スマートホーム・ビジネス
戦略構築の必須条件

急成長するスマートホーム市場での成功の鍵は、グローバルで最先端の技術を取り込みつつ、各市場にローカライズされたサービスを提供することである。各々の得意分野を生かした事業パートナー構築が戦略構築の必須条件となる。

 

 

なぜ今、スマートホームなのか:4つの構造変化

現在、スマートホームを取り巻く環境には4つの不可逆的な構造変化が起こっており、市場の急拡大を確実なものにしようとしている。

 

1. コネクティビティとインテリジェンスの機能向上

これまでと比べて、ホーム・オートメーション・アプリケーションの使い勝手が飛躍的に向上している。スマートフォンにより、「家」は外からでも容易にコントロールできるようになった。ユーザーは、いつでもどこにいてもアプリケーションを操作でき、タッチ操作のみならず音声入力にも対応した優れたユーザー・インターフェイスも増えてきた。スマートフォンの登場により、新たなサービスプロバイダーの市場参入障壁は低くなり、品質と使い勝手の面での競争も促している。ビッグデータと人工知能(AI)を組み込むことで「家」はますますスマートになってきている。アプリケーションの中には、パーソナル・アシスタント機能を持ち、ユーザーの個別の要望とニーズを予測する学習機能を持つものも増えてきた(図1)。

 

 

2.インターオペラビリティ(相互運用性)

異なるメーカーの機器同士が相互接続できるようになるに従い、スマートホーム・アプリケーションはますます便利になっている。製品の相互運用については、物理層上から、アプリケーション層上での互換性確保に主軸が移りつつある。産業のエコシステムが既存の通信プロトコルに基づいて形成され、オープン・プラットフォームというコンセプトの下、緩く相互につながり始めたためだ。(図2、PDF版コラム『プロトコル標準化とオープン・プラットフォーム』を参照)。業界アライアンスは急速に拡大しており、多くのメーカーが複数の業界アライアンスに参加しているため、インターオペラビリティはこれからも少しずつ向上するだろう。

 

3. スマートホーム製品群の拡大と価格低下

スマートホーム・テクノロジーを採用した製品は幅広い分野で登場し、価格も一般消費者の手に届くものになりつつある。例えば、テレビ、オーディオ機器、洗濯機、歯ブラシ、防犯カメラ、サーモスタット、ドアロック、冷蔵庫、ブラインド、ベッド、メールボックスなどでは、すでにスマート化された製品が市場投入されている。市場価格はまだ高いが、クラウドベースのバックエンド・サービスの利用拡大や通信モジュールやセンサーの価格下落により、近い将来、状況が変わるだろう(図3)。

例えばスマートテレビの価格は毎年約10%ずつ下がっており、現在のスマートテレビの価格は5年前の半分になっている。他の多くのスマートホーム製品は、現状平均して通常の2倍程度の価格差しかなく、これらの製品も今後5年間を境に手が届くものになるだろう。

 

4. 新しい収益モデル

スマートホーム製品は、家電のみならず広範なネットワークにも接続されているため、スマートホーム・エコシステム全体で、企業が様々な収益モデルを構築できるようになってきている。

送電網への接続:例えば、電力網に接続されたスマート・メーターとホーム・エネルギー・マネジメント・システム(HEMS)によって、電力会社は消費者の電力使用量をリアルタイムで測定できる。その情報を用いて、電力会社は需要をオフピーク時にシフトし、追加の発電容量への投資を抑制しながら、同時に、顧客が電気代を節約するのに役立つサービスを販売できる。

インターネットへの接続:ドアに液晶ディスプレイが付いたインターネット冷蔵庫では、オンライン広告やインターネットサービスを販売することで収益を生み出せる可能性がある。もう1つの例は、「IFTTT(イフト)」だ。これは元々「if-this,then-that」というコンセプトに基づき、オンライン・アクティビティ(電子メールを作動させるなど)を自動化するWebサービスで、機器の制御を自動化する一般的なスマートホーム・プラットフォームの1つとして徐々に人気を集めている。

