていく必要があります。

俯瞰ステージで陥りがちな罠は「安直な解」です。欠損情報の充足に時間を取られ、俯瞰以降のプロセスに十分な時間が割けなくなり、いきなり現実解にジャンプしてしまうパターンです。こうした「安直な解」の特徴は、10 個の課題に対し 10 個の解決策が提示されることです。解決策が、いわば対症療法の寄せ集めであり、症状の緩和には役立ちますが、抜本的な課題解決に何ら結び付きません。

P・F・ドラッカーは「大小さまざまな事業上の問題のほとんどが、全体を全体として把握しない限り、解きようがない問題である」と言っています。欠損情報の充足も大切ですが、全体を俯瞰するのに時間を割くことはさらに重要だと心すべきです。

構造化ステージ

「構造化」のステージでは、俯 瞰ステージで全体像に基づき集めた情報を整理します。このステージで大切なことは 2 つあります。「普遍的なものと動的なものを仕分ける力」と「求心軸を見つける力」です。

変化の激しい時代では、変化に対する耐力に着目することが大切です。たとえば携帯端末事業を構想する場合、デザインやブランド、技術方式や価格や販路など多岐にわたる事業要素を設計し選択する必要があります。しかしこれらの事業要素を「変化に要する時間」という視点で見てみると、3G やLTEといった技術標準は標準化検討期間が10 年を超えるのに対し、パネル部材に液晶を使うか有機 ELを使うか、パネルサイズはどうするかといった事象は半年ごとに流行が変わるなど、大きく異なることがわかります。ユーザーの嗜好は半年ごとに変わりますが、ブランドは、そのメッセージがユーザーに認知されるまでに相当の年月がかかります。事業構造を構想するときは、時間軸に対して何が普遍的で、何が動的かに注視することが重要です。

構造化に迷ったとき、筆者が常に参考にするのはコンピュータソフトのモジュール設計の考え方です。職人的に作り込まれたプログラムは、非常に少ないコードで多くの機能を実現しますが、あまりにも現状に最適化されているため、外部環境が変化すると多くのモジュールに手を入れなければなりません。

優れたプログラマーが書いたコードは一見冗長に見えますが、将来の変化を見越して普遍的なものと動的なものが仕分けられているため、実際に環境変化が起こった場合でも、手を入れなければならないモジュールが局所化され、環境変化に柔軟に対応できます。事業のアーキテクチャーもこうありたいものです(図表 3)。

図表3 優れた構造(アーキテクチャー)と劣った構造

また、情報の構造化を進めるには、類似の情報を類別していくわけですが、このとき重要になるのは、情報の外面ではなく内面に着目すること、情報を集合化する「求心軸」を見つけることです。

商品企画を進めるとき、よくユーザーのニーズ分析が行われますが、ともするとユーザーの外面(デモグラフィックス)、たとえば性別、年齢などに従って類型化して分析を進めがちです。しかしユーザーの本質的なニーズは、こうした外面の変数より、行動様式(外向的か内向的か)とか嗜好(ゲーム好き、スポーツ好き)といった内面の特性に強く相関します。情報を類型化する段階では、こうした内面の特性に着目し整理していくことが重要です。

こうした動きは、消費財のみならず、インテルなどのハイテク産業にも見られます。インテルは従来その商品戦略を、デスクトップ、ラップトップ、携帯電話などの完成品市場(外面)ごとに策定していましたが、近年ではむしろ製品の使用用途(usage)や 利用シーン(内面)に着目し、利用シーンごとに商品戦略を策定するようになってきました。たとえば、ラップトップ用部品は、従来はデスクトップ用部品とともにパソコン用部品として一緒に商品戦略が練られていましたが、最近はモバイル(移動)という利用シーンに着目し、ラップトップも携帯電話と同一の事業部で開発するようになりました。

構造化ステージで陥りがちな罠は、精緻な分類にこだわるあまり、考え方が 硬 直化する「分類学の呪 縛」で す。市場成長期においては事業構造も比較的直線的で、構造化プロセスも何が幹で、何が枝か、逐次的に考える(まず幹を決め、枝を増やす)のが一般的でした。

しかし現在のような低成長期では、市場の変化に機敏に対応する柔軟な事業構造が求められ、その考察プロセスもパン(俯瞰)とフォーカス(注視)を繰り返すようなトライ&エラー型に変えていかなければなりません。イメージとしては濾過(フィルタリング)が近いでしょう(図表 4)。大きな攪拌機に集めた情報を入れ、ゆっくりかき回すと、世の中の変化に普遍的な情報が沈殿し、変化に左右されやすい情報が上のほうに浮かんでくる。浮かんだ情報は、いくつかの価値軸を中心に自然に集まり、いくつかの“価値の白玉”となって浮かんでいるようなイメージです。こうした濾過のプロセスを何度も繰り返し(トライ&エラー)、世の中の変化があった場合に波及する箇所が特定できているか、思考検証を飽きずに続けることが大切です。

図表4 情報の構造化は濾過をイメージする

結晶化ステージ

「結晶化」のステージでは、構造化した情報を 1 つの構想や世界観にまとめ上げます。ここが全プロセスの最大の難所です。結晶化とは炭素をダイヤモンドにするプロセスであり、高温(多様な議論)と高圧(“想い”の練り込み)が必要となります。

「多様な議論」は、いろいろなものとぶつけ合いながら概念を磨き上げるプロセスと言い換えることができるでしょう。競争優位を生むような事業構想をまとめるには、新しい視座や斬新な発想が必要です。こうした発想は異種とのかかわり合いから生まれます。アップルの多くの製品のデザインを手掛けたデザインハウスのIDEOでは、コンセプトメーキングのプロセスにおいて、10 の役割を持つ人を集め議論を繰り返すそうです(図表 5)。

