インドネシアの持続的な経済拡大

今後15年間はインドネシアの将来を定める重要な時期となる中、国内外の企業にとって幅広い事業機会が存在する。

 

世界で4番目の人口大国であるインドネシアは、約20年にわたって、驚異的な成長を享受してきた。GDPは5倍以上に拡大し、G20参加国内で最も大きく順位を上げ、今や、世界で16番目の経済大国となった。1997年から1998年にかけてのアジア経済危機後の民主化により、2000年から、インドネシアのGDPの年成長率は3.5~7%で推移し、標準偏差が0.7という世界で最も安定した成長を遂げている。2009年の経済危機においても、メキシコやトルコ、マレーシア、タイなどの多くの国がGDPの落ち込みを経験した中で、インドネシアは4.6%の成長を実現した。

様々な要素が複雑に絡み合って、このとてつもない成果を後押ししているが、インドネシアは成長を持続するための障害にも直面している。このレポートでは、政策を強化し海外投資家を引き付けることでどのようにインドネシア政府が成長を持続させられるか、インドネシア国内外の企業が何を経営アジェンダの優先事項にするべきか、について議論する。

 

経済的恩恵

インドネシアの経済成長は国内需要がけん引している。2000年から2015年までの間、GDP成長の90%以上が個人消費と国内投資によるものだった。これは、他のアジアの国と比較すると、特異な構造である(図1)。

 

4つの包括的な要因がこの経済の好循環を生み出した。

総労働所得

過去15年にわたって、労働力人口が3,000万人拡大した。人口増加は国の家族計画プログラムの中で減速してきたが、今も年1~2%の着実なペースで伸びている。都市部では、年3%のペースで2000年から急速に人口が増加し、賃金はここ10年で倍になり、好景気の引き金になった *1
*1. 国際労働機関によると、2004年から2015年にかけてインドネシアの平均収入は115%増加した

個人消費

労働所得の増加により所得は大きく伸びた。年収5,000ドル以上の世帯の割合は、2000年にはわずか5%だったが、現在では70%以上に急上昇した *2。結果として、総世帯支出は8倍に増加し、2000年から2015年までGDP成長の55%に寄与した。

*2:Market Indicators For 2017Economist Intelligence Unit)による

企業活動

個人消費の急激な伸びは、小売や貿易、製造、サービスなどの様々な産業で企業活動を加速させた。インドネシア証券取引所の総時価総額はこの15年で15倍になり、現在では約5,000億ドルだ。この企業活動の加速が、賃金増加を支えてきた。

投資

企業活動で生み出された資金は再投資されてきた。総資本形成の形での投資は、政府によるものも含め、GDP成長の2番目の貢献要因であり、2000年から2015年にかけてのGDP成長の36%に寄与した。

この好循環が、政治の安定性、社会保障、教育といった社会の発展に貢献し、国の経済基盤を強固にしている。結果としてインドネシアは、今後20~30年で世界第10位の経済大国になるべく成長を続けている。

 

資源依存を乗り越えて

歴史的に、インドネシアは天然資源に依存してきた。1980年には、農業と鉱業・公益事業が国のGDPのほぼ半分を生み出していた(図2)が、その割合は2015年までに約23%まで減少した。安価な人件費と海外投資、新技術のおかげで製造業が成長し、そのGDPへの貢献は、1980年の12%から1997年には27%まで増加した。そして2000年代には、貿易や小売、接客、運輸、倉庫、通信などのサービス産業に経済が移行した。豊かな労働力人口と世帯消費に支えられ、この好循環は拡大し、サービス産業は現在、GDPの約45%に貢献する。

しかし、特定の産業のGDPへの貢献度が減少してもその産業の終わりを意味するわけではない。ここで議論されている変化は、総GDPの構成比についてである。実際、GDPは全産業で成長しており、インドネシアが資源依存経済から付加価値経済へ移行していることを示唆している *3

*3:GDPデフレーターでGDPを補正した後の値

 

 

成長に向けた7つの課題

インドネシア経済は未だ、一人あたりGDPにおいて先進国経済の10%以下の水準である。例えて言えば、インドネシアは、1960年代前半の米国や、1970年代前半のドイツや日本と同じ水準にある。

