“超”分析:問題解決力を高める技法 04
実践 “超”分析:∼業務効率を改善する


第 4 回のテーマは、 業務効率を改善する"である。世の中には無駄が多い。企業の競争力を高める上では無駄を見直すことが重要だ。しかし、日々の業務の中ではそもそも無駄(="有効活用されていないリソース")に気づかない。また、無駄を解消する方法を見つけ、実行することも難しい。今回はファミリーレストランの店舗運営効率化のケーススタディを通じて、分析の 3 つの技法である『俯瞰』 『分解』 『比較』を駆使し、有効活用されていないリソースに気づき、その見直しを実行していくプロセスを体感してもらいたい。

ファミレスチェーンA社の店舗運営効率化

小A社を取り巻く環境とこれまでの取り組み

全国に 200 店舗を持つファミリーレストランチェーンA社は、1980 年の創業以来 20 年間はほぼ順調に業績を伸ばしたが、2000 年からの10 年間は下降 傾向で低迷中である(2009 年12月期売上高約 250 億円)。かつては都市部・郊外ロードサイドともに好立地への出店で売上げを伸ばしてきたが、近年は新規出店に適した場所がなくなってきた。また、ファミレス業界の競合他社及び他業態プレーヤー(ファストフード、牛丼チェーン、居酒屋等)との競争激化により既存店の売上げも落ちてきている。A社では業績テコ入れのために様々な手を打ってはきた。

この 3 年間、A社では本社主導で様々な取り組みを行った。まずは、不採算店舗の閉鎖・高級路線の新業態店舗の展開、メニューの刷新、販促キャンペーンなどを行い、何とか全体の売上げは微増となった。

それらと並行して全社的な物件費の削減(材料費・物流費・その他物件費)、人件費の削減(調理業務を食品加工工場に集中化・店舗内作業の簡素化による人員削減)を進めていった。これら様々の施策により、コストも減少し、最悪の状態は脱したが、恒常的に黒字を確保するというまでには至らない。

本来であれば、施策の追加的実施により恒常的に利益が生まれる体質にしていくべきところであるが、A社経営陣の本社主導による施策アイディアは出尽くしてしまった感がある。そこで、「現場の知恵」から次に進むべき方向を見出すことを考えた。各地域のSV(スーパーバイザー)から優秀な者を数名選んで、試験的に権限委譲して、店舗運営効率化を競わせるのである。A社経営陣は、各SVの考えた店舗効率化の施策の中から全社的に通用しそうな案を抽出し、全社の次の打ち手としようとした。

このような中、B氏は、試験的に権限委譲されることとなったSVの1人で、横浜エリアの 20 店舗を担当している。B氏は日頃から本社主導の施策に物足りなさを感じていたこともあり、今までにない施策を導出・実行しようという意欲に満ちていた。

SVによる収益向上の方向性

SVは、複数店舗を受け持ち、各店舗を定期的に巡回して運営の指導や売上管理を行う。彼らは一定の予算枠の下、売上げ・利益を伸ばすことになる。SVであるB氏は、本社から「売上げを減らすことなく、利益率を向上させてほしい。売上げが増えればなおのことよい」との指示を受けた。

ここでB氏にとっては、大きく3つの打ち手の方向性がある。

  • ①支出を増やして、その金額を上回る売上げを上げる(売上げ↑、支出↑)
  • ②売上げは一定のまま、支出を減らす(売上げ→、支出↓)
  • ③支出は一定のまま、売上げを上げる(売上げ↑、支出→)

ここで、↑は売上げ・支出を増加させること、→は一定とさせること、↓は引き下げることを表す。

本社からの指示があるとおり、 売上げ自体が減少すること"や、 大きな支出を伴う売上げの増加"は、基本的に受け入れられない(全社的に予算が厳しい経営環境なので、追加的な予算増の申請をすることは難しいとのことである)。

