経営判断の質と効率を高めるプレゼン


経営者にとってプレゼンは、経営判断のために欠かせないものだ。
しかし、経営会議におけるプレゼンのあり方について不満を持つ
経営者は少なくない。なぜなら、プレゼンターが持ち込む情報の枠組みと
経営者が必要とする情報の枠組みにギャップがあるからだ。
経営判断の質と効率を高めるプレゼンとは、どうあるべきだろうか。

経営判断の場で求められるプレゼンとは?

筆者は事業成長・収益向上のためのコンサルティングを日々実施しているが、時として、対象とする事業がなぜ戦略を見直さなければならない状況に陥ってしまったのか、疑問に思うことも少なくない。原因をさかのぼってみると、経営判断の時点での議論のされ方に課題を見つけることも多い。

たとえば、ある案件の事業審査時点での資料をひもとくと、分厚いパワーポイントのプレゼン資料に圧倒された。残っている議事録からは、数回にわたり経営会議で議論されてきたことがわかる。起案者と経営者が多くの時間をかけ、また、起案者の下には作業チームが存在していて、どうやら膨大な作業時間が発生していたようだ。議論を重ねるごとに、事業スキームは詳細化されていくのであるが、なぜそのスキームだったのかという疑問に対する答えはそこからは見つけられなかった。このことからも私は、プレゼンは語り手の思いで作られることが多く、経営者が考えるべき(であった)枠組みとは異なることを実感した。

プレゼンの一般的な目的とは、プレゼンターの言いたいことを聴衆にわかりやすく理解させることだろう。このため、プレゼンターは聴衆の興味をかき立てるような大胆かつシンプルなメッセージを並べたり、誰にもわかるような例え話を挿入して理解を促したりするなど工夫に余念がない。また、プレゼンのツールの進歩も目覚ましいものがあり、従来型の図表に加え、画像、アニメーション、動画など何でも使える環境が用意されている。難しげに聞こえることを、楽しく、簡単に理解させるプレゼンの技術やツールは世の中にあふれている。

ところが、経営者に向けてなされるプレゼン、経営判断の場で求められるプレゼンを考えるとき、その目的は上記の状況と多少異なるところがある。プレゼンターが言いたいことを聴衆にわかりやすく理解させることを否定するものではないが、これはプレゼンの最終目的ではない。経営判断の場で求められるプレゼンの最終目的は、数ある主張のなかから特定の主張を採択し、具体的な行動を実施することへの意思決定を経営陣に迫ることである。

経営者の視点で見ると、プレゼンターの主張を理解することと、プレゼンターの主張に従い事業投資を行うことを判断することには大きな溝がある。経営判断のためのプレゼンには、この溝を埋めることが求められているのである。

左脳的要素と右脳的要素の両方が必要

経営判断の場で求められるプレゼンには、何が必要か。経営者が気にするポイントが押さえられていればよいので、特に難しいことは求められていない。一般に、以下の項目に答えられれば、経営判断に十分な材料を提供したといえるだろう。

 

  • 対処したい課題は何か?
  • なぜその課題を解く必要があるのか?
  • 解決のアプローチは何か?
  • 多様な解決のアプローチのなかでなぜそのアプローチが有利なのか?
  • 具体的な実行計画は何か?
  • ヒト、モノ、カネなど必要な経営リソースは何か?期待リターンはどれほどか?その案件の優先順位はどれほどか?
  • 実行計画におけるリスクは何か?
  • コンティンジェンシープランは何か?
  • 決断をしないリスクは何か?

 

このような項目に順を追ってロジカルに答えていくことで、経営者の気にするポイントは押さえられる。つまり、簡潔で、わかりやすいロジックこそが求められているのである。

ただし、上記の項目は論理的な側面での要件であって、必ずしもこれだけがすべてではない。このような左脳的な要素に加えて、右脳的な要素も現実には求められる。具体的には、提案内容に、ぜひやってみたいと思うような「ワクワクする」感じがあるかどうかと、提案者(プレゼンター)に「ぜひともやり遂げたい」という熱い思いがあるかどうかである。

左脳と右脳に例えると、相反する考え方にも聞こえるが、実際には相互に影響を及ぼしつつ、高め合う関係にある。ロジックだけでは面白みのある提案はできない。しかし、思いつきだけでは必然性の高い提案もできない。ロジックと思いつきが結びついて精度の高い魅力的な提案につながり、ワクワク感が醸成され、自然に提案者の熱い思いになるのである。経営判断に必要なプレゼンとは、このような左脳と右脳双方の視点が求められる(図表 1)。

