ビジネセスの推進力を身につける
「戦略的構造化」のスキル

「戦略的構造化」力とは何か

筆者は現在、経営戦略コンサルタントとして、M&Aからオーガニックな成長まで、様々な企業戦略の立案・実行支援に携わっている。一見格好良く聞こえるかもしれないが、実際は、絶えず頭を高速回転させつつ、同時に脳みそに深く皺をよせて多面的にモノゴトを考え抜く、きわめてエネルギーのいる地道な仕事である。

この仕事の質を決める根本的な能力、即ち“私の仕事のコアエンジン”は、「モノゴト・課題を戦略的に構造化する力」だと考えている。とはいっても筆者は、大学時代は体育会系主将として運動に明け暮れる日々で、社会人になる際には典型的な右脳系・感情系のビジネスパーソンで全く優秀な部類ではなかった。その後10年間の商社マン時代およびMBA留学時代を通して基本的な計数的・論理的なビジネススキルを身につけたが、依然自分を支える本質的なスキルセットは“情熱”であり続けた。情熱は基盤として絶対的な必要条件であるが、企業や仕事の課題を最もインパクトのある打ち手で解決するには「課題の戦略的な構造化」こそが肝になる─そう確信したのは戦略コンサルタントになってからだ。その確信から筆者は「構造化を生業とする人」として、自身を“ストラクチャリスト”として商標登録し、一コンサルタントである上にさらに“戦略のプロ”としての意識を高め、日々質の高い仕事を自身に課している。

読者の皆さんに「戦略的構造化」力の養成を訴えたいのは、実はこの能力が、企業の課題解決だけでなく、社会・文化・個人に至るあらゆる課題・事象に適用できるからだ。皆さんが、自身を取り囲む課題を、少しずつでも意識的に「構造化する」ことを心がけることで、より確実に前進する行動に結びつき、日々の仕事・プライベートに好循環が起こり、生活を劇的に面白く変化させることができる。

では、「戦略的構造化」とは何か。筆者はこれを「ある事象や課題を『意味のある軸』で分けて平面的・立体的に捉え、課題の因果関係を探り、鍵となるドライバー(要因)やパラメータ(根本要素)をあぶり出して、優先順位を付けること」と定義している。「意味のある軸」と書いたとおり、構造化して抽出するのは、限られたリソースを投下して施策を打つことができ、実際に変革が起こるドライバーやパラメータでなくてはならない。つまり、目指すのは、単にフレームワークを当てはめたりMECEに分けたりすることではなく、実際にインパクトを起こすための「戦略的」な構造化である。

企業戦略コンサルティングの現場で求められる構造化は、様々に影響しあうパラメータを立体的に捉える高度な技術を要するが、まずはその基本を押さえよう。基本的な軸は、数式、規模、種類、要因、新旧、時間、プロセス、地域、方角などのように、定量と定性(=性質の軸)」か「時間と空間(=つながりの軸)」に大別される(図1)。

それでは、基本編として、この中の2つの軸を例に取り、構造化の例を見ていこう。ここではまず、表面的に事実を押さえることの意味を掴んでいただきたい。

因果関係を探り、鍵となるドライバーやパラメータをあぶり出し、立体的に捉える。
モノゴトを戦略的に構造化するスキルは、戦略思考や仮説思考の根幹をなすスキルである。
それと同時に、仕事のストレスから自らを解き放ち、
ビジネスリーダーに欠かせない人間的魅力を身につけるパスポートでもある。
“ストラクチャリスト®”が、戦略的構造化」のアプローチと魅力を存分に語る。

図1 構造化する際の代表的な基本軸

基本編① 数式で考える

Aさんは、残業の多い若手ビジネスパーソン。毎朝、疲れが残った体で7~8時発の電車に乗り、ぎゅうぎゅう詰めのラッシュの中、40分の道のりを通勤している。電車を降りて一言、「マジで何とかならないかな?このラッシュ」。