例えば日本では、1995年頃までは、労働力人口の従属人口に対する比率は上昇し、GDPは平均約5%で成長した。しかしその後、日本は長いデフレを経験し、GDPの平均成長率は1%以下まで急落した。中国やシンガポール、タイも同様に豊かな労働力の恩恵を受け、年5%以上のペースで成長してきた。しかし、2015年に人口ボーナス期が終わってからGDP成長は減速した。一般的に、国は「人口ボーナス期」(従属人口に対する労働力人口の比率が増加する時期)における急速な経済成長と、その後の緩やかな成長を経験する(図3)。人口ボーナス期の活用の仕方がその国の経済の未来を左右するが、インドネシアの人口ボーナス期は2030年頃に終わると予測されている。今後15年間はインドネシアの将来を定める重要な時期である。

 

 

インドネシア経済は約5%の成長率でGDPが伸びているが、大統領の望む7%成長には未だ及ばない。その差の大部分は、コモディティ価格の停滞や中国経済の減速などの外的要因で説明されてきた *4。確かにこれらの要因は経済に大きなインパクトを与えるが、すべてを語るわけではない。

インドネシアは強固な基盤を形成してきたが、次の7つの課題がインドネシアの持続的経済成長の障害となる可能性がある。

*4: "Indonesia Seeks Growth Boost to Meet 7 percent Target, Indrawati Says"(ブルームバーグ, 201746日)による

 

1.労働生産性:人件費増加をしのぐ生産性の向上

インドネシアは、アジアで最も人気のある低コスト製造拠点の1つだった。しかし、製造業は現在、深刻な生産性問題に直面しており、グローバル市場での製造拠点としての地位を失いつつある。過去10年で、労働生産性は47%改善したが、人件費が55%増加したことで、労働生産性は人件費ベースでは改善していない(図4)。同時期に中国は、製造業に巨額の投資を行い、労働生産性を劇的に改善した。ベトナムやバングラディッシュ、スリランカのような、低人件費の製造ハブとして存在感を高めている新興経済国とともに、インドネシアは現在、高生産性の国と低人件費の国の板挟みとなっている。賃金上昇は経済成長を支える。成長を持続させる唯一の方法として、人件費増加をしのぐ生産性の改善を実現する必要がある。

 

 

2.資本生産性:B/Sとキャッシュフローの管理強化

包括的な財務業績の評価のために、インドネシアの上場企業を世界中の3,000企業と比較分析した。我々の分析によると、多くのインドネシア企業は、高い利益率によって(図5)グローバル平均より多くのリターンを投資から得ている。しかし、多くの産業が資本回転率の課題に直面している *5。他国も同様の課題を抱えていたように、近代的な経営システムを構築する途上において、経営陣はまずP/Lのトップラインとボトムラインのみに注力し、B/Sや資本効率にまで目が行き届かない傾向にある。多くのインドネシア企業は現在、この段階にある。より効率的な経済を構築するためには、B/Sとキャッシュフローを理解し、ROICや経済的利益の様な価値を生み出すKPIに着目することで、資本効率に注意を向ける必要があるだろう。

*5: 資本回転率は投下資本(運転資本に有形固定資産と無形資産を加えたもの)を基準に計算した。資本構成(レバレッジ比率や負債比率)は本計算に影響しない

 

 

3.テクノロジーへの対応:デジタル化の加速

インドネシアの人々はソーシャルメディアをよく利用し、5,000万人以上がスマートフォンを利用するが、産業界では他国に比べてテクノロジーの利用率が低い。韓国やイスラエルがGDPの4%を研究開発費に投資する中で、インドネシアの研究開発投資はGDPの0.3%に満たない *6。またICTについても、インドネシアはGDPの1.3%をICTに投資しているが、これはシンガポールの1/5以下だ(図6)。ICT投資のGDP比で見ると、中国は1.4%とインドネシアと同等水準にあるが、1人あたりの投資額で考えると、中国はインドネシアの2倍以上投資している。これが生産性改善の大幅な遅れを引き起こしていると考えられる。生産性は、インドでは2000年の2倍、中国ではほぼ3倍に改善しているが、インドネシアはテクノロジーへの投資が少ないことが原因で、50%しか生産性が向上していない。加えて、インドネシアはもはや低人件費の国ではないので、デジタル化は全ての産業において必須で取り組むべき課題となっている。