デジタル以外のサービスへの接続:洗濯機に付ける「Amazonダッシュボタン」のような機器では、スマートホームの概念をEコマースを通じて商品販売につなげた。こうした便利な機器がなければ購入されなかったかもしれない商品からの売上も今後増えてくるかもしれない。スマートホームは、もはや想像上の話ではなく、新たな収益成長の機会の一つとして様々な企業に大きなビジネスチャンスを約束する分野になってきている。

 

スマートホーム市場の進化:新しい時代の幕開け

現在、世界のスマートホーム市場規模は、約150億ドルに相当すると推察される(スマートTVや家庭用太陽電池システムは除く。なお、市場規模の定義と範囲は「付録」を参照)。この規模はすでに大きく見えるが、関連する市場全体と比べると、ごくわずかなシェアを占めるに過ぎない。

例えば、家電製品と家具の世界市場規模(スマート製品と非スマート製品を含む)は1兆ドルを超えており、ホームセキュリティ・ソリューションの世界市場だけでも約300億ドルに及ぶ。今後、スマートホーム・アプリケーション価格が下がり、市場への浸透が飛躍的に拡大することが想定され、スマートホームの世界市場は、2020年には500億ドルを超え、2030年にはおよそ4,000億ドル、全家電製品市場の40%以上に達すると予測される(図4)。

 

5つのアプリケーション・カテゴリーが牽引する大きな市場ポテンシャル

 

1. セキュリティ管理

ユーザーは、スマート・セキュリティ管理デバイスを通して自宅をリモート監視できる。ユーザーは、自宅不在時に、安全やセキュリティ侵害(空き巣、水漏れ、火事の危険など)情報をリアルタイムで受け取ることができる。このカテゴリーの機器は他に、防犯カメラ、モーション・センサー、煙またはガス探知器、ドアロック、家庭用セキュリティボックスなどがある。

このカテゴリーの世界市場は、2015年に約16億ドルに達した。この市場は今後年平均28%で成長し、接続性の向上とホームセキュリティへの関心の高まりが要因となり、2030年には600億ドル以上に達すると見込まれる。

セキュリティ管理アプリケーションの普及率が将来的に高まる国を特定する指標として、InstituteforEconomicsandPeaceの「世界平和度指数(GlobalPeaceIndex)」などを用いた。また、セキュリティ問題が少ない国でも、高齢化が進むことで、年老いた親と離れて住む家族向けにネット接続カメラの需要が高まる可能性がある。米国は先進国ではあるが、セキュリティの懸念と一戸建て住宅の割合が高く、このカテゴリーで世界最大の市場になると予測する。

2. エネルギーと資源管理

このカテゴリーの機器は、エネルギー使用量をスマートに管理し、電気代を削減して家計を助ける。製品の例に、サーモスタット、冷暖房システム、照明、給油機、ユーティリティメーター、電気コンセント、芝生用スプリンクラーなどがある。

このカテゴリーの市場規模は、2015年には約11億ドルだった。年平均30%で成長し、2030年の市場規模は約560億ドルに達すると推測している。米国と欧州は、環境に対する意識の高い消費者が多く、このカテゴリー市場の成長をリードするだろう。ホーム・エネルギー・マネジメント・システム(HEMS)に対応できるインフラが未だ整っていないアジアでは、普及率は比較的低くなると予想される。

このカテゴリーの成長の主な原動力は、DSM(DemandSideManagement)の採用だろう。このDSMは、家庭のエネルギー消費パターンを変えることにより、エネルギー需要を平準化することを目的としている。DSMは、電力会社とユーザーの双方にメリットをもたらす。電力会社は、ピーク時の発電容量要件を削減して電力網へのストレスを軽減し、ユーザーは消費をオフピーク時にシフトすることで電気代を安く抑えることができる。住宅でリチウム電池や電気自動車を利用して蓄電できるようになり、需要が低い時に電力を貯め、必要な時に蓄えたエネルギーを使えるようになれば、この効果はさらに高まる。

3. 利便性と快適性

利便性と快適性に関するアプリケーション市場は、掃除機、洗濯機、冷蔵庫、ストーブ、食器洗浄機、オーブン、コーヒーメーカー、カーテンやブラインド、タンス、メールボックスなど多岐にわたり、最も大きいカテゴリーになっている。2015年、このカテゴリーの市場規模は約90億ドルだった。これは、2,000億ドル以上の家電市場の中で見ると未だごくわずかな割合でしかない。しかし、スマート家電の機能向上により、このカテゴリーは持続的に年平均22%の成長を遂げ、2030年の世界市場規模は1,900億ドル近くに達すると見られる。