さあ、そこでこの課題「通勤ラッシュの解決策は何か?」を構造化してみよう。通勤ラッシュ(朝7~8時と仮定)は、次の不等式で定義して構造化できる。

【1両当たり輸送客数×1本当たり車両数×(7~8時)1時間当たり本数(頻度)×路線数】<【7~8時の乗客数】

この「<」を「=」もしくは「>」に変える施策が戦略的な打ち手になるが、ざっと思いつく打ち手の候補を入れて構造化すると、図2のとおりになる。このように構造化することで、モレなくダブりなく要素が抽出でき、時間軸で打ち手候補を整理できる。さらに、モレている打ち手候補を盛り込み、数値的な感覚とプラス面・マイナス面を考慮して実現可能性を仮説的に評価できれば、打ち手の優先順位を付けることができ、それなりの議論に耐えうる資料ができあがるだろう。

図2 「数式で考える」の例

基本編② プロセスで考える

Bさんは、通販会社のイーコマース事業立ち上げのためにIT企業から転職してきた。ただ、社内会議では、通販事業しか知らない社員の人たちと言語・常識がかみ合わないため、各部門の協力を得られず苦労している。たしかに、自分も通販事業をよく知らない。であれば一度、みんなに教えてもらって通販事業の全体像を理解したい。そして、通販とイーコマースがどう違うのか、その違いがどのような収益構造の差となるのか(=イーコマースがいかに収益性がよいか)をみんなに理解してもらいたい。「でも、どうしたらいい?」。

課題は「通販事業とイーコマースの差を見るために、通販事業の全体像をどう整理すべきか?」だ。これは、単純な課題整理だ。収益構造、特にコスト構造を見るときは、事業の流れと活動をプロセスに沿って整理してみると、見える世界が広がる。図3では、考え方を示すために内容は一部省略・割愛したが、大プロセスと小プロセスに分けるとさらに効果的であることがわかる。これを完成させ、それをベースに各業務における工数・コストの差異などを議論すると有意義だろう。

図3 「プロセスで考える」の例─通販事業の業務プロセスは?

「戦略的構造化」のプロセス

解決やアクションに結びつく「戦略的構造化」を行うには、基本編で見たような考え方を、さらに高度化させていくことになるが、そのプロセスは、インプット、ストラクチャリング、アウトプットという3つのステップを踏む(図4)。

この中で最も重要なのは、最初のステップのインプットの質、特に「聴く」質を上げることだ。「聴く」力を上げるには、高い質問力もさることながら、まずは、話されている内容を頭の中で初期構造化するための「聴き方」が最も重要になる。

参考までに、私が実践している聴き方を紹介しよう。あくまでもイメージだが、「構造化」モードにスイッチを切り替えたら、左脳に論理的思考、右脳に抽象的思考の「聴く脳」が瞬間起動する。一般的に、求められない限り論理的な話し方をする人は多くないので、大抵は右耳から聴き、左脳に話をぶつける。左脳では、聴いた内容を数式化したり、プロセスで考えたり、ドライバー(要因)で整理したりして、効果的な整理・解決軸を探り出すためのテストを高速で繰り返し行う。同時に右脳では、左脳で暫定的に選んだ軸候補に対して、その構成要素の定性事象(例:現象・特徴・理由・解決仮説案など)をマッチングさせるよう抽出していき、その組み合わせの中で、左右の脳で共鳴する軸が見つかれば(たとえば、Y=ax+by+cz+…という数式で分ける軸を左脳で選び、右脳でa、b、cの具体的内容が明確に当てはめられていく状態)、それをベースに初期的な構造化イメージをどんどん深掘りしていく。

もちろん、これは筆者の“頭の中のイメージ”で、科学的な裏づけは一切確認していない。大事なのは、「こうすれば自分の頭が速く回転し、かつ、深く思考できる」という自分なりの方法論を持っておくことだろう。

ぜひとも、構造化の道具立てとして、自分だけの「効果的な聴き方」を見つけてほしい。

図4 「戦略的構造化」プロセスの3ステップ

応用編① テレビ業界の戦略ヒント

以上の内容を踏まえ、ここからは「戦略的構造化」をビジネスとプライベートに活用する例を紹介する。

筆者は、どうも最近のテレビ番組が面白くないように感じている。そこで、久しぶりに知り合いのテレビプロデューサー(以下、P)と飲みに出かけた。そのときの会話を、共有したい。

