電気自動車の普及に伴う3つの課題

電気自動車とバッテリー市場は爆発的に拡大しようとしている。市場拡大に伴う課題として、天然資源の不足、バッテリーをリサイクルするための有効なシステムとプロセスの必要性、CO2排出量削減が十分でない可能性の3つがある。各国政府は、この急成長産業を管理しながら、慎重に物事を進めていく必要がある。

 

はじめに

新エネルギー技術とイノベーションは、従来のエネルギー産業を破壊しつつある。

世界中で電気自動車の生産量が急速に増加していることは、グローバルなエネルギー転換を意味する。電気自動車市場の成長は、エネルギー転換の重要なメガトレンドとして、自動車産業のみならず、従来の石油ガス産業や電力事業、さらには鉱業セクターの重要な事業変革に直接影響を及ぼしている。多くの企業経営層は、こうした変化を理解し、将来に向けて新しいビジネスモデルを構築しようと取り組んでいる。

電気自動車の世界累計台数は200万台で、世界の公道を走る10億台以上の車のうち約0.2%程度である。電気自動車市場については、「空騒ぎ」にすぎないという声もあれば、爆発的増加が始まると予測する向きもある。ただ、多くの人が気づいていないと思われるのは、電気自動車関連市場が国によってばらつきがあり、すでに各国市場に深刻な影響を与えている可能性があるという点である。例えばノルウェーでは、新車販売台数の30%が電気自動車で、充電スタンドが需要に対応できない状況に陥っている。

自動車メーカーや充電スタンドへの直接的な影響以外にも、来るべきバッテリー式電気自動車(BEV)革命を理解することが重要である。本レポートで指摘するように、過小評価されている成長リスクが存在する。すなわち、天然資源の不足、バッテリーをリサイクルするための有効なシステムとプロセスの必要性、CO2排出量削減が十分でない可能性である。私たちは、新しいバッテリー技術の開発と大規模なバッテリーリサイクル産業の発展が必要になると予想している。

BEVの例で示したように、エネルギー転換は新しい技術ソリューションをもたらし、多くの産業に影響を与えることになる。したがって、こうした新技術が経済に及ぼす影響を検証し、予想することが重要である。新たなビジネスモデルの成否は、どれほど先を見る目があり、どの程度の投資収益を求めているかという点に大きく左右される。

A.T. Kearney Energy Transition Instituteの役割は、エネルギー転換、テクノロジー、戦略に影響を及ぼす重要事項の世界的な動向について、民間企業および公共機関に洞察を提供することである。Claude Mandil、Dr. Adnan Shihab-Eldin、Antoine Rostand、Erik Peterson、Kurt Oswaldの各氏には、貴重な知見と多大な貢献を頂いたことを心より感謝申し上げたい。

 

リチャード・フォレスト
A.T. Kearney Energy Transition Institute 会長

 
 

電気自動車需要が今後20年間でどれほど急速に高まるか、誰も確実なことは言えないが、グローバル市 場は急激かつ爆発的に拡大しようとしている。各国政府や都市当局は、内燃機関自動車(ICEV)から、より クリーンな代替輸送手段への転換を奨励しており、メーカー各社は電気自動車の生産を急いでいる。そし て消費者も我先にと電気自動車を購入している。

しかし、3つの課題があり、これらが重大でありながらも正当に評価されていない成長リスクとなっている。3つの課題とは、バッテリー製造に使われる天然資源の不足、バッテリーのリサイクルやリユースのための有効なシステムとプロセスの確立、そしてバッテリー式電気自動車(BEV)の利用が拡大してもCO2排出量がICEVの継続利用による水準を下回らない可能性である。

まず、市場の成長予想を考えてみる。目標は国によって異なる(図1)。例えば、フランスと英国は2040年までに販売されるすべての新車をICEV以外にしたい意向である。インドも同じ目標を掲げているが、目標達成の時期は10年早い。

 

中国も成長を加速させる構えだ。2025年までに新車販売台数の15%を電気自動車とし、2030年にはこれを40%まで高める計画である。現時点の各国政府の発表からすると、2040年には、世界の乗用車の少なくとも30%がBEVかハイブリッド電気自動車(HEV)になる。2016年の全車種の生産台数が6,700万台であるので、これをベースに試算しても、2040年の電気自動車の年間生産台数は2,000万台となる。もちろん、総生産台数自体がそのまま変わらないはずはない。