このカテゴリーのもう1つの大きなトレンドは、「家」を超えたサービスとの連携である。先に取り上げた「Amazonダッシュ」サービスは、スマート家電が消費財のオンライン購入プラットフォームになるモデルケースである。例えば将来は、スマート分析で使用量をチェックして、在庫を切らす前に商品が自動的に家に届くサービスも一般的になるかもしれない。

4. 健康とウェルネスの管理

健康とウェルネスのスマート機器は、ユーザーが健康状態をトラックして潜在リスクを知ったり、患者がきちんと治療しているかをチェックしたりするのに役立つ。例えば、スマート歯ブラシ、体重計、体温計、健康モニタリング・トイレなどがある。現在の世界市場規模は11億ドルで、今後年平均30%以上のペースで成長し、2030年には約700億ドルに達すると見込まれる。このカテゴリーにおける成長の主な原動力は、高齢化、慢性疾患の拡大、医療費抑制のために予防ケア・在宅ケアが重視されることや、健康やウェルネス維持への関心の高まりなどが挙げられる。

このカテゴリーでは、家庭と医療機関とのシームレスな連携が大きなトレンドになる。先進国の中には、医療費抑制のために、在宅介護を推進する政府もある。在宅であっても、スマートホーム機器を使えば遠隔モニタリングや遠隔相談ができ、データ収集も可能なため、より正確な診断や医療サービスが受けられる。メドトロニックの遠隔糖尿病モニタリング・ソリューションはその一例だ。ビッグデータとAIの進歩に伴ってこの種のアプリケーションは増えるだろう。課金で収益を生み出す巨大な新サービスのビジネスチャンスが拡がって行くと想定される。

5. メディア・エンターテインメント

セットトップボックス、タブレット、パソコンなど、エンターテインメント・サービスにアクセスするための機器の多くは、すでにインターネットにつながっている。ネット接続できるテレビもすでに一般的になっている。ここでは、従来の機器を超えてスマート化・ネット接続される機器を「スマートデバイス」と定義する。例えば、ネット接続されたオーディオ・システムや音声認識機能搭載のスピーカー、スマートミラー(タブレット端末の画面のように鏡面に情報が表示される)、スマートテーブル、スマートホーム・ハブがこのカテゴリーに当てはまる。最近話題の「AmazonEcho」や「GoogleHome」などのスマートスピーカーは、他の家電とつなげることで、家電を音声で操作できるようになる。

2015年、このカテゴリーの世界市場規模は9億ドルだった。今後、年平均27%で成長し、2030年に300億ドル以上に達すると見られる。家庭用AV機器への支出が多い米国や日本はアーリーアダプターとなり、同カテゴリーの成長の大きな原動力になる可能性が高い。将来、同カテゴリーの機器は、複数のスマートホーム機器のための統合ユーザー・インターフェイスになるだろう。すでに、セキュリティ・システムに接続して玄関のベルが鳴ると訪問者の映像を映し出す機器もある。さらに、タクシーの予約や業者への電話を代理でやってくれる「プライベートバトラー」のような存在に進化することも可能だ。

 

地域ごとに異なる市場拡大

北米市場はスマートホームのアーリーアダプター市場になっているが、その後、市場の中心は徐々にアジアにシフトしていくと想定される(図5)。

具体的には、アジアは2027年までに欧州を、2030年までに北米を追い越すと予測される。経済規模から、成長の大半は中国と日本が占めると想定される。

 

北米

米国は世界で最も早く市場の立ち上がりを見せている。米国にはビッグデータの巨大企業Apple、Google、Amazonの本社があり、強力なスタートアップ・エコシステムも併せ持つ。そのため、新しいイノベーションはまず初めに米国内市場で展開され、その後世界各国に広まるという流れがある。このトレンドは、今後10年にわたって続く可能性が高い。