*6: "2016 Global R&D Funding Forecast"R&D Magazine)による

 

 

4.インフラ開発:投資の長期的リターンの最大化

約17,000の島を持ち、東西5,000km以上にわたる世界最大の群島として、インドネシアは常にインフラ課題に直面してきた。ジャカルタは今では近代都市に見えるが、国の大部分のインフラは未だに開発中だ。実際に、1960年からの1人あたり累積総資本形成を見ると、インドネシアは日本の1/19以下だ(図7)*7。輸送インフラが特に小さく、ある輸送インフラ品質の指数では、インドネシアはG20参加国中で最低の国の1つである。1990年代の初頭から半ばにかけて、インフラ投資額は上昇したが、アジア経済危機の間に落ち込み、1998年の投資額は1997年の1/4になった。投資額は2000年代半ばに再び増加し始めたものの、今も不十分だ。現政府が計画しているように、インドネシアは経済活動の基盤を構築するインフラにより投資すべきである。ジョコ・ウィドド大統領政権の下、政府は電力やエネルギー、群島間の輸送を含む包括的なインフラ計画を民間企業と共に推進してきており、大きな改善が期待される。

*7: 累積計算はデータが参照可能な1960年以降の値に限られる。西側諸国の計算には1960年以前のインフラ投資が含まれていないため、値が過小評価されている可能性がある

 

 

5.国際貿易力:純輸出国としての地位の再確立

インドネシアは、豊かな天然資源により、2000年には世界の主要な純輸出国の1つだった。これはもはや当てはまらず、 今では輸出入が均衡している。インドネシアの貿易額(輸出と輸入の合計)のGDP比率は大きく落ち込んできており、現在はASEAN諸国の中で最低だ(図8)。しかし、貿易に依存しないことで、グローバルリスクの影響を免れられるメリットもある。実際に、2008年から2009年の経済危機の際、インドネシアが受けた影響は多くのASEAN諸国よりも少なかった。しかし、低い純輸出は経済成長を抑制する可能性もある。輸出額が輸入額よりも高ければ、経営収支や外貨準備高、財務コストの改善によって、国は財政的により強くなる。純輸出国としてのポジションを取り戻すことは、インドネシアが現状から抜け出す最も大きな可能性を持ちうる。

 

 

6.財政の安定性:より強固な財務体質の確立

財政の安定性は経済成長に必須であり、国の将来への投資を促す。インドネシアは、ソブリン債の格付けの格上げや国債利回りの改善に見られるように、財政政策とその管理において大きく前進してきた。国外からの資金流入が限られているために、インドネシアは-1.8%の経常赤字の状態になっており、ASEAN主要国の中で最も低い状態となっている。2000年から2006年にかけて、通貨価値が58%下落した。政府による改善は見られるものの、これらのすべての指標はASEAN主要国の中でも最も低い水準に位置している(図9)。結果として、政府支出のGDPへの貢献は低いままに抑えられている。これらの事実に基づけば、実体経済の改善による財政的健全性の改善の後は、インドネシアは、政府支出による経済拡大策をより推進できるようになる。ブラジルやロシア、トルコの様な新興経済国が信用格付けを落としてきている一方で、インドネシアは信用格付けを改善してきており、見通しは明るい *8

*8: Standard & Poor’s, Moody’s, Fitch Groupによる

 

7.人的資源:グローバルに競争力のある人材の育成

現在の経済力と比較して、インドネシアには才能ある人材が不足している。インドネシアは多くの人口を持つが、大きなスキルギャップ(質的課題)に直面している。ある調査によると、調査した企業の3分の2は、 専門職や経営職にふさわしい社員を見つけるのは困難、もしくは、とても困難と回答した。そして、ほぼ70%の製造業の経営者は、技能のある技術者を見つけるのは困難だと回答した *9。教育というと非常に長い年月を必要とする印象を受けるが、10年もあれば変えることができる。例えば、大学教育への進学率を、韓国は1990年から2000年の間に37%から78%へ向上させ、インドは2005年から2015年の間に11%から27%へ向上させた。現状、インドネシアの人的資源への投資は十分でないかもしれない。政府支出に占める教育消費の割合は約35%で、世界の同様の国と同等水準であるが、1人あたりの金額やGDP考えると十分でない(図10)。例えば、マレーシアは1人あたりで5倍、日本は12倍支出する。もしインドネシアが国際的に競争力のある世代を育成したいのならば、国の教育計画を強化する必要がある。