では、電気自動車市場はどこまで成長するのだろうか。予測はさまざまである(図2)。2016年に公道を走行していたBEVは120万台だった。バークレイズは、2030年までにこの数字が2億台に達する可能性があると述べている。国際エネルギー機関(IEA)の予測も同様である。一方、ブルームバーグの予測はこれよりも慎重で、なお状況が定まらないことから2030年までに1億台程度と見込んでいる。

 

一方、自動車メーカーはビジョンを現実に落とし込もうとしている。フォルクスワーゲンによると、2025年までにBEVが同社販売台数の4分の1を占めることになるという。また、2020年以降、市場ではBEVかHEVではないボルボの新車を購入できなくなる。他にも多くの自動車メーカーがすでに電気自動車を生産しており、生産される電気自動車の車種も増えている。この流れに乗っていないメーカーも、近々追随することになろう。

しかし、電気自動車産業の成否は、電気自動車の生産以外の多くの要因に左右される。よく言われるのがインフラ面の懸念で、一般的に市場拡大の障壁とされるのは、環境上安全かつ持続可能な資源からの電気供給の保証、数百万台の車に同時に充電するための送電網の整備、全国的な充電ポイント網の構築である。

さらに、バッテリー自体も発展を脅かすものとなっている。しかも、これは見過ごされがちな脅威である。本レポートでは特に3つの点に絞った。第一の懸念は、天然資源の利用可能性である。電気自動車需要が予想通りに拡大した場合、バッテリー材料の供給が追いつかなくなると考えられる。二つ目の懸念は環境面で、何百万個もの古いバッテリーをどうするのかという問題だ。三つ目は、ICEVからBEVへの転換によって本当にCO2排出量削減が実現できるかどうかである。

 

課題1:天然資源が乏しい中でのバッテリー生産

BEVバッテリーは、一般的にリチウムイオン(Li-ion)かニッケル水素混合(NiMH)の蓄電池で、他の原材料とともにリチウムとコバルトを含んでいる。2つの金属は供給不足に直面しており、これが電気自動車の進展を妨げる可能性がある。

コバルトは特に供給不足が目立つ。米国地質調査所(USGS)によると、世界の埋蔵量、つまり現在の技術で採掘可能で経済的に見合うという条件を満たす確認可採埋蔵量は700万トンで、2016年の生産量で試算すると可採年数はわずか57年だという。しかし、3億台の大型BEV向けの電池が現行の技術で生産された場合、現在走行している12億台の車に占める比率がそれほど大きくなくても、世界のコバルト埋蔵量は枯渇すると私たちは推定している。しかも、現実には車載バッテリーだけがコバルト供給を独占するわけではなく、医薬品や超合金、鉄鋼生産など、多くの産業がコバルトを必要としている。Cobalt Instituteによると、実際に充電式バッテリーに使用されているのは世界のコバルト生産の50%程度にすぎないという。

最新の生産・価格統計は、バッテリー材料としてのコバルトの限界を映し出している。2014年以降、生産は横ばいで推移しており、価格は過去18カ月で200%も上昇した。より大規模な資源の存在は知られているが、採掘技術は未熟で、経済的に回収可能かどうかの保証もない。

2017年11月のFinancial Times紙の記事 「Amnesty warns on use of child labour in cobalt mining (アムネスティ、コバルト鉱山での児童労働の関与に警鐘)」によると、コバルト採掘は人権侵害によってイメージを落としているという。2015年の世界の生産量の半分はコンゴ民主共和国で生産されているが、コバルトの代替材料を見つけることは喫緊の課題である。

リチウムは、より政治的に安定した国々で広く生産されている。しかも、米国地質調査所によると、世界のリチウム埋蔵量は1,400万トンにのぼり、2016年の消費ペースで使用しても400年は続くと推定されている。未確認のリチウム資源も最大4,000万トンとはるかに多い。

しかしリチウムも、資源に制約はなくとも、生産ペースにはある。2013年以降、世界のリチウム生産は年率7%で増加してきたが、需要に追いつくためには、鉱山会社は生産の伸びを年率9%に引き上げる必要があると私たちは推計している(図3)。需要の増加とタイトな供給が価格上昇を招いており、2015年には大半の市場で価格が40~60%上昇した。同じ年、中国での価格は3倍に跳ね上がった。

 