米国の市場規模は現在約40億ドルで、年平均25%で成長を続け、2030年には1,000億ドルに達する勢いだ。米国では幅広いサービスが利用でき、個人消費は旺盛で、一戸建て住宅の割合が高く、DIY(DoItYourself)文化も根強いことを考慮すると、同市場はすべてのアプリケーション・カテゴリーで今後10年間にわたって世界をリードすると考えられる。

欧州

欧州は、現在スマートホーム世界第2の市場だ。現在の市場規模は40億ドルだが、2030年までに1,000億ドル以上に成長すると予想される。各国市場の特徴は、所得水準、エネルギー価格、消費者の嗜好、製品の手に入りやすさによって異なる。例えば、ドイツ、英国、フランスなどのように、国民1人当たりの医療費が高く高齢化が進む国では、健康とウェルネス関連のスマートホーム・システムの普及が進むだろう。デンマークやスウェーデンなどの北欧諸国は、環境にやさしい技術で長年世界をリードしており、国民1人当たりのエネルギー消費量が最も高く、スマートHEMSの普及で他国に先んじると見込まれる。

アジアパシフィック

アジアパシフィック地域は、2030年には世界のスマートホーム市場の25%以上のシェアを占め、市場規模は1,200億ドル近くに達すると見込まれる。まずは日本がアジアのスマートホーム市場をリードするが、2020年頃には中国がアジア最大の市場になると見込まれる。

中国では家計所得の大きな伸びがスマートホームの急速な普及を牽引していくと想定される。エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの予測によると、2030年までの間に、年収3万5,000ドルを超える中国の世帯数は4,000万世帯に上る。2014年から2030年の間に年収3万5,000ドル以上になる世帯数の推計では、調査対象国60カ国のうち中国が最も増加すると見られている。ライセンスや検閲の問題により、GoogleやAmazonなどのグローバルなテクノロジー企業が中国のスマートホーム市場に進出するのは難しいと考えられるため、中国は、Tencent、Baidu、Alibabaなどの国内大手テクノロジー企業を中心とする独自のエコシステムを形成する可能性が高い。

一方、日本のスマートホーム関連機器を導入する世帯の割合は比較的高い。高齢化が進み、国民1人当たりの医療費も高いことから、健康とウェルネスに関するスマートホーム・ソリューションの導入意向は高いだろう。また、最近になり、日本でもスマートスピーカーが国内外各社から発売され、家電メーカーだけでなく通信業界や電力業界からのサービス提供も活発化してきており、様々な分野でスマートホーム市場が徐々に立ち上がりつつある。

韓国や台湾なども、高所得世帯が多く、スマートホームが普及すると考えられる。特にソウルと台北は「スマート国家」実現に積極的で、スマートホーム市場の立ち上がりを後押しするだろう。例えば、韓国の松島(Songdo)新都市は、気温、エネルギー使用量、交通量を監視するセンサーやその他多くのスマート機能を持つ、350億ドルをかけたスマートシティで、スマートホーム普及の環境が整っている。GCC(湾岸協力会議)加盟国もスマートシティの開発を進めており、スマートホームの普及も進んで行くと思われる。

東南アジアとインドでは、高所得世帯の割合が低く、国内の大手スマートホーム関連企業も少ないことから、スマートホーム普及率は低いと推測される。唯一の例外はシンガポールで、スマートホームの普及率は高くなるだろう。シンガポール政府はスマート国家構想を推進しており、都市国家を「コネクティッドな」国に変えて、移動性、健康、生活、サービス水準の向上を目指している。

 

業界展望:スマートホーム・ビジネス戦略構築の方向性

 

プラットフォームが進化するにつれ、スマートホーム産業は、次の3つの主要機能に集約していくと予想される(図6)。

 

アプリケーション・プロバイダー:最終製品を提供する企業カテゴリーで、現在、Samsung、LGなどが含まれる。多くのアプリケーション・プロバイダーは、セキュリティ会社、電力会社、通信会社、病院などのように、特定領域の製品・サービスに特化し、国ごとに異なるローカル企業も多い。

プラットフォーム・プロバイダー:スマートホーム・ハブやバックエンドのプラットフォームを提供する企業カテゴリー。Amazon、Google、Appleなどのテクノロジー・グローバル・プレイヤーが主導するケースが多い。また、多くのアプリケーション・プロバイダーであるSamsungなどの家電メーカーも独自プラットフォームを構築している。

コンポーネント・プロバイダー:半導体やセンサーなどの電子部品に特化している企業やODMs(OriginalDesignManufacturers)およびEMS(ElectronicManufacturingServices)企業がこのカテゴリーに含まれる。

 

1. アプリケーション・プロバイダー:スマートホーム業界のガンホーやミクシィになる企業はどこだ?