*9: 世界銀行(2014)による

 

これらの7つの課題は個別に分けて考えることができない。1つの課題への対処を間違えると、他の課題に悪影響を及ぼし得る。インドネシアは経済の好循環の恩恵を享受しているが、これらの課題はサイクルを反転させるだけでなく、もし適切に管理されなければ、悪循環すら作り出すかもしれない(図11)。例えば、テクノロジーやインフラ、人的資源への投資が限定的であれば、生産性を低下させ、外貨を稼ぐ能力を制限し、純輸出を減少させる。この負の循環がインドネシアの財政的健全性を毀損し、そして、低い財政的健全性は資本コストを増加させ、将来の投資のための資金調達を制限する。もし、インドネシアがこれらの課題に正面から対処できれば、経済基盤を強固にし、持続的成長の可能性を解き放つことができる。

 

 

インドネシアの経済を考えるにあたって、もう1つ大事な側面がある。地方への富の分配である。 インドネシア経済はジャカルタ周辺の地域に集中しており、インドネシアの中央統計局によれば、その地域では1人あたりGDPが13,000ドルを超えるが、国の平均は約3,500ドルに過ぎない。人口ボーナス期が2030年まで続くと予測されているが、ジャカルタでの労働力人口の従属人口に対する比率は既に下がり始めている。ジャカルタは労働力人口の比率が高いのでまだ経済的利益の恩恵を受けているが、人口ボーナス期の恩恵はまもなく減少する。結果として、経済成長の源泉は他の地域に移らざるを得ない。地方経済の加速がインドネシアの人口ボーナス期の恩恵を最大化する助けともなるだろう。

 

広がる可能性

通常、人口ボーナス期にはGDPは5~10%で成長するが、インドネシアはこの下限に近い水準である。労働力人口が拡大する中、経済成長の加速も見込まれ、第二次・第三次産業への移行ステージにある。数十年前、インドネシアは資源産業に依存していたが、現在は産業構成が多様化し、付加価値産業の比率も増加しており、このトレンドは今後15年間で加速すると想定される。

今後の産業変化を理解するため、複数国のデータの回帰分析を用いた経済モデルを構築し、将来の産業ごとのGDP貢献度を分析した。本モデルに将来の経済政策変化は反映されていないが、他国の状況を参考にインドネシアにおける経済成長を予測する上で役に立つと考える。本経済モデルでは、インドネシアの現在の産業構造(産業ごとのGDPへの貢献度)、一人あたりGDP成長率予測、そして他国における産業構造の過去トレンドとGDPと一人あたりGDPの相関性という3つの要素によって成長を予測した。この分析に基づいたインドネシアにおける2030年の産業構成のベースケースは下記の通りとなった(図12)。

 

 

農業は対GDP比が10%以上と高いが、シェアは減少傾向にある。先進諸国における農業のGDPへの貢献度は通常1~3%程度であり、先進諸国と比較すると未だ高い水準と言える。近い水準にあるのは2015年時点での中国であり、GDPへの農業の貢献度は9%程度、そして一人あたりGDPは8,000ドル程度である。

鉱業・公益事業も、農業と同様、7%以上という高いGDP比を保つ。オーストラリアは例外的に11%程度であるが、一般的に先進国は1~4%の水準にある。

製造業は、サービス産業の急速な拡大により、ベースケースでは16%程度にシェアが減少すると想定される。製造業を基幹産業とする他国の対GDP比は、日本では19%(2000年には21%)、ドイツでは23%(2000年には23%)、韓国では29%(2000年には29%)、マレーシアでは23%(2000年では30%)、そしてシンガポールでは20%(2000年では28%)である。

建設業は、10%程度と現在と同水準の対GDP比を保つ。通常、建設業のGDPには周期性があるが、インフラ需要が維持されるインドネシアでは高いGDPシェアが予測される。