P:「最近もう大変だよ。制作費カットの連続、なのに視聴率を取れと上からのプレッシャー。視聴者のテレビ離れに趣味の多様化、スポンサー離れ。そもそもマスメディアには、質の高い番組作りはもう求められていないかもしれない。むしろ何かに特化した番組にニーズがあるのかもしれないが、それではマスには刺さらない。おまけに最近はみんなネットでも映像コンテンツを見てるみたいだし。我々テレビ局の制作は、将来どう動いたらいいんだろうね」

筆者:「なるほど。それって、整理するとこういうことかな(図5)。まずは、メディア(媒体)として『集中(中央一括番組配給)』と『分散(個別端末番組選択)』という軸に分かれる。さらに『大衆的な番組』と『先鋭的・特化した番組』の軸があり、つまり4つのマトリクスに分かれるという認識でいいかな。今のテレビ局は左下に位置し、大きなトレンドは、マスから分散へ、特化した番組へと進んでいるが、今後もマスは最大であり続ける。その中で、左下のテレビ局の制作は、今後どんな戦略を取るべきか、ということだよね」

図5 テレビ業界のトレンドと主戦場

P:「これ、業界の全体像とトレンドをクリアに捉えてるよ」

筆者:「OK。各局とも、衛星放送・ケーブル局・携帯コンテンツなど、各種手は打っているわけだよね。ただ、まだまだ主戦場はマスの世界であり続ける。ならば、テレビ局の制作現場は、トレンドに惑わされず、マスが楽しめる『質の高い、面白い番組』を作ることに注力する必要があるんじゃないかな。それは、コンテンツこそが重要となる『分散化』トレンドを押さえることにもなる。いずれにしても、質の高い番組を梃子に、テレビ局が高い収益を取り戻すことに集中しないといけないよね」

P:「なるほどねぇ。だけど、収益が上がるような、質の高い、面白い番組』ってなんなんだろう。そうだ、今日バラエティ番組の収録があるから、スタジオ見学に来て感想を教えてくれよ」

(番組は、ひな壇に今をときめく若手芸人たちが数十人、中央にグラビアアイドルを挟んでトークし、MCである兄貴分的芸人が仕切るという形。内容は、芸人の私生活をテーマ毎に暴露するもの)

P:「さて、どうだった?」

筆者:「すごく面白かった、単発の番組としては。でも、質の高い、面白い番組』かというと、真逆だと思う。事前の作り込みもあまりなく、刹那的に、その時間の視聴率を取るためだけの番組に思えた。数年後、数十人の若手芸人のうち何人が残っているのか」

P:「でも制作費はないし、その中で視聴率を取るためには、こういう番組になってしまうんだ」

筆者:「わかるけど、それでいいの?さっきの議論とこの番組を見て思ったのは、質の高い、面白い番組』は、二次利用できる番組』と定義できるということじゃないかな。つまり、3年後に再放送しても楽しめるもの、多言語に翻訳して海外の放送局に売れるもの(外国人が見ても面白いもの)、媒体を超えて楽しめるもの、だと思う。それこそがスポンサーがリーチしたい固い顧客層を維持する番組となる。何より、1回目放送時の制作費が高くついても、その後は収入だけ入ってくる、投資効率・番組生涯価値の高い番組になるよね。制作はそういう目線で番組を作るべきだよ。で、今言ったことをまとめるとこうなるね(図6)。「二次利用可能度」の軸と、初回視聴率」の軸。できれば、右上の“勝利の方程式”領域を狙いたい。次に、左上の“根強いファン”領域を、そして高い視聴率を取る一発型番組の“その場凌ぎ”領域、最後に二次利用もできず視聴率も取れない“スカスカ”領域はプロデューサーのプライドにかけて制作しないほうがよい」