図表5 イノベーションには多種多様な人との討議が大切(IDEO の例)

そして結晶化ステージの最後は、自分の“想い”を込め純度を高める、いわば魂の吹き込みプロセスとなります。このためには自分の強い“想い”を持つ必要があります。これを支えるのは、自分の美意識です。自分の美意識に従い、構想を磨き上げていくことになります。

こうした美意識を磨く近道は、良いものをたくさん見て、なぜ良いか意識化することです。たとえば、人は美しい風景を見たら写真を撮りたくなります。最近のデジカメはすべてが自動化されていますから、シャッターを押すだけで素晴らしい絵はがきができます。しかしなかなか人の心を打つ写真にはなりません。これは、俯瞰のステージからいきなり現実解のステージへジャンプする「安直な解」だからです。美しい風景を見たら、なぜ自分が惹かれたのかを考える。その“想い”を人に伝えるにはどう写真を撮ったらよいか考え、アングルや露出などを工夫しながら何回もシャッターを切る。こうして“想い”を練り込んでいくと、写真は絵はがきから表現芸術になり、優れたものは永遠の命を持ちます。

事業戦略もまったく同じです。ベストプラクティス分析はずいぶんと普及し一般化したため、最近では言及されることが少なくなってきましたが、 想い”を磨くためには最も有効な手段です。同業他社のベストプラクティスをただ形だけまねてもうまくいきません。それは「安直な解」だからです。同業他社のベストプラクティスはどこが優れているのか、なぜそうした発想が出てきたのかを深く洞察し、自社が置かれている環境に置き換え、自社が答えるべき問いを正面から見据え、自社の“想い”が実現できそうか事業構想を何度も練り直せば、大きく世の中に貢献できる事業体に成長することができます。

このステージで陥りがちなのは、「私はこう思う!」との自分の“想い”のみが前に出過ぎ、独りよがりになってしまうことです。事 業 構想をまとめるには、自分の“想い”だけではなく、客観的な市場の“科学”と、ユーザーに響く“共感”の 3 つがバランスすることが必要となるのを忘れてはいけません。

この後の「現実化」のプロセスでは、まとめた事業構想を現実に即した形に適合させることが必要です。いわば構造化のプロセスで濾過したノイズを戻す作業です。ここでは論理的思考能力ではなく経験が求められ、コンサルティングではシニアなメンバーが担当します。

そして次の「伝達」のプロセスですが、どんなに素晴らしい構想も、関与する人々に伝わらなければ意図どおり実行されません。それぞれのステークホルダーに意図が伝わるよう、表現をカスタマイズしていくことも重要です。ここでも論理的思考能力よりも経験が求められ、コンサルティングではシニアなメンバーが担当します。

最も重要なのは自分の“想い”を持つこと

こうしてコンサルティング・プロセスにおける“まとめる力”を見てくると、いくつかの要件もさることながら、結局、自分の“想い”を強く持つことがいちばん大切であることがわかります。多くの日本企業がグローバル競争で苦戦を強いられていますが、その原因は、個々の要件の充足や論理的正解を求めるあまり「自分は何をやりたいのか」 達成したいことは何か」といった自分の“想い”が弱くなっていることにあるのではないでしょうか。

企業人のキャリアアップは“想い”の強さで測ることができます。「与えられた仕事をこなすのに精いっぱい」の“雇われ(ヒラ)”ステージから、「どうせ仕事をするなら少しでもうまくやろう」という“カイゼン(管理職)”ステージに上がり、さらに「与えられた仕事だけではなく、やるべきことを自分で探す」 事業部長”ステージに上がり、最後は「やりたいことをやる」 経営者”ステージに上がっていきます。

法人もまったく同じで“自転車操業”のステージから、現状の事業領域でひたむきに生産性を向上させる“カイゼン”のステージを経て、主体的に事業領域を見つけていく“高収益企業”になり、最後は法人として「やりたいこと」をやる“社会に貢献する企業”になっていきます(図表 6)。

筆者は最近、グローバルに活躍する部品メーカーの戦略策定をお手伝いする機会がありました。同社はその主要製品においてグローバル・ナンバーワンのシェアを持つリーディング・カンパニーでしたが、人員削減に追い込まれてしまいました。理由は、複数の大手メーカーの下請けのポジションからいつまで経っても脱却できないからです。法人のステージでいえば“カイゼン”のステージにとどまったままということになります。

いたずらに現状の事業領域に安住せず、自ら新天地(やるべきこと)を探しに行き“高収益企業”をめざしていただきたいですし、最終的には法人として「やりたいこと」をやりきって、 社会に大きく貢献する企業”になっていただきたいと切に思います。

米国の著名なコンサルタントであるダニエル・ピンクが、グローバル競争が激しくなるなかで企業人に求められる能力は何かを深く考察した著書『ハイ・コンセプト』 三笠書房)のなかで「これからは日常的な出来事について目的や意義を追求する能力が大切になる」と述べています。読者の皆様も、現状にとどまることなく“自分の「やりたいこと」は何か”を問い続けていただければと思います。

図表6 個人も法人も自己実現(「やりたいこと」をやる)が最終ゴール

<プロフィール>
山本 直樹 (やまもとなおき)

慶應義塾大学理工学部卒業、マサチューセッツ工科大学スローンスクール卒業(MS in management of technology)。
日立製作所事業開発部門を経て、A.T.カーニー入社。ハイテク、通信・メディア業界を中心に、「技術」と「事業」の橋渡しを一貫したテーマとして、成長戦略、国際提携戦略、R&D戦略、事業戦略、技術戦略などを支援している。

 

(「Think!」(東洋経済新報社) 2013年1月25日号)

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