サービス産業は55%程度と劇的にシェアを向上させる。多くの先進国は50%以上のシェアを保持しているが、インドネシアは現在45%程度と低めの水準である。インターネットの普及で、シェアリングエコノミーサービス、Eコマースやその他オンラインビジネス等の新規サービスへの参入障壁が下がったことにより、サービス産業の拡大は新興国も含めたグローバル規模の現象となっている。

非サービス業(農業、鉱業・公益事業、製造業)のシェアは、サービス産業の急拡大により減少すると予測される。ただし、非サービス業は輸出による更なる成長も見込める。そのため、非サービス業のシェア予測は政府の産業政策、公共または民間投資、そして国内企業の国際市場における競争力によっても大きく変動する *10

*10: サービス産業にも輸出の拡大可能性が存在するが、貿易業・オフショア事業を除き製造業に比べGDPの成長への直接的なインパクトは小さい。サービス産業がGDP成長に貢献するには、事業は国内で運営されているが、収入は海外からもたらされている状況でなければならない

 

政府の役割:産業政策の強化と海外投資家の呼び込み

他の新興国と比較して、4~6%程度のGDP成長率を世界で最も安定して実現しているインドネシアの経済政策は成果をあげているといえる。ただし、成長率の観点では、人口ボーナス期に8%以上の成長を実現していた日本、韓国、中国、シンガポールを含む他のアジア諸国と比較すると低めの水準である。

日本:第二次世界大戦によって一人当たりGDPは大戦前と比べて半減するなど、日本経済は悲惨な状況に陥った。この危機への対応を迫られた政府、具体的には通商産業省(現在の経済産業省)は、産業政策を1940年代後半から1980年代にかけて導入していった。政府と民間企業の協力により不足していた鉄や化学品の生産拡大、電機や機械産業の育成により国際的競争力を獲得することを狙っており、この政策と、政府主導による銀行からの豊富な長期貸付が合わさり、日本の産業は頭角を現していった。1960年代までには日本は世界第二位の規模を誇る経済大国となり、1950年代半ば~1970年代前半の年率成長率の平均が約9%と、高度成長期を謳歌していた。その最中で、政府の経済介入の低減と自由貿易を求める国際社会の圧力により、日本政府は外資系企業に対しても市場を開放していった。しかし、日本企業同士の競争に加えて、新たな新興勢力の台頭により、日本の産業は困難に直面し始める。例えば、中国と韓国企業は政府の支援を活かして規模と国際的な競争力を獲得していく中、日本企業は徐々に国際競争の中で遅れをとり始めた(SamsungやLG等の韓国の電機メーカーがスマートフォンに大規模投資を重ねていた一方、PanasonicやSony等の電機メーカーはより小規模の投資しか行えず、国際競争力を失っていった)。

韓国:日本と同様に、韓国も戦後(このケースでは朝鮮戦争)経済が疲弊し切ったことをきっかけに、産業政策の大規模な転換を図った。結果、第1次経済開発5カ年計画の1962年から第5次計画の1982年にかけて年率実質GDP成長率8~9%を実現し、一人あたりGDPも1977年の1,000ドルから1995年には11,000ドル以上まで急成長した。各5カ年計画により定められた政府主導の産業政策により、特定の大企業(Samsung, Hyundai, LG等)に対して資金援助を行い、特定の輸出製品(電子機器)の事業強化を促した。これにより、1960年にはマイナーな輸出品目であった電子機器は、1990年には最も金額規模の大きな輸出品目の一つとなった。それ以降も、特定企業群に富が集中するという課題を生じながらも、付加価値の高い産業へのシフト及び輸出型産業政策の徹底により国際競争力を高めていった。