そこでB氏は基本的に②、③の方向性で検討をすることにした。「インプット(投下リソース)を最小限に抑えつつ、最大のアウトプット(売上げ)を生み出す」という意味でまさに"業務効率化"といえる。

なお、支出は、 投下されるリソース(店員、スペース等)"という形で検討していく。

解決策導出のフレームワーク

『俯瞰・分解』による解決策の網羅的な導出

〈問題〉
業務効率化(〔売上げ→、リソース↓〕または〔売上げ↑、リソース→〕)の打ち手を考えてください。

まずは「抜けやモレがないように網羅的に考える」ことを意識し、どのような打ち手が考えられるかを洗い出すことにした。

最初に〔売上げ→、リソース↓〕のケースについて考える。打ち手を洗い出すためには、店舗にかかわるリソースを洗い出し、それらを売上げ不変のまま削減できる可能性がないかを考えるのがよさそうである。B氏は『空間的な俯瞰』を行い、削減の候補のリソースとして、人員だけでなく、店舗スペース(店内、駐車場)や、食材、備品(メニュー、皿、レジ等)といったことを思いついた。

ただし、これらのうち、店舗スペース、食材、備品の削減は本社の判断が必要な事項で、B氏の一存では減らすことができない。したがって、〔売上げ→、リソース↓〕としては"店員数の見直し(削減)" 図表1の①)が取りうる打ち手だとわかった。

次に〔売上げ↑、リソース→〕について考える。売上げを上げる打ち手を洗い出さなければならないので、売上げのベースとなる業務を行う上でのキャパシティ(スペース、人材)の活用度をどのように上げるかを考える必要がある。キャパシティの活用を上げるにあたっては"キャパシティにおけるボトルネックの解消"と、 十分に活用できていないキャパシティの稼働向上"という2 つの方向性を考えた。まず"キャパシティにおけるボトルネックの解消"について考える。これらは、ボトルネックの所在によりさらに打ち手が分かれる。スペースにボトルネックがある場合は、 特定時間帯における座席数と客数のミスマッチの解消"すなわち、"回転率の向上" 図表1の②)が打ち手となる。店員の数・処理能力にボトルネックがある場合は、 店員の処理スキルを上げるか、店員を増やすこと"が必要であるが、店員の処理スキルはB氏のエリアではすでにこれ以上の取り組みが難しい状態にあり、したがって"店員数の見直し(増加)" 図表1の①)が有効な打ち手となる。

次に"余剰なキャパシティの稼働向上"を考えるが、これらも伸ばすべきキャパシティ(店員、スペース)ごとに打ち手が分けられそうである。

店員に着目するのであれば、 余剰店員の稼働向上"が打ち手になる。余剰店員を単に削減するのではなく、他のことをやってもらい、売上げを上げる="余剰店員を活用する"(図表1の③)という打ち手である。

一方、スペースに着目すると、 余剰スペースの稼働向上"があることに気がつく。これは、ピーク時以外に稼働率が下がっている店舗の"余剰スペースの活用" 図表1の④)により、新たな収入源として売上げを上げる打ち手である。

以上よりB氏の取りうる打ち手は大きく4つに分類されることがわかった。以降、店員関連の業務改革(「①店員数の見直し(増減)」 ③余剰店員の活用」)と店舗スペース関連の業務改革(「②回転率の向上」 ④余剰スペースの活用」)に分けて、詳しく検討していく。

図表1 解決策導出のフレームワークと打ち手候補

店員関連の業務改革を考える

『分解』 比較』で店員シフトを最適化

最初に「①店員数の見直し(増減)」について考える。B氏は、担当エリアのフロアの店員の数の過不足がどの程度生じているかを、現実の店員シフトとの『物理指標による比較』(人数)を行い、ある平日の1日を把握してみたところ、図表2 のとおり、余剰シフトが12 時、19 時のピーク時間帯を挟んで発生していること、15 時の時間帯にシフトの不足が発生していることを確認した。