未来のスマートホーム・アプリケーション産業はモバイル・アプリケーション産業と共通項が多く、大きな可能性を秘めている。スマートフォンの登場で、ユーザー獲得プラットフォーム、決済プラットフォーム、モバイル端末からのネット接続環境などが発展し、スマートフォン・アプリ経済という独自のエコシステムを生んだように、スマートホーム産業もまた、新しいビジネスのエコシステムを作り出すと見込まれる。スマートホームのプラットフォームが進化し、さらにオープンになるにつれて、新規参入企業は新しいスマートホーム・アプリケーションを数多く創出していくだろう。

例えば、冷蔵庫、オーブン、ガスコンロがシームレスに自動連携したスマート・クッキング・サービスが実現するかもしれない(図7)。冷蔵庫の中身データと買い物履歴に基づいて、作れそうな料理をスマホでチェックする。メニューを選んだら、冷蔵庫が自動的に足りない材料をネット注文し、2時間以内に玄関先まで配達される。その間にメニューとレシピの情報はキッチンの電化製品に送信され、事前設定が行われる。そして数時間後には、ミシュランレストラン並みの料理が最低限の手間でできるサービスも登場する可能性がある。

 

しかし、スマートホーム・アプリケーション市場はまだ黎明期にあり、洗練された製品群はまだ少ない。短期的には、企業はユーザーが抱える課題の1つか2つに特化した製品提供が主軸となるだろう。しかし市場が成熟するにつれて、製品単体ではなくサービス提供によってユーザーの生活を便利にするアプローチが不可欠になる。今後、各企業の製品自体の機能差が縮まるにつれ(製品のコモディティ化)、サービスモデル自体が企業の差別化要因になっていくと考えられる。

将来有望なサービスモデルの1つに、消耗品やレンタル事業がある。中でも、「Amazonダッシュ」サービスが最も顕著な例だが、このモデルはハードウェアのレンタルビジネスにも展開可能だろう。メンテナンスや部品の交換・補充が必要な製品をネット接続により定期モニタリングし、月額利用料を支払えば自分でメンテナンスや補充をしなくても済むようなビジネスモデルが登場するかもしれない。

もう1つの方向性は、パーソナライズ・サービスというモデル。AIを利用してユーザーの行動を分析し、各人にカスタマイズされたサービスを提供するもので、ネットの世界では、ターゲット広告などすでに一般的に普及している。AIがユーザーの利用パターンをモニターしてサービスを自動提供するようなこのモデルは、物理的な世界にも拡張されるだろう。例えば、毎朝目が覚める時間になると照明や室温が調整され、キッチンに行くと必ず淹れたてのコーヒーが用意できている、というようなサービスは既に実現されている。

第3のサービスモデルは、複数製品の統合サービス。前述の通り、複数製品を統合管理して自動化することは、個別製品を組み合わせて別々に運用するよりもずっと高い価値をユーザーに提供できる。このモデルのポテンシャルはかなり高いが、複数のアプリケーション・プロバイダーの協働が重要な課題になるだろう。

私たちの考える4つ目のサービスモデルは、物理的サービスとの統合モデルである。人型ロボットが広く一般的になるまで、衣服をたたむなどの多くの作業は、高度な技術を要し、一般家庭向けに商品化されるのは難しいだろう。こういった領域を補完する付加的なサービスの提供はビジネスチャンスになる可能性がある。例えばロボットクリーナーが家を掃除しながら、掃除しきれていない箇所のデータを収集する。そのデータをクリーニングサービス会社に転送して、クリーニングスタッフが最も汚れのひどい箇所に焦点を当てて作業を行うことで、効率よくサービスを提供できるかもしれない。