車載バッテリーメーカーはリチウムの争奪戦にも直面している。2015年、電気自動車はリチウム生産量全体の14%を消費した。従来型バッテリー市場は25%、バッテリー以外の市場は60%を消費し、残りの1%を電動自転車とエネルギー貯蔵が分け合った。

2025年に世界のBEV生産台数がバークレイズ、ブルームバーグ、IEA予測の平均値である1,250万台に達するためには、リチウム生産量が10年以内に2倍以上、2030年までにほぼ3倍増になる必要があると私たちは推定している。ゴールドマンサックスは、2030年までにリチウム需要が6倍に増えると予想している。

HEVを考慮に入れると問題はより深刻になる。2016年には、公道を走る120万台のBEVに加えて80万台のPHEVが利用されていたが、その数も増加傾向にある。HEVバッテリーは、より小型とはいえ、天然資源にさらに負荷を与えることになる。

リチウムバッテリーには新しい自然元素が採用されるとみられる。しかし、代替材料によってコバルトの需要が減少したりなくなったりしても、大部分はなおリチウムを必要とする。リチウムシリコン電池は短期的な選択肢だが、リチウム硫黄電池やリチウム空気電池、固体電池は、より長期的な選択肢となる可能性を秘めている。しかし、バナジウム・レドックスフロー電池といった完全なリチウムフリー、コバルトフリー技術はBEVの基準に届かず、それ自体の資源不足にも直面するとみられる。そのため、リチウムのサプライチェーンのボトルネックは長く続く可能性がある。

 

課題2:バッテリーのリサイクルおよびリユース

第一世代の電気自動車バッテリーは寿命を迎えつつある。使用済みBEVバッテリー市場は立ち上がろうとしているが、それには膨大な数のバッテリーを回収、整備(リファービッシュ)、リサイクルするためのリバース・サプライチェーンの設計が必要となる。

今はそれほど緊急性があるようには思えないかもしれない。電気自動車産業は黎明期にあり、ほとんどの電気自動車にはまだ新品の正常なバッテリーが搭載されている。しかし、このまま手をこまねいていれば、すぐに問題は発生する。しかもデータは少ない。日産は2010年に初めて完全な電気自動車を発売し、現時点でリサイクルしなければならないバッテリーはわずかである。しかし、多くの自動車バッテリーは、稼働後7年から10年すると蓄電容量がメーカー仕様の70~75%まで落ち、効率性、加速性、性能、信頼性が損なわれて支障をきたすため、交換の必要が出てくる。ただ、最終的な寿命は初期容量の50%前後と推定されており、車載用には適さないバッテリーでも寿命は数年残っているため、よりサイクル基準が低い定置型蓄電池には用いることができる。こうした使い道はBEV寿命の終末時点でのバッテリーの経済価値を高め、バッテリーのコストを引き下げるほか、バッテリーリサイクルの環境問題を一時的に軽減することにもなる。

これらをすべて、昨年の電気自動車販売台数に当てはめて考えてみる。2016年製電気自動車約46万台に搭載されたバッテリーは、一部が2025年前後に、残りもその後まもなく交換されることになる。しかも、生産はその1年だけではない。2017年には120万台の電気自動車が販売されたとみられ、数は増える一方である。

使用済みバッテリーへの対処法は2つ、リユース(図4)とリサイクル(図5)である。リサイクル(再生利用)は、バッテリーを分解してリチウムやコバルトなどの化学成分を回収する。一方、リユース(再利用)は、短期的にはるかに実用的な代替手段で、故障セルを特定して交換し、バッテリー寿命を延命させるものである。

 

EVバッテリーのリサイクルは、産業と呼ぶには極めて小さく、コスト競争力を持つのはコバルトなどの高価な金属を相当量含有するバッテリーの場合だけである。リチウムイオン電池のリサイクルは、いまだ利益が出ていない。工業原価が全般に低い中国でさえも、リチウムイオン電池のリサイクルから回収された材料の価格は、リサイクルコストの95%程度である。新品バッテリー用のリチウムのリサイクルも経済性がない。精製過程のコストが新品リチウムを購入するよりも高いからである。