ここで、店員1人当たりの適正な顧客数は、「顧客の待ち時間が許容可能な時の店員1人当たりの顧客数」として、複数の店舗を観察し、都市型で35人/時間、ロードサイド型で 25人/時間と設定をしている。

過去の傾向を分析した結果、シフトが過剰となる原因は、大きく2 つあげられた。1つは天候の要因である。いくつかの店舗では、雨が降ることで客足が鈍り、各店舗で予想していた客数を大きく下回り、シフトが余剰となってしまった例が散見された。もう1つは、アルバイトのシフト上の問題である。多くの店舗で、アルバイトの1シフトの最短の時間を3 時間としている一方で、顧客の来店のピークは12 ∼ 13 時、19 ∼ 20 時の各1時間に集中しているため、顧客数の変動にシフトの増減を合わせることが難しくなっていることが確認された。

これらのうち、天候については事前に予測が困難なため対応が難しいが、アルバイトの最短シフトの問題は比較的容易に対応が可能であるように思われた。アルバイトが 2 時間以下のシフトを組みたいと思えるように、時給をコントロールすればよいのである。つまり、3 時間以上のシフトであれば、規定どおりの時給とするが、2 時間以下のシフトに入る場合には、規定の時給に 20%上乗せして支払うなどすればよい。これにより、2 時間だけシフトに入る人への支払いは、規定時給を支払う人の 2.4 時間分(2 時間×120%)となるが、シフトが余剰になり、3 時間分の人件費を支払うことに比べれば、0.6 時間分の余分な支払いがカットされることになる。

0.6 時間分(時給 900 円の店舗で時間当たり540 円分)は小さいようにも見えるが、全店舗で慢性的にピーク前後の時間で人員の過剰が生じている実態を踏まえると、B氏の担当する全店舗で1年分の効果は約 800万円となる。この数字はB氏担当エリアの営業利益に直接上乗せされる数値となるので、そのインパクトは決して小さくはないことがわかる。

計算:0.6 時間×900 円×朝夕2 回×1人分シフト×365
営業日×20 店舗=約 800万円

『状態的な俯瞰』で客数増を予想

次に、シフトが不足する場合(図表 2 の15 時近辺のようなケース)について考える。シフトが不足するケースの主要な原因は、近隣でのイベントの影響によるものであることがわかった。プロ野球の試合、デパートのセール、美術館の特別展示といったイベントに集まった人が、帰り道にB氏担当の店舗に立ち寄ることで突発的な顧客増がもたらされる。毎年のことであるものもあるが、多くは原因不明で片付けられ、クリスマスやお盆といった全国的な顧客増減をもたらすイベント以外に対しては、特に対応ができていなかった。

図表2 シフトと店員の余剰・不足

〈小問題①〉
イベントがレストランの客数に与える影響を評価するための方法を考えてください。

B氏は、イベントの影響を考えるために『状態的な俯瞰』を行い、イベントの客がどのようにB氏の担当店舗にたどり着くかを、プロセスを追ってイメージをしてみた。

イベント会場から同店に足を運ぶ客数には、イベントの集客数と、イベントの会場からB氏担当店舗への動線上の接続が影響しそうである。

まず、イベント会場からの店舗への動線上の接続について考える。B氏は、動線上の接続とは、人の向かう方向と距離によって規定されると考え、「会場から店舗の方向と、主として観客の向かう方向の重なり」と「会場から店舗までの距離」により顧客の増加が説明できるのではないかと考えた。つまり、会場と店舗の距離が近く、会場と駅の間に店舗がある(主として顧客が向かう先にある)場合には、流入する顧客が多くなり、会場と店舗の距離が離れ、会場が駅と反対側にあるような場合には流入する顧客が少なくなると考えた。これらのうち動線の接続は、量的な変数として取り扱うことは困難であるため、「会場から店舗の方向と、主として観客の向かう方向の重なり」を店長と議論して2 分類(重なりが多い/重なりが少ない)して、変数として扱うこととした。