中国: 中国の産業政策は、1953年~1978年にかけての年率GDP 6%成長から1978年~2012年にかけての年率9%成長への成長率増加に多大な影響を与えている。産業改革の前半(1978年~1992年)の経済開発は、消費主導で労働集約型での工業化への道を辿り、市場主導型経済への移行、郷鎮企業の拡大へとつながっていった。産業改革の後半の経済開発は、直接的な政府介入によって、主に上流素材とハイテク分野の国営企業による資本集約型の工業化が、中国のグローバル生産拠点化に伴って進行した。最近では、中国政府は「一帯一路」構想を打ち出し、シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードを国家経済開発戦略に統合する動きを見せている。中国政府は更に、国内の後進地域の発展、中国製品及びサービスの新規市場開発、そしてエネルギー資源輸入先の多様化によるエネルギー安全保障の確保を重点領域とし、経済開発のグローバルリーダーとなることを狙っている。

シンガポール:1965年の独立以来、シンガポールは政治的、経済的に生き残りをかける戦いを迫られた。隣国のマレーシア、インドネシアやタイと比較して天然資源や農業資源が明らかに不足しているシンガポールは、経済発展を遂げるため、自国を外資系企業の集約拠点化する産業政策を打ち出した。地理的に戦略的貿易拠点であることを筆頭に、財政的なインセンティブと高度なインフラにより、多くの多国籍企業の誘致に成功した。1990年代には政府は技術集約型、そして知識集約型産業の重要性を認知し、ハイテク産業の誘致へ焦点を当て始める。これらの効果的な産業政策により1960年~1970年にかけては安定して9%程度のGDP成長率、1990年~2000年にかけてはハイテク産業の成長が要因となり8%の成長率を遂げることに成功した。

インドネシア政府はこれまで内需主導の経済を構築してきた。近年若干の消費の伸び悩みが見えるものの、今も強い国内消費が経済を活気づけている。内需に支えられて、投資も1997年~1998年のアジア金融危機以来復調にあり、相対的に見て自国内に閉じている経済のおかげで、2008年~2009年の世界金融危機の際にも影響が限定的であった。しかし、国内に閉じた経済は成長ポテンシャルを狭める可能性もある。他のアジア先進国と比べて今インドネシア経済に欠けているものは、輸出と海外からの対内投資である。日本、韓国、中国とシンガポールは全て国境を越えて収益を生み出す産業を構築することで、資本体力を強化してきた。また、海外投資を呼び込むことにより国内での資金の循環を強化し、技術やノウハウを活用可能にしてきた。

これらアジア諸国の成長ストーリーを踏まえると、インドネシアは2つの分野の強化に取り組むことが必要と考える。

強力な産業政策の構築: インドネシアは複数の産業政策を実施している。ただし、これらの政策は、日本、韓国、中国やシンガポールの成長期と比較して包括的なものではなく、導入の徹底力に欠ける。これらの国は現在も産業政策をデジタル時代に適応させるべく適宜更新し、例えば近年では、インダストリー4.0へのロードマップを構築している。デジタル時代はあらゆる業界のゲームルールが劇的に変わってきている。その中でインドネシアも政府が強いリーダーシップを発揮して産業政策を強化し、導入を徹底することにより、この機会を活かすことができるのではないかと考える。

FDI(海外直接投資)の加速:インドネシアは現在、外国資本投資を拡大する取り組みを進めており、例えば、経済特区の設立やネガティブリスト(外国資本投資の禁止・規制業種とその条件を記載したリスト)の緩和を進めている。ただし、これらの取り組みはまだ不十分である可能性がある。インドネシアのGDPに対するFDIの割合は横ばいで、ネットFDI流入額のGDPに対しての割合も海外諸国と比較して最も低いグループに属している(コラム「FDIトレンド」参照)。アジア諸国が海外投資を呼び込むために減税、インセンティブ付与、政治的圧力をかける等を実施している中、インドネシアに投資を呼び込むには、更なる取り組みの強化が必須と考える。例えば、より魅力的なFDI政策や外国政府・企業を巻き込んだ政策の策定がある。隣国マレーシアでは、政府がデジタル自由貿易地域を構築するため、アリババ集団との協業を試みているなど、参考となる先進事例がある。ただし、経済規模の大きなインドネシアには、より協奏的なアプローチが必要となることも考慮しなければいけない。

 

インドネシア企業の役割:ポートフォリオと経営管理の高度化

インドネシア企業は驚異的な成長を謳歌してきた。インドネシア証券取引所の時価総額は15年で15倍に成長し、多くの産業で上場企業の平均ROICはグローバル平均を超えている。ただし、この成長のサクセスストーリーの裏で、多くの企業はこの成長を維持するための課題に直面している。