図表1 経営判断に必要な情報

経営会議で陥りがちな罠

経営判断の場に求められるプレゼンの要素は前述のとおりであるが、実際の現場では、左脳的な要素と右脳的な要素のバランスが取れていないプレゼンが散見される。特に、左脳的なロジックの構成に課題があるプレゼンが多く、結果としてそのプレゼンが、効率的で効果的な意思決定の阻害要因となり、ミスリードを引き起こすことがある。

筆者が経験した事例のなかから、このような意思決定における難しさを見てみよう。筆者は経営判断の高度化といったテーマで、これまでにいくつかの企業に対してコンサルティングを行ったことがある。過去に行われた投資案件などに関する経営会議での議論を振り返り、経営判断の高度化を図った。そのときの状況を思い返してみると、プレゼンによるミスリードから陥りがちな、経営判断においてのロジック構成面での罠がいくつかあるように見える(図表2、図表 3)。

図表2 経営判断に求められるロジカルな思考

図表3 陥りがちな状況

① 下流先行の罠(作り込み)

案件の意義や代替案などを論じる前に、具体的な事業スキームがどんどん詳細化されていくもの。外部から持ち込まれた投資案件に多いパターンである。具体的な事業スキームも重要ではあるが、具体化に先立ち、自社にとっての意味合いや、考えられる選択肢のなかでなぜこれが最良なのかの確認がないままに、多大な工数をかけて詳細検討が進められてしまいがちである。具体が見えてくるほどに、検討項目も増えるため、近視眼的な状況に陥りやすい。

② 思い込みの罠(オプションの幅)

案件の意義や必要性については異論がないのだが、実現の仕方について再考が必要なもの。社内の特命プロジェクトチームに検討を委ねて、現場任せにしている場合に多い。現場レベルで対応可能な狭い自由度でのオプションの検討となりがちで、全体最適な打ち手の検討が難しい。結果として、表面的な課題に対する表面的な打ち手にとどまったり、複数のオプションを検討するまでに至らなかったりと、これもまた、近視眼的な状況に陥りやすい。

③ 独りよがりの罠(競合分析)

特定の事業モデルでの成功を収めてきた企業が新しい事業モデルに乗り出すときに陥りやすいパターン。既存事業では圧倒的なスケールメリットを背景に競合を駆逐し、一人勝ちの状況にある企業において検討されていた、ある新規事業のケースが思い出される。

新規事業の企画書には、類似事業を展開する競合企業がある軸によりマッピングされており、競合企業が対応しきれていない手つかずの市場セグメント(ホワイトスペース)が存在することが示されていた。このホワイトスペースを自社が取りに行くというものである。だが、別の観点から市場を捉えると、状況は一変して、すでに競合によって占められているようにも見えた。

④ 成り行き任せの罠(リスク対応)

事前に想定していたリスクが一面的であったり、リスクとしては認識できていても、具体的にどのような状況になったら撤退すべきなのかという撤退基準がなかったりしたことにより、損失の拡大を招いてしまうもの。

収支モデルのパラメーターとして楽観的な前提のものしか想定していないものは論外であるが、収支モデルに反映されていないような自然災害や社会不安などのマクロ的なシナリオに対する検討が忘れられているものも多い。

⑤ 丸投げの罠(権限委譲)

新規事業などでは、起案者側のやる気を配慮するあまり、トップダウン的な判断をためらう経営者もいるだろう。また、自由な発想を期待するがゆえに、検討チームに権限を委譲する場合もあるだろう。このような経営者の意図はよいのであるが、結果として、検討チームの作業がタコツボ化してしまい、検討チームの見える範囲内での部分最適な検討となって、全社最適の視点が抜け漏れてしまう。

経営判断の質を高めるプレゼンの条件

① コンテンツの論理的整合性

経営判断で陥りがちな状況を見てきた。このような罠に陥らないための効果的なプレゼンの条件とは何だろうか?まず 1 つは、論理性だ。右脳的な「ワクワク感」や「情熱」といった要素を埋め込みながらも、左脳的でロジカルな問題解決の構造を骨組みとすることが重要である。

だとすると、プレゼンの準備段階になってから考えるようでは手遅れの感がある。むしろ、検討着手段階でプレゼンに求められるロジックを固めるように検討項目を設計しておくということがポイントになる。

つまり、効果的なプレゼンは、結局はプレゼンのコンテンツとなる課題解決の構造の設計にあると言いたい。プレゼンという意思決定を促す場で成功するためには、その意思決定の論理的必然性を検討するための仕事の進め方を見直すことが重要になるのは当然である。