次に、イベントの規模であるが、時間当たり客数で捉えることができそうである。例えば、野球の試合のように、ある時点(試合終了時)で顧客の多くが会場を出ることが想定されるようなイベントであれば、その時点の時間帯に顧客数のすべてを観客の規模としてカウントし、美術館のように顧客が徐々に吐き出されるようなイベントであれば総顧客数を開催時間で割った顧客数を時間当たりの顧客数としてカウントする。

B氏が受け持つ店舗のいくつかについて、イベントの集客数をイベントのない時と比較し、顧客の増加率の関係を分析したところ、図表 3 のとおりとなった。

図表3 顧客増加率∼イベントの特徴別

様々な種類のイベントがあるため、多少のバラツキはあるが、 会場から店舗までの距離が近いほど""会場から店舗の方向と主として顧客の向かう方向の重なりが大きいほど""イベントの規模が大きいほど"、顧客の数が増えるのを確認できる。

そこで、B氏はこれら3 変数の関係を重回帰分析で、定式化することとした。

重回帰分析とは、ある目的変数Y(今回でいえば顧客の増加率)とそれに影響をする複数の要素X1,X2,…(今回でいえば、会場から店舗までの時間、顧客の向かう方向の重なり、イベントの規模)の関係を

Y = aX1 + bX2 +…+ K(a,b,…Kは定数)の形で表し、X1,X2…がわかればYを予測できるよう、a,b,…Kを明らかにし、方程式を組み立てる分析である(詳細は、概念については多変量解析の教科書、答えの出し方についてはExcelのヘルプなどを参考にしていただきたい)。

今回、X1を会場から店舗の方向と顧客の向かう方向の重なり、X2を会場から店舗までの時間、X3をイベントの時間当たり人数とした時、重回帰分析によって顧客の増加率(Y)を表す回帰式を算出したところ、下式のとおりとなった。

ここで、X1は数量を表す変数ではないので、「重なりが少ない」を0、「重なりが多い」を1としたダミー変数化して分析を行っている。

Y=0.033X1 − 0.0050X2 + 0.000010X2 + 0.034

したがって、例えば会場から店舗への動線が重なった(X1 =1)、時間当たり来場者が3000人のイベント(コンサート等)が(X3 = 3000)、店舗から5 分の会場で開催される場合(X2 =5)、0.033×1 − 0.0050×5 + 0.000010×3000 +0.034 = 0.072で7%の顧客増加が生じると予想される。

なお、数式の当てはまりのよさを表す重相関係数は0.58で、必ずしも正確な予測ができるとは限らない(重相関係数は、実測値と予測値の間の相関を示す数値で、1に近いほど予測の適合度が高い)が、過去の実績をまったく踏まえずに顧客シフトを決めている現状の状態からは大きな進歩が期待できる。

『俯瞰』による余剰人員の活用先の発見

〈小問題②〉
予測よりも顧客数が少なくなった場合の打ち手を考えてください。

時間帯による推移に対してより自由度高くシフトが組めるようにし、加えて、イベントの影響を見込むこととしたが、それだけで100%顧客数に合わせたシフトが組めるわけではない。天候の影響や、イベントからの顧客の流れを予測し間違えた場合を想定し対応を考える必要がある。予測よりも顧客が多く来店した場合は、作業人員の増員を臨時で行う必要があるが、現実的には打ち手が限られる。よって、ここでは顧客数が少なくなった場合(「③余剰店員の活用」)について考えることとする。

予測が外れて、顧客数が少ないことがわかったタイミングで店員のシフトを急に変える(帰ってもらう)ことは困難であるので、他の活動に移すことを考える。移行先としては、店内の顧客対応以外の社内作業をさせるということがすぐに思いつくが、社内の作業のうち顧客が少なくなった場合にその都度アルバイト店員に切り出せる仕事はそれほど多くない。