また、スマートホーム・アプリケーション市場がスマートフォン市場と同様の発展を遂げるとすると、スマートホーム市場は、ショートヘッドかつロングテールな市場になるかもしれない。言い換えれば、モバイルゲーム会社のガンホーやミクシィなどのような一部の企業に収益が集まる一方で、多くの企業が低収益ながら共存する裾野の広い市場になる可能性がある。

2. プラットフォーム・プロバイダー:スマートフォン・プラットフォーマー対ローカル・アライアンス

スマートホームの分野で最も大きなトレンドの1つは、スマートホーム・ハブの登場だ。このハブにより、ユーザーは、これまで縦割り型だったスマートホーム製品を管理できるようになる。スマートホーム・ハブの概念は以前からあったが、Google、Amazon、Apple、BSH、Samsung、Panasonicのようなテクノロジー企業の参入と共に注目を集め始めている。

SamsungSmartThingsHub、AmazonEcho、GoogleHomeなどのAIを用いた個別ハブやスマートスピーカー機器、もしくは、AppleのHomeKitなどのスマートフォン自体をプラットフォームにしたものなど様々あるが、スマートスピーカーを中心として市場が急速に立ち上がってきている。また、これらテクノロジー企業を超えて、多くの企業が、スマートホーム製品とアプリケーションを統合するスマートホーム・プラットフォーム事業の構築に動き出している。これらプラットフォーム・プロバイダーは、3つの大きなカテゴリーに分類できる。

生活サービスプロバイダー:もともとは、特定のアプリケーション分野に重点を置いていた通信事業者や、電力会社、セキュリティ・サービス会社など、主にローカルサービスを志向する企業

デジタル・プラットフォーマー:スマートフォン・プラットフォーム、Eコマース会社、オンライン・ポータルなど、固有のプラットフォーム機能をスマートホーム事業領域に拡張しようとしている企業

家電メーカー:スマート家電をすでに提供している企業スマートホーム市場が製品中心からサービス志向に進化するにつれて、プラットフォーマーが成功するには、4つの要素を満たす必要があると考えられる。

➀スマートホーム製品との互換性の確保

スマートホーム・プラットフォームは、スマートホーム製品との互換性の確保が必須となる。互換性形成をリードするためには、様々な企業が群雄割拠するなかで、通信プロトコルの標準化やAPIを通したエコシステム形成が必要で、世界規模の業界影響力を持つ企業に優位性がある。

➁ビックデータ・AIの機能提供

スマートホーム・アプリケーションは断片的な消費者の情報を集めることはできるが、プラットフォームはすべての情報を総合的に蓄積でき、より高度なインテリジェンスの提供を可能にする。高度なビッグデータ分析とAI機能の提供は、プラットフォーム・プロバイダーとしての差別化要因になり、成功の条件の一つとなる。

➂大規模なユーザー数の確保
スマートホーム・プラットフォームにとって最も重要で、価値を高める役割の一つは、ユーザー同士またはユーザーとアプリケーション・プロバイダーを「つなぐ」ことである。すでに大規模なユーザーベースを持つプラットフォーマーは非常に有利となる。一般的に、大規模なプラットフォームはより大きく成長し、小規模なプラットフォームは淘汰される傾向にある。

➃決済プラットフォームの提供

GooglePlayやAppStoreが開発者を引き付ける理由は、決済プラットフォームにある。30%の取引手数料を取られるものの、GoogleとAppleのプラットフォームによりアプリ開発者は即座に市場にアクセスし、収益を得ることができるためで、このことはスマートホーム・プラットフォームにも通じる。新たな決済手段をユーザーから獲得するのは一つのハードルになるが、決済機能の提供はエコシステムを構築する上での必須要件となるだろう。

全世界で見ても、プラットフォーマーとして4つの要素すべてを満たしている企業はほんの一握りだ(図8)。GoogleとAppleだけが、世界規模であらゆる機能を備えている。AmazonやAlibabaなどのEコマース大手もそれらの機能を持っているが、地理的範囲が限られている。一方、大手家電メーカーは、世界的な影響力を持っているものの、ビッグデータ分析とAIに関する能力はまだ十分ではないだろう。大手家電メーカーは、堅牢な決済プラットフォームを構築する必要がある。さらに、生活サービスプロバイダーは、ローカルな顧客基盤や開発の進んだ決済プラットフォームにアクセスできるものの、グローバル展開やそれ以外の主要な要素が著しく欠けている。