インドネシアの3種類の企業(国営企業、家族経営企業、多国籍企業)にはそれぞれ異なる課題があるが、国が新興経済から高度経済へ発展する際に共通する課題も抱える。多くのインドネシア企業にとって、以下のテーマは最優先の経営課題として位置づけられるべきである。

ポートフォリオ戦略の再構築:経済が発展するにつれて、多くの企業がアグレッシブに事業ポートフォリオを拡大してきた。ただし、その過程で多くの類似ビジネスが発生し、結果として多くの事業が小規模事業に留まり、生産性と(特にグローバル市場での)競争力に欠ける。今後インドネシアはグローバルレベルでの競争力を獲得する必要に迫られるため、個別企業の取り組みも重要となる。そこで、他国の過去事例と同様に、インドネシアの企業も事業ポートフォリオの多角化からシフトし、コアコンピタンスを確立し、事業ポートフォリオを再構築する必要がある。

海外パートナーとの協業:インドネシアにおける多くの新技術、新サービス、事業ノウハウの多くは、現在も海外から取り入れたものである。グローバルで競争力のある技術やサービスの確立は国としての取り組み事項であるはずだが、多くは実現には至っていない。個別企業による技術、サービス、事業ノウハウの輸入は未だ重要である。ネガティブリストから多くの産業が外れたが、外資系企業は多くの要件・規制を満たす必要があり、現地企業による参入のサポートは必須である。

経営管理の高度化:最適な経営管理アプローチは中小企業と大企業とでは異なる。急成長を遂げる会社では、経営管理システムの構築が規模の拡大に追い付いていない。企業が大きくなるにつれ、意思決定権限、組織体制、会計基準、KPI設定、HRプロセス等の多くの分野で、最新のビジネス環境に合わせて最適化を図ることが重要だ。例えば、ビジネス拡大に伴い子会社を設立するケースが良く見られるが、組織体制とルールが最適化されていない故に、子会社同士が競合してしまうことがある。また、多くの事業を同じ会社内に持つために、個別事業のパフォーマンスが不透明となり、未熟な会計制度により不振事業が隠されてしまうこともある。KPIも例の一つである。多くの企業は収益より売上成長に対して焦点を当てており、売上成長を遂げた後、ようやく収益向上に取り組み始める。ROIC等の資本効率性は更に見過ごされがちである。HRプロセスも多くの場合では最適化されていない。インドネシア企業はかねてより低労働コストの恩恵を享受してきたが、現在ではそれも変化しつつある。デジタルエコノミーの時代において、要求されるスキルも相当変化してきており、従来のアプローチは通用しなくなってくる。

多くの企業、特に国営企業や家族経営企業ではこれらの経営課題に直面している。持続的な成長を遂げるためには経営管理の高度化と全社的な改革が不可欠である。

 

外資系企業の役割:課題解決に向けての協業

多くの外資系企業は、インドネシアの巨大な市場機会に惹きつけられ、活発に活動しており、技術やノウハウの移転やリスクを取った大規模な投資により、経済発展に貢献している。外資系企業の貢献なしではインドネシア経済は今のレベルまで達していなかっただろう。多くの企業がインドネシアを重点市場の一つとして位置づけ、産業をリードするポジションを確立している。例えば、Unileverは流通網を構築し、全国で顧客認知を浸透させ、強固なポジションを市場で確立している。また、Toyotaは現地で生産ラインとそれを取り巻くエコシステム、またパートナーと協業し流通網を構築し、現在では60%の市場シェアを持つ。

一方、失敗した外資系企業も存在する。世界最大のコンビニエンスストアチェーンの7-Elevenは現地のIndomaretとAlfamartの台頭に押され撤退を余儀なくされた。政府の規制緩和によって、多くの機会が外資系企業にもたらされている。ただし、市場主導の産業に移行する中で、現地企業が台頭してきており、外資系企業の成功のハードルは高くなっている。その中で、以下の2点は外資系企業が事業機会を探る上で重要な観点になるだろう。