既存の業務については実施可能なものはなさそうなので、新しく業務を作ることができないかを、『価値的な俯瞰』により考えてみた。

すると、そもそも顧客が予定よりも少ないことが問題の発端であるので、顧客自体を呼び込むことに工数を使うことができないかと考えた。しかしながら、人通りが極めて多い立地にあれば、余った人員が店頭に立ち、顧客の呼び込みを行うことも有効であるかもしれないが、B氏の担当エリアには店頭に立っての呼び込みが功を奏しそうなほどの通行量の多い店舗はほとんどない。そこでさらに、 空間的な俯瞰』を行う。店の前で顧客が少ないのであれば潜在顧客が多く存在している場所から顧客を引っ張ってくることができればよいのではないかと考えた。ここでB氏は、顧客の需要予測を行った際、イベントについて考えたことを思い出した。需要予測の際に考えたのは、イベントの帰り道の需要で瞬間的に顧客が増える効果についてであったが、イベントによる需要を消極的に待っているのではなく、積極的に取りに行くこともできるのではないだろうか。

例えば、余剰なシフトが出た場合には、余剰なシフト分の人員(店長が担当することになる可能性が高い)が車両を運転し、イベント会場と往復し、顧客を連れてくるのである。実際、B氏の担当店舗から車で 20 分圏内には、駅から徒歩15 分以上離れたところに野球場や演劇場などがあり、それら顧客の食事場所は近隣の店舗(食堂)のキャパシティではまかないきれていない。これらキャパシティからあふれた顧客は食事を取りたいが場所がない、といった状況になっていると想定され、顧客の取り込みは比較的容易であると考えられる。

また、これら駅から離れた施設の顧客は長距離を歩いて駅に向かう必要があったり、路線バスにすし詰めにされて運ばれることに対して不満があると考えられるので、B氏担当の都市型店舗(多くが駅から程近くにある)にA社の車両で運ぶことで、食事も取れて帰りの足も確保できる、と顧客のニーズを引き付ける要素が強いように思われる。

B氏のいずれかの店舗で、週に 3日程度(1店舗当たり1カ月半に1回程度)車両をピストン輸送で走らせ、1回につき20人程度の顧客を連れてくることができれば、年間での売上げ増効果は約 300 万円となる(3 日/週×52 週×20人×800 円=約 300万円)。

車両の配備方法・往復の回数などを工夫することでさらに売上げを伸ばすことも考えられ、まずは小規模にB氏エリアに配備された手持ちのミニバン(7人乗り)でテスト運営をしてみることとした。ミニバンでのテストの結果が良好であれば、店長に資格手当のインセンティブを与えて中型免許を取得させ、さらに新たにマイクロバスを購入するなどして施策の効果を極大化させることも可能と考えられた。

店舗スペース関連の業務効率化を考える

『分解』による回転率向上のための施策の発見

〈小問題③〉
ランチタイムの回転率を上げるにはどうすればよいかを考えてください。

スペース関連の打ち手としては「②回転率の向上」 ④余剰スペースの活用」があるが、まずは「②回転率の向上」を考える。

都市型店12 店舗のうち8 店舗で、平日ランチタイムの待ち行列が問題になっていた。8 店舗のうちの1店について調査したところ、客の入りの構成及び売上げ・限界利益は図表 4 に示したとおりであった。変動費である原材料費は客単価の35%であり、限界利益率は65%である。

図表4 ランチタイム(12∼13時30分)の売上げ・利益

B氏は10 分といった短時間で食事を取る客が一定程度存在し(A社では、ランチタイムには着席後 5 分以内に注文∼配膳のオペレーションを実行しているので、この客の滞在時間は15 分)、これらの割合を増やすことで、全体の回転率を上げることができるのではないかと考えた。これらの差分はライフスタイル・生活習慣の違いに起因すると推察し、人の食事のスタイル・習慣について、『斜めの分解』をすることにした。