最終的には、おそらく2025年以降は使用済みバッテリーが一般的となり、中古バッテリー市場が定着することから、リサイクルの経済性は改善するだろう。また、予測は難しいものの、原材料コストが低下する可能性や新しいバッテリー組成の登場といった他の要因も追い風になる可能性がある。ただし、その間、各国政府はこの産業が妥当な収益を確保できるよう規制と補助金の面で支援する必要がある。この市場は、8~15年遅れでEV市場の拡大に追随することになるため、市場がどのように進化するかを予測できることは、政府の計画策定にとって明らかにメリットである。

こうした中、すでにリサイクルには進展の兆しがみられている。ベルギーのリサイクル企業Umicore社は、世界最大級のリチウムイオン電池、ニッケル水素電池の専用リサイクル施設を所有している。ベルギーのホーボーケンにあるこのプラントは、年間7,000トン、すなわちEVバッテリー約3万5,000個相当の処理能力をもっている。米国市場の最大手Retriev Technologies社は、北米3カ所にリチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、鉛電池などをリサイクルする施設を有している。また、米ネバダ州にあるテスラのギガファクトリーは、2018年の生産能力が35GWhに達するとみられ、その敷地内にはリサイクル・整備施設が建設される予定である。

新興企業のNorthvolt社は、リサイクル・整備能力を組み込んだ32GWh(ギガワット時)の工場をスウェーデンに建設するための資金調達に奔走しているところであり、完成すれば欧州最大のリチウムイオン電池工場となる。この他にもプロジェクトは計画されているが、さらに多くの処理施設が必要である。

リサイクルへの道のりが遠いとすると、より現実的な方法は、古い車載バッテリーを、容量低下がそれほど問題にならない蓄電用途に切り替えることである。

その経済性と投資対効果には十分説得力がある。エネルギー貯蔵に対する需要はほぼ無限といえる。その理由は、電力会社が、電力供給の弾力性と効率性を高めて送電網の安定性を改善することにより、不安定な再生可能エネルギーの普及とEV車両などの新用途に対応しようとしているためだ。主に故障セルの試験と交換を含む作業から生じる整備コストは低く、米国エネルギー省出資の再生可能エネルギー研究機関である国立再生可能エネルギー研究所によると、バッテリー1個について最大定格出力のキロワット時当たり20ドル程度である。エネルギー貯蔵用の新品リチウムイオン電池の需要はすでに旺盛である。整備済みバッテリーはより安価な代替品になり、確固とした地位を築きたい新産業にとっては魅力的だろう。

BEVバッテリーは用途も広い(図6)。グリッドレベルの用途から住居用までエネルギー貯蔵に向いており、電力会社にとっては再生可能エネルギーからの不安定な電力供給を平準化するためのバックアップ供給源の役割を果たしている。また、住宅オーナーは太陽光発電による電力の貯蔵用に、データセンターその他の企業は無停電電源装置として使うことができる。

 

整備済みEVバッテリーの一部はすでに使われている。例えば、日産(欧州)のリーフとBMWのi3モデルのバッテリーは、家庭用蓄電池に内蔵されている。大規模なものでは、バッテンフォール、BMW、ボッシュの共同事業体が、電気自動車100台超で使われていた2,600個以上の中古バッテリーモジュールを組み立て、定格出力2メガワット(MW)、蓄電容量2.8MWhの蓄電施設をドイツに建設したものが挙げられる。

整備済みバッテリーのエネルギー貯蔵への寄与は、最初はそれほどではなくても、世界的な電力供給に照らして考えれば、急速に成長することはまちがいない。自動車メーカーは2030年までに年間2,000万台のEVを生産する可能性があり、この膨大な数の電気自動車はすべてバッテリーを搭載しており、それらは最終的に中古市場へと流れ込むことになる。

リサイクルでは、プロセス化学と製造工程に精通した専門的なサードパーティ・リサイクル企業が主導するとみられるが、整備は電気・工業に関するノウハウを持つ企業の領域になるだろう。特に、自動車メーカーは、ディーラーと顧客の両方と関係があるので、使用済みバッテリー供給における中心的な立場で優位に立つとみられる。バッテリー性能データを入手できることも、整備用の最適なバッテリーの選定や試験時間の短縮に役立つ。BEVのメーカー数社は、すでに整備能力を持つバッテリー製造施設に投資している。

ただ、最終的には整備品を含むすべてのバッテリーはリサイクルされなければならない。そのためには、例えば不法投棄・汚染防止法の厳格な施行など、有毒物質から環境を守るための堅固な規制が必要である。一部の国は、リチウムなどの化学物質の処分を規制する法律を定めるなど、すでに正しい方向に進んでいる。しかし多くの国はそうではない。