国の最重要課題を解決する機会の探索:インドネシアに多くの機会が存在することは確かだが、すでに多くの産業で取り組みを始めている企業がいるため、機会を捉えることは日を追って難しくなっている。そして、インドネシアへの投資には長期にわたるプロセスが伴う。多くの成功している外資系企業は、ニーズをいち早く察知し、数十年かけて市場リーダーとしてのポジションを確立してきた。例えば、Unileverはインドネシアに高品質の消費財が不足していた時に市場参入、Toyotaは自動車需要の立ち上がり時期に生産拠点を設立した。インドネシアが世界でも有数の規模を持つ市場に成長した今、先進的な外資系企業や投資家は現地企業や政府と協力し、国の課題を解決する方法を模索している。インドネシアは国として7つの課題を抱えると前述したが、外資系企業としてこれらの課題を共に解決していくことで、外資系企業の役割を見出すことが重要になってくるだろう。

長期的な互恵関係の構築:外資系企業がインドネシア市場へ参入し始めてから多くの成功と失敗が重ねられている。一般的に現地企業は資金、新しい技術、新しいビジネスモデル、事業ノウハウ、そして人材を求めている。これらには長期的なニーズと短期的なニーズが含まれている。長期的な関係を構築するに当たり、外資系企業は現地のパートナーに対して持続的な価値と相互利益を提供しなければいけない。現地企業も多くの内部留保を抱え始めているため、純粋な資金提供だけでは現地企業のニーズを満たせなくなってきている。長期的な価値を提供するためには、外資系企業は産業のダイナミクスを理解しなければいけない。例えば、グローバルレベルのR&D又は調達の競争力が必要とされる産業では、外資系企業が長期的な価値を提供しやすい。一方、技術障壁が低く、規模の経済が活かせない産業では、現地パートナーが短期的にキャッチアップ可能なため、外資系企業は長期的な価値を発揮しにくい。そのため、外資系企業は持続的な関係構築のために、客観的に見て自社の付加価値がどこにあるか、そして現地パートナーとwin-win関係を構築できるかを事前に検討する必要がある。

 

更なる成長に向けて

人口ボーナス期の終わりが徐々に近づく中、高度成長を維持するために、インドネシアは新たな課題に直面する。政府は産業発展を促すために、政策を高度化させ、更に外国からの投資を呼び寄せる必要性に迫られるであろう。現地企業、外資系企業のどちらであろうと、企業は取り組むべき経営課題に正しい優先順位で対処することで、大きな果実を獲得する可能性を秘めている。

 

【コラム】海外直接投資(FDI)トレンド

インドネシアのFDIは、2010年~2013年にかけて76%上昇した後、横ばいを続けている。この傾向の要因として、ルピアの対ドル安と海外投資家の慎重な投資行動の2つが考えられる。

シンガポールと日本は継続して対インドネシアのトップ投資国であるが、近年中国も主にインフラへの投資を狙い、主要投資国の一つとして浮上している。これらの国は、インドネシアの労働コストの低さ、原材料コストの低さ、そして魅力的な国内市場を狙い投資を重ねてきたが、近年インドネシアへのFDIの行先はコモディティからサービスへシフトしてきている。

政策変化により今後のFDIは増加が期待される。2015年、政府は特定産業の企業に対して10~100%の減税を最大15年間実施する提案を発表した *11。2016年にはネガティブリストの緩和を実施し、35の業種で100%外資企業の参入を認め、その他の業種でも外国投資を認めることを発表した *12。ただし、インフラ整備(ハードとソフト)、承認プロセス整備、そして労働生産性の向上は、未だFDIを呼び込む課題として残っている。

 

*11: ジョコ・ウィドド大統領は20159月に、第二次経済活性化政策の一部としてインドネシアの特定産業に対して税制緩和を導入することを発表した
*12: 大統領令44/2016に基づき、インドネシア政府はネガティブリストを更新し、物流、デジタルエコノミー、エネルギー、製薬、映画、観光を含む35の産業に対してFDI規制を緩和した

 

 

執筆者

Shirley Santoso,パートナー(ジャカルタ)

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Tomoo Sato,プリンシパル(シンガポール)

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David Uhlenbrock,コンサルタント(バンコク)

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Sebastian Tanujaya, コンサルタント(ジャカルタ)

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