  • (1)食べることをゆっくり楽しみたい(食事を味わいたい)
  • (2)食事を介して同僚・仲間と会話を楽しみたい
  • (3)より安く、よりおいしく食事を楽しみたい
  • (4)仕事が忙しいのでなるべく短くすませたい
  • (5)栄養、満腹感さえ得られればよく、極力短くすませたい

これらのうち3、4 番目のタイプの人は、うまく働きかければ食事を短くすませてもらえる可能性がある(5 番目のタイプの人はすでに短時間ですませている)。例えば、「食事提供後10 分で退店していただけるお客様は100 円引き」というキャンペーンが考えられる。当該顧客に100 円引きすることによる売上げ・利益の減少分を、新たに入店する客からの売上げでカバーできれば、財務的にも正当化できる。ある1店舗で実験を行った結果が以下のとおりである(図表 5)。

図表5 「食事提供後10分で退店の客は100円引き」とした場合のランチタイム(12∼13時30分)の売上げ・利益

100 円引きすることで回転率が上がり、ランチタイムの総客数を表す延べ座席数も300 席から330 席へ増えた。客単価については、滞在時間15 分(食事時間は10 分)の客には現在から100 円引きとした(平均 800 円から100 円を引いて700 円)ので、その場合の限界利益率は1人当たり420 円となる。

700 円−280 円(原材料費:本来 800 円×35%)= 420円

顧客数は 30 分の顧客の割合が減り、15 分の顧客が増え、トータルでの顧客の入り・売上げ・限界利益ともプラスとなった(1万2000 円の日商アップ)。この施策をB氏の担当エリアで全面展開した場合、年間売上げとして、1万2000円×240日(平日)×8 店舗=約 2300万円増えることが見込まれた。

『俯瞰』による店内スペース活用策の発見

次に「④余剰スペースの活用」について考える。

B氏は余剰スペースを"店内"と、 駐車場"に分けて検討することにした。まず『価値的な俯瞰』を行い、「飲食以外の活動の場(場所自体の利用料を得る)」と捉えた上で、具体的な売上げ向上策を洗い出してみることにした。

閑散時間帯(14 ∼ 17 時、21 ∼ 23 時)に、どのような屋内スペースに対するニーズがあるかとの観点から考え、以下のような可能性があることに気がついた。

  • 貸し会議室
  • セールス/商品説明の場(教材、保険販売、等)
  • カルチャーセンター(フラワーアレンジメント、絵画・習字、ヨガ、手話、手芸、郷土史学習、等)
  • 英会話レッスン
  • 学習塾、etc.

これらの打ち手の中でも、 カルチャーセンター」は、店舗近隣の場所貸しを行っている公的施設の予約が1カ月程度先まで埋まっているなど、顧客ニーズが高いことが予想された。そこで、ある店舗で試験的に顧客募集を行い、1カ月間運営し、顧客ニーズと収益性を確認してみることにした。

場所代単価を1000 円と設定することで、平日1日の売上げは+ 4000 円(4 講座開催)、追加的な費用はかからないので(店員が簡単なついたてを立てるだけ)、限界利益も+4000 円となった。また、受講者も平均で 5人、ドリンク等の飲食で300 円/人の利用があり、平日1日の売上げは+3000 円、限界利益は+ 1950 円となった。合計で売上げ7000 円、限界利益 5950 円の増加である。従来、平日14∼ 18 時のうち15 ∼ 16 時頃に70 席ほど埋まることがあったが、残りのスペース(30 席分)を2 講座に割いても十分対応可能であった。これらをB氏担当エリアの全店に展開することで、 年 間 売 上げとして、7000 円×240日×20 店 舗=3360万円増えることが見込まれた。