② 鳥の目で森を見る

課題というと、実際に目に入る具体的な問題に注意が行きがちだが、これが行き過ぎると「木を見て森を見ず」の状況に陥ってしまう可能性がある。たとえば、消費者ニーズを捉えるとき、個別具体的な事象に関するニーズを聞くのはよいのだが、それら個別のニーズに対して個別の解決策を考えているだけだと、より本質的な変化を見失ってしまうことになる。消費行動の個別・具体の変化を捉えるとともに、その変化の背景にある価値観の変化やライフスタイルの変化にまで踏み込んで理解することが望ましい。

プレゼン資料でよく見るのは、市場調査結果を張り付けただけのもので、前述からすると論外だ。少なくとも意味合いは提示してもらいたいし、本来的には背景的な要因にまで言及してもらいたいものだ。

全体観をつかむためには、個別事象を構造化して大きな括りに整理するというボトムアップの思考過程と、PEST 分析(政治・経済・社会・技術などの世の中のマクロ動向から対象事象への影響を考えるもの)などのように、世の中の一般的な大きなトレンドをもとに対象とする事業での変化を想定するというトップダウンの思考過程がある。いずれにしても、解きたい課題を少し抽象化して表現してみることで、より魅力的な事業企画案を思いつくこともある。

③ 多面的かつ網羅的なオプションの存在

解きたい課題が明確になったときに、解決の打ち手はいくつかあるのが普通だろう。最終的に選択することとなる打ち手の妥当性を確認するためにも、いくつかの打ち手のオプションを並べた上で比較検討しておきたいものだ。ここで気をつけなければならないのは、オプションが多面的、網羅的かどうかである。このためには、オプション自体を考える前に、オプションの軸を考えてみることが重要だ。

オプションの軸としては、対立的な概念からなる軸を考えるとよい。たとえば、サービスレベルが高いものとコストが低いもの、短期的な収益を最大化するものと長期的な価値を高めるもの(ロイヤル顧客の増加、ブランド価値向上)など、打ち手を構成する要素に着目して対立的な概念を含む軸を考えてみよう。軸が決まれば、オプションを考える際の基点として活用ができる。

ところで、極端な2 案のみを提示しているプレゼン資料を見かけるが、意見集約が困難になるので、振り切った案に加えて、落としどころになりうる中庸の案を入れておくのが賢明だろう。

上記のようにして、いくつかのオプションを作っていくのであるが、相反するオプションだけでなくて、一挙両得的なオプションができるかどうかも知恵の出しどころである。たとえば、ある商品について、顧客に対する欠品率を低減し、満足度を高めたいという場合、単純に考えると、欠品率を低減するためには在庫量を増やすことになり、運転資金などのコストが増加する。したがって、欠品率の低減による利益増の範囲内でどこまで在庫量を増やせるのかというトレードオフとなる。ところが、主要顧客の発注予定量を十分なリードタイムで共有できれば、在庫を増やすことなく欠品率を低減でき、目的としていた顧客満足度を向上することもできるのである。このように、単純な枠組みのなかだけでオプションを考えるのではなく、枠組みを変えることによって一挙両得的なオプションがあるかどうかも検討に値するし、クリエイティブな課題解決とはそのようなものである(図表 4)。

図表4 ありたい課題解決

経営判断のポイントはトレードオフ

課題も明確になり、課題解決のための打ち手もいくつかに絞られたときに、経営判断を仰ぐ必要があるのはなぜだろうか? 課題を解決することで収益が改善するのなら、経営者に判断を求める必要もなく、実行に移せばよい。その場合、プレゼンの目的は経営判断ではなく、報告となる。報告でよいものであれば、むしろ、下位組織に権限委譲を進めたほうが経営のスピードと効率は上がる。

仮に経営会議で報告事項が多いようであれば、経営会議のあり方自体を見直すことが必要かもしれない。経営会議は現場でできない判断をする場であって、現場に報告をさせる場ではない。報告が過剰であれば、現場の負担にもなるだけでなく、商機を逃してしまうことにもなりかねない。

経営判断が必要になるのは、トレードオフを含む課題解決に取り組む場合である。たとえば、事業の計画全体では収益貢献ができるが、計画当初には大きな投資や一定程度の損失が必要になる場合である。現場の裁量を超えるものが出てきて初めて経営判断が求められる。

したがって、経営判断のためのプレゼンでは、最終的な果実と短期的な投資やリスクなどトレードオフとなる事柄を明確に提示することが必要である。極端なことを言えば、トレードオフのないプレゼンは経営会議で、あえて議論する必要はないのである。