 

3. コンポーネント・プロバイダー:グローバル競争の世界。ただし、ニッチ戦略の可能性は残る

コンポーネント・プロバイダーは、SoC(システム・オン・チップ)設計者、半導体メーカー、センサー生産業者、ODM企業、EMS企業などの水平分業を担う企業を含む。スマートホーム製品は、スマートフォンやタブレット製品と基本的な技術が似ているため、上流の既存のテクノロジー企業は引き続き業界をリードする可能性が高い。また、ODMとEMSの大手企業にとっては、スマートフォン市場が飽和状態になりつつあるなか、スマートホーム市場の拡大は好機と言えよう。これらの企業が成功を収め続けるには、コストリーダーシップ、技術革新、川下企業との強いパートナーシップを維持することが重要となるだろう。コンポーネント業界の全体像はあまり変わらないと考えられるが、ニッチ企業にも事業機会が広がるチャンスもある。例えば、アプリケーションやプラットフォーム企業が新たな製品投入を増やしていく中で、カスタマイズ可能なコンポーネント・キットの需要は高まるかもしれない。また、3Dプリンターとファブレス(工場を持たない)生産は、新たなプレイヤーの市場参入を比較的容易にするだろう。

 

スマートホーム産業の将来展望

 

「スマートホーム」は様々な意味に解釈されるため、業界動向を完全に把握することは難しい。しかし、この産業がどのように進化するのかについて明確な展望を持つことは、成功への鍵となろう。現在は、多くの企業が相互運用性を高めてAIを進化させながら新製品・サービスを導入し始めている試験期にあり、スマートホームはいまだ定義があいまいな産業である。しかし2020年代に入ると、新しい家電はネット接続機能やインテリジェント機能を初めから標準装備したスマート製品になるような統合期を迎えるだろう。それ以降、ほとんどの家電がハブにつながり、製品とサービスはさらに統合され、パーソナライズされていき、本当の拡張期は2025年頃に始まると想定される。

拡張期において、インターオペラビリティはもはや問題ではなくなり、AIは非常に高度化し、スマートホーム製品はまるでロボットのような自律的な存在になっていくだろう。また、製品自体はコモディティ化する可能性が高く、価値はサービスに大きくシフトすると想定される(図9)。

 

1. グローバルで最先端な技術を取り込みつつ、各市場にローカライズされたサービスを提供すること

スマートホーム・ビジネスでは、スマートフォン・ビジネスとは異なり、「すべてに通用する万能な」多国統一戦略をとることは失敗を招く可能性が高い。スマートホームの市場戦略では、スマートフォンよりもずっと、それぞれの地理的環境への適応が重要になる。複数の地域で機能する共通プラットフォームはあるかもしれないが、サービスは各地域市場のニーズに合わせる必要がある。例えば、健康とウェルネスの管理アプリケーションは、地域の病院・薬局とのコラボレーションが必要で、より便利で使いやすいアプリケーションにするには、地域のEコマースや物流サポートが重要になる。セキュリティ管理アプリケーションでは、地元のセキュリティ・サービスや警察との連携が必須となるだろう。さらに、スマートホームの採用は、規制、プライバシーやセキュリティへの懸念、業界のバリューチェーン、ホーム・アプリケーションの標準、そして産業インフラストラクチャ(とりわけユーティリティ、通信、セキュリティ、医療)など、その地域における変動要素の複雑な組み合わせに左右される。(PDF版コラム『プライバシーとサイバーセキュリティの懸念』を参照)。

つまり、市場が立TheBattlefortheSmartHome:OpentoAll17プライバシーとサイバーセキュリティの懸念スマートホーム普及を妨げるものの1つは、プライバシーとセキュリティに対する消費者の懸念だ。米国政府による監視、国主導のハッキングを暴く報道、世間の耳目を集めた情報漏洩などをきっかけに、人々は自分の生活をインターネットに接続することをためらうかもしれない。インターネット、特にスマートホーム・アプリケーションは、プライバシーが侵害されるだけでなく、身の安全をも脅かす可能性があるからだ。アプリケーション開発者は、セキュリティを最優先して製品を開発する必要がある。1つ間違えば、その企業の評判を著しく下げ、財務状況に甚大な損失をもたらすだけでなく、スマートホーム産業全体の発展が滞ることもあり得る。ち上がるかどうか、市場にどんな特徴があるかは、都市によって大きく異なる可能性がある。慎重に市場を選択し、各市場にカスタマイズされた戦略を構築することが重要である。