『俯瞰』による店外スペース活用策の発見

駐車場スペースについても、『価値的な俯瞰』を行い、「駐車のための場」だけでなく、「様々な活動で人が集まる場」と捉えることはできないかと考えた。ここで、人を集め、余剰スペースを活用して売上げを向上させる方策として、「場所自体の利用料を得る」 来店のフックとして使い、飲食売上げにつなげる」という2 つを考えることとした。

〈小問題④〉
収益への貢献度が高い"駐車場の余剰スペースの活用策"を考えてください。

駐車場であるので、まずは「駐車場機能の延長(車に関連するもの)」としてのアイディアが考えられる。また、さらに枠を広げ「様々な活動で人が集まる場」と捉えるのであれば、「生活(衣食住)・レジャーに関連するもの」といったアイディアも考えられそうである。これらを含め『価値的な俯瞰』を行い、駐車場スペースを活用した売上げ向上策を導出した。

《車に関連するもの》

  • 駐車場(レストラン利用客以外の人向け)
  • ペーパードライバーの練習場(例:車庫入れ練習)
  • 大型 2 輪バイクの練習場

《生活(衣食住)・レジャーに関連するもの》

  • ・フリーマーケット
  • 住宅展示場
  • 青空市場(例:野菜農家による朝市)
  • イベント会場(大道芸、ダンスショー等)、etc.

これらの打ち手について、 収益貢献インパクト"と"実行可能性"の 2 軸によって優先順位付けを考え、魅力度が高いと考えられたのは青空市場である。

試しに担当 20 店舗のうち、1店舗で毎週 3 回(水曜日7時∼ 9 時と14 時∼ 16 時、休日8 時∼ 10 時)に 2カ月間開催してみた。近隣の農家にテナントとして入ってもらい1店舗に 2 坪を駐車場から貸し出して、売上げの10%をA社が場所代として受け取る形式とした。すると、各テナントは標準的に 4000 円/回の売上げを上げ、10 テナントを入れていた試験店舗では1カ月に 4万 8000 円のA社の収入増となった。B氏の担当店舗のうち、10 店舗程度で同様の取り組みができそうであり、この試験的な結果を10 店舗分に拡張すると図表 6 のようになる。

図表6 青空市場の収益貢献

 

今後10 店舗で本格的に実施していくためには"安定的に供給者を確保する"ということが重要である。そのために、

  • (1)魅力的な商材を提供してくれる農家を特定すること
  • (2)当該農家に経済的な出店メリットがあること

がクリアされなければならない。

(1)については、神奈川県下に複数存在する卸経由の流通に乗らない直販を目指す若手農家の団体にアプローチすることでクリアできそうである。

一方で(2)は解決が難しい。十分な売上げが見込めない場合、参加してくれる農家数は減ってしまう。しかし、初期段階では、売上げが十分見込めるか不透明である。また、青空市場という性格上、天候の影響を受けて売上げが下ブレする恐れもある。

そこで、B氏は売上げ補償を行うことを考えた。B氏の決裁権限を越える判断となり、本社と折衝が必要となるため、折衝に必要な支払うべき金額を定量化してみることにした。

試算の条件は以下のとおりである。

  • 最低補償額は、試験店舗で得られたテナントの売上げの7 割の 33.6 万円/月(48万円×0.7)とする。
  • 売上げが試験店舗でのテナントの売上げの半分の 24万円/月(48万円÷2)に留まる。

その場合、A社が 9.6 万円分/月(1店舗内の10 テナント分)の商品を購入し、出店者への売上げを補償する。

当然、A社は食品を扱う企業であるので、買い取った野菜の金額はそのまま損失とはならず、それを原材料として転用することで損失の回収を図ることができる(仮に損失額の半分である4.8万円が損失と考える)。また、24万円のテナントの売上げの10%である2.4万円を場所代として得ているので、最終的に+ 2.4万円−4.8万円=−2.4万円/月となる。若干支出が発生するが、1店舗当たりで見ると、B氏の受け持ちの売上げ・利益の規模から見て、極めて少額であることがわかる。