図6 マス・大衆的番組セグメントにおける番組作成プライオリティ

P:「なるほどなあ。考えさせられるよ。実は今、自分の番組の『投資効率最大化』の企画アイデアが浮かんできた」

筆者:「どんなアイデア?」

P:「俺の番組は情報系バラエティで、皆が興味を持つような、二次利用可能なコンテンツがしっかりある。だから固定的な視聴者はいるんだけど、視聴率はそれほど高くない。また、内容には少し科学的なものも含まれるので、実はバラエティ枠のオンエア1回だけでは消化不良のまま流れ去ってしまっている。要は、媒体としてのテレビの特性を超えられていない部分がある。だから自分のペースで情報を理解し保存できる媒体、即ちネットに視聴者を誘導し、番組で提供したトピックをよりリッチにした情報を置き、ネット上をビジネスの主戦場としたらいいんじゃないかと。そうすれば視聴率をベースにしたスポンサー収入ではなく、コミュニティーサイトでの広告料・物販収入など、二次的な収益機会ができる。さっきの『媒体を変えたコンテンツの二次利用』の応用だね」

この例では、業界全体のトレンドを「構造化」し、中期的にはビジネスの主戦場はまだ「マス媒体の大衆的番組」マトリクスであることを明確にした上で、そのマトリクス内で、収益を生む面白い番組制作戦略の優先順位を「構造化」した。そうすることで、実際の制作現場に活かせるヒントが見つかったようだ。

次回の2人のディスカッショントピックは、二次利用できて初回から高い視聴率が取れる“勝利の方程式”番組の共通要因を“戦略的に構造化”して、いくつか具体的な番組案を考えてみよう」ということになった。

応用編② 「戦略的構造化」のアナロジー

「戦略的構造化」のパワーは、単発では終わらない。軸で課題をあぶり出しているため、共通の軸がある課題に対しては、その構造を「アナロジー」(類似例)として転用・応用できるのだ。

先に、テレビ業界のメガトレンドと中期的な主戦場」という構造を見たが、マスにリーチするビジネスであれば、テレビ業界に限らずこれと同じ動きをする。この構造を応用できるいくつかの産業事例を挙げてみよう。たとえば空調業界だ。

空調会社A社の方から、こんな相談を受けたとしよう。「高度成長期に建てられたビルや公共施設は、セントラル型空調(集中)で、当時は快適性を犠牲にしても、効率的に暖かく・涼しくする、というニーズを満たせばよかった。その後、入居者のニーズが高まり、快適性も満たすように高度化したセントラル型空調(集中)に変遷。そして、さらなる快適さを求めるニーズが多様化するとともに、分散型空調(端末)が広がってきた。当社は、技術力こそ高いのだが、今後の戦略はどう描けばいいのか、悩んでいる」。

どこかで聞いたような話である。つまり、空調業界のメガトレンドの構造化には、テレビ業界のそれが適用可能であることがわかる(図7)。そう考えると、発展途上国市場では、日本が辿ったのと同じ発展プロセスを辿ると考えると「セントラル型/ローテク空調」需要がビジネスの中心に、ビルの建て替えニーズの高い先進国市場では、「セントラル型/ハイテク空調」か「分散型空調」かを判断する必要が出てくるだろう。即ち、発展途上国ではスペックダウンした旧来型セントラル型空調の徹底営業を、先進国では、市場ニーズに合う、高度化した技術のコスト競争力を確保することが必要になってくる。このように今後の戦略の方向性の萌芽が見えてくれば、次に取り掛かるべきは、各国の市場規模予測の調査だろうか。

同じように、電力業界へもアナロジーが効く。電力においても、高度成長期は、石炭・石油・ガスによる高効率な大規模火力発電所といった集中型電源が経済を支えてきたが、昨今では燃料電池や太陽光による自家発電などの分散型電源がエコトレンドを受けて成長する予定となっている。とはいえ、まだまだ世界的に発展途上国を中心に電気は不足しており、そういったマーケットでは経済的余裕がなく従来型の発電所による集中型発電が求められる。これも、テレビや空調と同じ軸で同じように構造化できる。そうすると、たとえば発電メーカーの戦略議論は相当具体化できるのではないだろうか。