 

2. 製品の作り込みから始め、将来の高付加価値サービスへのシフトに備えること

洗練された製品がまだ十分出回っていないことを考えると、最初に乗り越えるべき課題は、スマートホーム・デバイスとして納得できる製品を作りこむことである。しかし、市場が進化するにつれて、とりわけアプリケーション・プロバイダーが成功するためには、サービス指向のアプローチが重要となる。そして、プラットフォームおよびコンポーネント・プロバイダーにとっては、アプリケーション開発者をサポートし、製品が将来コモディティ化する事態に備えることが重要になるだろう。最初は、ユーザーが本当に欲しいサービスに特化したシンプルなサービスモデルが鍵となるかもしれない。

例えば、ある程度カスタマイズできる、レンタルまたは消耗品交換サービスモデルは早く立ち上がるかもしれない。さらには、AIが進歩し、製品の機能が高度化するのに伴い、複数の製品をまとめて制御するためにパーソナライズされた統合サービスを開発するか、または物理的なサービスとつなげることが、イノベーションの中心となるだろう。現在のオンラインビジネスと同様に、収益モデル(サブスクリプション、ペイ・パー・ユースに基づいたものか、または取引手数料、その他のオプション)を選択することもまた、重要な意思決定ポイントになるだろう。

 

3. 各々の得意分野を生かした事業パートナーを構築し、勝ち組のエコシステムを形成すること

GoogleやAppleなどのスマートフォン・プラットフォーマーは構造的な優位性をもってスタートするが、通信会社、セキュリティ会社、電力会社、家電メーカー、オンライン企業にも機会はある。例えば、グローバルで業界全体に影響力を持つ家電メーカーは、ユーザーアクセスや決済プラットフォーム機能を提供する通信会社や電力会社など、地元のサービス会社と協力することが可能だろう。あるいは、決済プラットフォーム、ユーザーアクセス、ビッグデータ機能を持つローカルのインターネット大手は、ODMとパートナーシップを組み、デバイス分野に参入することもできる。

または、グローバルな家電メーカーは、ローカル市場の住宅建設業者や不動産開発業者と協力すれば、その地域の顧客にアクセスすることができる。スマートホーム産業は、地理的に異なる複数の産業とバリューチェーンから構成されている。従って、他業界の企業と提携することは必至である。どこと提携するかは、すべての企業にとっての戦略課題である。そしてどこと提携するかによって、どれだけの価値が得られるかが決まってくる。

 

4. 巨大市場の急拡大に備え、迅速かつ大胆な意思決定を行うこと

市場の拡大は軌道に乗りつつあり、そのポテンシャルは大きい。市場規模が2030年までに4,000億ドル(現在のタイのGDP相当)以上になるという私たちの市場予測が正しければ、スマートホーム市場は、技術セクター全体で最も有望な成長分野になるだろう。この産業の最大の弱点は、真に統合されたプラットフォームがないことだ。スマートホーム市場は、細分化し、サイロ化している。すなわち、セキュリティ管理はセキュリティ・サービス会社が担い、メディア・サービスは電話会社が提供し、エネルギー管理は電力会社の領域という具合だ。

インターオペラビリティが向上し、複数のスマートホーム・ハブが運用開始したにもかかわらず、ユーザーが一つのインターフェイスで全サービスを制御できる統合サービスを提供する企業は未だ出てきていない。統合されたプラットフォームを市場に投入し、最初の成功者となれば、その企業は決定的な競争優位を確立できるだろう。

 

企業はこの4つのポイントに留意することで、今後十数年にわたって成長が見込まれるスマートホーム市場で勝負することができるだろう。

 

【執筆者】

NaveenMenon パートナー(シンガポール)

SridharNarasimhan パートナー(シンガポール)

NikolaiDobberstein パートナー(ムンバイ)

TomooSato プリンシパル(シンガポール)

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