ただし、一度に数多くの店舗で損失が発生し、それが長期にわたる場合には、全体の利益に与える影響も無視できなくなることから、「青空市場へは、1店舗ずつ順次取り組み、3カ月たっても黒字化が難しい場合には、その店舗での取り組みは取りやめること」を条件に、売上げ補償は承認されることとなった。

『価値的な俯瞰』でさらなる集客策を検討

青空市場を徐々に実行・拡大してみると、市場が繁盛している時にはレストランへの来店も増えることが明らかになった。調査したところ、青空市場には毎回100人程度の来場者が訪れるが、これらのうち平均して2 組(6人)が店内で飲食をしてくれることが確認された。

B氏はこれを喜びつつも、さらに顧客を呼び込むための仕掛けを作ることができないかと考えた。市場に来ている顧客に対して、レストランへの来店のきっかけを作るためには、青空市場で扱われている食材を使えばよさそうであるが、それだけでは月並みである。そこで、B氏は再度『価値的な俯瞰』を行い、繰り返し来店を促す要素として「味」だけではなく、「続きが気になるストーリー」や「競争性」といったものがあるのではないかと気がついた。そこで、青空市場で月ごとに販売額が多い上位 5 商品を使い、ランキング形式とすることで、競争をしている面白さや、贔屓の店舗が勝ち続けるかどうか気になるストーリーを作り、来店のきっかけにすることができるのではないかと考えた。

それまでは、業務効率化は抜本的なA社の改革につながらず、売上げが落ちていく中での対症療法(=延命的治療)でしかないのではないかと疑問を感じ始めていたB氏も、地域や店舗に応じたメニュー開発という施策まで含めて考えることで、現場の活性化及び業態全体の魅力度向上といった根本的な改善につなげることができる気がしてきた。

ダメなのは「わが社」ではなく「業界全体」であって、もはや低迷から逃れることはできないのではないかと、ともすれば暗い見通しを持ちがちであった心に、A社の成長の見通しが見える気がし、新たな目標の取り組みに向けて、モチベーションが上がっていくのを感じた。

おわりに∼"超"分析の本質

実際の仕事の中では、売上げが増えない、コストが減らない、効率が上がらない、という問題があっても、勘や経験に頼ったままの判断が横行し、それらに違和感を覚えながらも「昔からこうだったから」とか、「他に良い方法がないから」といって建設的な議論がなされないまま従ってしまっていることも多いのではないだろうか。

それらにメスを入れる手法として、これまで4 回にわたり、"超"分析の手法・活用のケースを紹介してきた。より合理的な意思決定を行うためには、単に分析の手続きとして使い慣れた方法を使うだけではなく、通常思いつく領域を離れて『俯瞰』し、それらを『分解』することで対象を洗い出し、対象を『比較』することが極めて重要である。今回の連載を通じて、読者の皆さん個々の抱える、今まで難攻不落に思えていた問題の解決や、仕事上の閉塞感の打破の手がかりとしていただくことができれば幸いである。



<プロフィール>
小清水  大 (こしみず・だい)
京都大学工学部卒、同大学大学院工学研究科修了。 国内事業会社(インフラ設計関連)を経てA.T. カーニーに入社。 エネルギー、化学、物流、小売業界を中心に、全社戦略(グループガバナンス、シナリオプランニング、ポートフォリオ戦略、中計策定支援)、事業戦略、オペレーション改革等を支援。


兼松  浩介 (かねまつ・こうすけ)
A.T. カーニー アソシエイト(本稿執筆時)
1978年米国ノースカロライナ州生まれ。2003年東京大学教養学部(国際関係論)を卒業し、A.T. カーニーに入社。金融、IT、エンターテインメント、自動車、ケミカル等の業界に対する全社戦略、新規事業戦略、営業改革、業務効率化、コスト削減等のプロジェクトを手がけている。

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