図7 空調業界のトレンドと主戦場(左)/電力業界のトレンドと主戦場(右)

応用編③ プライベートでの活用

ここで、少しリラックスした話として、戦略的構造化のプライベートへの応用についても適用例を挙げる。

同僚A:「最近ダイエットを始めたんですが、続かないですねえ。やっぱり、夜遅くに食べることが多いし、食事でストレス発散してるとこもあるから、結局食べちゃうんです。運動しようとスポーツクラブに入ってるんですけど、忙しくて結局1カ月くらい行ってなくて……」

筆者:「なるほど。つまり、決まったダイエットプログラムはなく、自制が緩むことがあり、目標もない、ということだね。ちょうど俺もダイエットを始めようかと思ってたとこだし、B君もCさんもそんなことを言ってた。じゃあさ、4人全員で毎日やり続けるダイエットプログラムを組んで、1カ月後の目標体重をそれぞれコミットしようよ。1日の終わりにはプログラムを履行したことをチームメンバーに報告する。そして1カ月後の夜、サウナに入った後に大計量大会!目標達成者に非達成者が飲み代を奢る、というのでどう?達成したらビールがおいしいよ~」

これは、実際に筆者とプロジェクトメンバーの4人で実行した「チームダイエット」の話だ。まずはダイエットの失敗要因を構造化し、綿密なダイエットプログラムを組んだ。そして仕事場の椅子はバランスボールに替え、プロジェクトルームの壁には「ダイエットプログラム実行モニター表」を張り付け、相互監視の下、計量大会を目標に、実にストイックな1カ月を過ごした。その結果、最終日には、数年来痩せられなかった4人ともが元の体重の10%以上、4人で合計28kg減に成功。過酷な1カ月を共に耐えてきたという達成感で計量大会がものすごく盛り上がっただけでなく、ダイエット実施期間中のチームワークまでも良くなり、仕事の質・効率は劇的に高まった。これも構造化のなせる業といえる。

その他にも、若手ビジネスパーソンのモチベーション向上」といった本質的なものから、快適モテ空間演出力強化」「面白い趣味の見つけ方」といったカジュアルなものまで、構造化することによって実行レベルにまで落としこめる題材は日常にあふれている。ぜひ、身近な課題から試してみてはどうだろう。きっと、面白い生活が待っている。

「戦略的構造化」の重要な効果

①仕事の能力向上

ここまでの例でご理解いただけたように、課題解決をするためには、課題を重要な軸で「戦略的に」構造化し、その上に目標、仮説、施策案を出していくことになる。そして、その目標、仮説、施策案に沿って仕事を定義し、ワークプラン(何を・なぜ・いつまでに・誰が・どうやって実行するか)を作る。この工程を管理することで、ビジネスが効果的に前に動き出すわけだ。

即ち、戦略的構造化」こそが、戦略思考」「仮説思考」の根幹を成す足場といえる。足場を自分で組み立てることができ、自分の中にあるリーダーシップを発揮できれば、簡単には揺るがない「チームマネジメント」や「プロジェクトマネジメント」が可能になる。また、自分が伝えたい内容が明確になることによって、意志の強いプレゼンテーションができるようになり、勝たなければならないことと譲歩してもよいことがわかるため、交渉術も向上する。

このように「戦略的構造化」力が付いてくると、ビジネスにおける“ドライビングシート”に座ることが自然と増えてくる。そうすると、仕事で必要とされる能力がぐんと強化され、重要な任務を任せられることも増え、仕事ライフはどんどん充実したものになっていくのを感じるだろう。そして、部署やプロジェクトの中心的役割を担う者として、チームでの成功を実現するために、同僚にこまやかな心配りをしたり、部下のトレーニングを工夫するようになったり、推進力とハートの両方を持ち合わせた大人のビジネスパーソンとして人間力も磨かれていくに違いない(図8)。