常に論理的な構造を意識する

経営会議におけるプレゼンにありがちな状況を見てきたが、経営会議でなくとも、日常的なビジネスにおけるコミュニケーションでもよく見かける光景ではないかと思う。ビジネスコミュニケーションの改善の解決のための秘策はないが、論理性がポイントになるだろう。論理性を意識することで、提案内容、チーム内の議論、業務の生産性などに好影響をもたらす。

論理的な構造を意識することで、まずは、提案内容そのものに磨きをかけたい。課題の捉え方を再確認したい。表面的に不都合が生じているものを課題と捉えるのではなく、その背景にある根本課題を考えてみよう。表層的な課題しか認識できないと、打ち手も表面的になってしまいがちだが、根本課題に迫ることで、迫力のある打ち手が見えてくるものである。打ち手のオプションについて、メリット、デメリットをあわせ持つ打ち手がいくつかできた上で、どれにすべきか決め手に欠く状況であれば、一挙両得的なクリエイティブな解決策があるかどうか、もう一度、熟考すべきである。打ち手の対象範囲を広げて考えることで、一挙両得的な解決策が見えることもある。多くの制約条件を満たすよい案というのは、ぜひやってみたいと思わせる、ワクワクさせる提案になるはずだ。

また、論理性を意識することは提案内容自体を高めるばかりでなく、議論の効率を上げることにもなる。論理的であれば、当然、聞き手の理解が進みやすいし、前述のとおり、トレードオフの関係を意識することで、判断が必要になるポイントも明確にできるため、効率的で効果的な議論ができる。議論が進めば、実行に向けた具体策の検討に進むことになり、企業の収益にもつながることになる。真によいこと尽くめである。

同時に、ホワイトカラーの業務の多くを占める企画業務の生産性も大きく向上する。企画業務とは、PDCAのサイクルを回しながら課題解決を行うことだが、論理性を意識することによりPDCAの精度と質が向上することは間違いない。ホワイトカラーの業務のなかで調査・分析といった作業的なものは、IT 化が進み生産性がすでに向上している。生産性向上に関して残された分野である企画業務の改革に役立つだろう。

最後に、もう1 つ事例を紹介しよう。ある企業では経営会議における経営判断の高度化をめざして、議案のプレゼン資料の分量に上限を設け、用紙 5 枚とし、記載すべき項目も明確化を図った。これにより、経営会議のあり方は大きく変わった。時間効率が高まるとともに、継続審議となる案件の数が減り、何らかの結論が出る案件が増え、生産性が向上したのである。

また、経営会議での資料の削減と検討項目の明確化に対応して、経営会議以下の組織体でも資料の削減と検討議題の明確化が進んだ。期初に部門内で行われる事業企画会議では、それまでは分厚い企画書が珍しくなく、企画書を作る側にも読む側にも大変な労力だった。企画書が厚すぎて、担当者が変わると内容が理解できず、企画が頓挫してしまうということも起こるぐらいだった。それに対して、企画書の本文量を10 枚とすることで企画会議の時間効率が高まるとともに、企画の精度が向上したそうである。特に、分厚い企画書のなかで分析作業を担当させられ、「木を見て森を見ず」であった若手層にとっては、仕事の全体観が 10 枚で示されることで、チームとしてめざすべき方向が理解しやすくなり、労働意欲が向上するとともに、臨機応変で自発的な行動が多く見られるようになったとのことである。

思い返せば、パワーポイントがなかった遠い昔、筆者は事業計画をA3 判用紙1枚で語っていたものだ。1枚のなかに課題と打ち手、リソース、リスクなどをコンパクトに盛り込むためには頭の中身もすっきり構造化しておく必要があった。懐古主義ではないのだが、プレゼン用のスライドが簡単に量産できる今日こそ、課題解決の構造化を意識したいものである。



<プロフィール>
野田 武

東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修了、ペンシルバニア大学ウォートン経営大学院修了(MBA with Distinction)。大手エンジニアリング・建設会社にて公共インフラ施設や海外不動産開発のプロジェクトマネジメントに従事した後、A.T.カーニー入社。エンジニアの経験を生かしながら、戦略とオペレーションの融合領域で結果の出るコンサルティングを実施。製造業、交通・輸送、流通・サービス業を中心に、全社戦略、事業戦略、事業再生、オペレーション改革、調達戦略を支援。

 

 

(「Think!」(東洋経済新報社) 2012年1月20日号)