図8 「戦略的構造化」の重要な効果

②ストレスからの解放と
「上向きスパイラル」の創出

上司や取引先から言われた仕事を受身的にこなしていると、仕事量や求められる質のコントロールができないため、不意に徹夜残業をするはめになったり、何が目的でどうしていいかわからず、いい加減な仕事になったりする。結果として、「何をやっているのか自分でもわからないので、仕事が面白くない」とストレスを感じることになる。また、仕事上の知識についても、重要性の見極めが付かないために「全てに詳しくならないといけないのではないか」と途方に暮れることにもつながるだろう。

そういった「下向きスパイラル」から抜け出すには、「戦略的構造化」により「課題の制空権」を取ることが重要になる。ビジネスの上流部分である課題解決の根っこを押さえ、そこから1つ1つの仕事を組んでいくことは、自分が主導権を握ることを意味する。いったん主導的な立場になれば、目標に向かって実行すべき仕事の優先順位、上司・部下に動いてもらわなければいけないことが明確にわかってくるため、受身的な仕事で感じるストレスからは解放される。そして今度は、いい意味でのプレッシャーややりがいに変質し、充実した仕事ができてくる。そうすると自然に、プライベートの精神衛生状態もよくなってくる。「ワークハード・プレイハード(よく働き、よく遊ぶ)」を体現でき始めると、すばらしいワーク・ライフ・バランスが達成できることになる。

終わりに

本稿では「戦略的構造化」力の威力や効果について説明してきた。日々、日本の企業買収や企業戦略に携わっていると、将来的な少子高齢化の閉塞感、終わりのないコスト削減要求、過度なコンプライアンスへの業務流出、継続する投資抑制、グローバル化が難しい言語力など、課題山積にもかかわらず、それを克服するどころか逆にそういったトレンドに押されて、日本企業・ビジネスパーソンの活気がさらに下降しているように感じる。

ビジネスパーソンが、自分の仕事に使命と誇りと達成感を持つことが経済活性化への全ての第一歩。私は、1人1人のビジネスパーソンの「戦略的構造化」力が少しずつアップすれば、日本にある1つ1つの仕事の質とスピードが高まり、仕事に目的を持った活き活きとしたビジネスパーソンが急増し、社会全体でその歯車がかみ合い始めると日本経済の生態系は飛躍的に活性化し、明るく前進力のあるものになると思っている。

構造化力向上の第一歩は、自分が疑問を持たずにやっている日常の些細な仕事でよい。たとえば上司への顧客訪問事前資料、部長は何を知っておけば顧客との面談でうまくいくだろうか?」、また一方、「こうすればいいのに」などと思うものは「どうして自分はそう思うんだろう?」と考えてみる。「なぜだろう、なんなんだろう」ということの軸を構造化して押さえ、その上に「こうだからではないか(仮説)」を考える、というエクササイズをシツコクシツコクやってみることをおすすめする。

日本の需要・技術的優位性に依拠していた強みが低くなり、コスト競争力のない産業において日本の空洞化は不可避なのかもしれないが、ならば、世界で稼いで日本に儲けを還流する仕組み作りを考えなければならない。即ち、日本のビジネスパーソンの先を見通し行動する“頭脳”までが空洞化してしまうと、この国に明るい未来は絶対に来ない。ぜひ、皆さんのような高い志を持ったビジネスパーソンの方々が、戦略的構造化」力(=頭脳)を鍛え、明日から日本中に、感動的なお仕事と素敵な職場を1つでも多く増やしていっていただきたい。

 

<プロフィール>
北條 元宏
A.T. カーニー マネージャー(本稿執筆時)
京都府生まれ。大阪大学法学部卒業、米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。三菱商事にて10年超にわたりエネルギー資源開発プロジェクトに従事後、ベイン・アンド・カンパニーを経て、A.T. カーニーに移籍。現在、同社 M&A/Private Equityプラクティスのコアメンバー。産業面では、消費財・流通・メディア・インフラ・総合商社が中心。2005年度ベイン・アンド・カンパニー MVPコンサルタント、2009年度 A.T. カーニー 顧客評価栄誉賞コンサルタント。「課題を構造化するプロ」として“ストラクチャリスト®”の個人商標を取得し、“構造化”を武器に課題領域を問わず幅広い領域で活動中。

 

(「Think!」(東洋経済新報社) 2010年4月16日号)

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