 

課題3:CO2排出量:BEVとICEV

一般に、BEVはICEVよりCO2排出量が少ないと考えられている。電気エンジンはICEより効率的であり、電力供給のオフピークの時間帯、すなわち一般にCO2排出量の少ない電力源で電力が作られる時間帯に充電できる。

自動車のCO2排出量を算出するにはライフサイクル全体を見る必要がある。(1)自動車製造とインフラ建設・解体の結果として排出されるCO2量と、(2)自動車自体を利用する結果として排出されるCO2量、すなわち、使用された主たるエネルギー源およびエンジンがそのエネルギーをどれほど効率的に動力に変換したかという要素を勘案する「well-to-wheels(採掘から走行まで)」という考え方に基づくCO2収支である(図7)。ただ、車種や発電構成、自動車利用の組み合わせはほぼ無限であるため、こうした計算は複雑になる。

IVLスウェーデン環境研究所の最新研究によると、リチウムイオン電池の製造とバッテリー材料の加工から生じるCO2排出量は、150~200 kg CO2eq/kWhである。25-kWhのバッテリーであれば、3,750~5,000 kg CO2eqのCO2収支を意味する。このバッテリーが12万5,000 kmの走行に継続使用された場合、平均7年を想定するのが妥当であり、その製造関連のCO2収支は3~4g CO2eq/km程度となる。小さいが無視はできない。

しかし、ICEVとBEVの差は、ライフサイクル全体で分析すると、よりあいまいになる。国際エネルギー機関(IEA)が発行する「Global EV Outlook(世界の電気自動車の見通し)2017」では、さまざまな国の普通乗用車の「Well-to-Wheel」パフォーマンスを比較する中、CO2排出量全体を判断する際の電源構成の重要性を取り上げている(図8)。フランスの場合、発電のkWh当たりの量が低い(最大60g CO2/kWh)ため、ICEVよりBEVを使うことの利点は明白である。しかし、kWh当たりのCO2排出量がより多い国(最大850g CO2/kWh)では、実際にはICEVの方が望ましいかもしれない。Financial Times紙も先頃、同様の結論を導き出し、米国の中西部ではテスラのモデルSのCO2排出量の方がライフサイクル全体では小型ICEVより多いことを明らかにした。したがって、分析は国ごとあるいは地域ごとに行うべきである。

また、BEVの大量展開は電力需要の急増を招くため、モビリティの電動化に伴う環境上のメリットを享受しようとすれば、低炭素発電技術がさらに不可欠になる。例えば、米国の完全電気自家用車に電気を供給するためには、電力供給を30%増やす必要がある。実際、ごく一部の極端なケースでは、BEVの充電を石炭や石油火力発電所からの電力に頼ると、ICEVを継続使用した場合よりもCO2排出量が逆に増えてしまう可能性がある。

 

慎重に進める

BEV市場規模の進化や、これに追随する中古バッテリー市場についての想定は、推測の域を出ない。原材料が確保できるのか、また業界がこれらを生産できるのかが不透明である上、大量のEV展開のためにグリッドを構築しようという新たな取り組みもあるため、予想はほとんど当て推量になってしまう。他の検討事項も見通しをさらに混乱させている。燃料電池車がBEV市場に食い込んでくるかもしれないし、消費者行動が変化する可能性もある。例えば、自動車相乗りの急増がEV需要を抑制することも考えられる。

とはいえ、多くの国がICEVの段階的廃止を掲げていることから、電気自動車とバッテリー市場は爆発的成長の時期を迎えようとしているといってよい。産業と技術の途方もないスケールでの変化を前に、科学・技術面で実用性があり、産業として成り立ち、経済的に実現性があり、環境面から健全な戦略が求められている。

各国政府は、鉱山会社からバッテリーメーカー、自動車メーカーまで、さまざまな産業分野と協力しながら、リサイクルなど新しい事業分野を支援する一方、BEV転換の環境上のメリットを守るために電源構成を改善し、使用済みバッテリーの廃棄による汚染を回避するために規制を設け、然るべき技術を促進して、産業の成長を慎重に管理しなければならない。有効な気候変動の緩和、持続可能な産業の成長、消費者の満足のために、エネルギーシステムと技術を管理するための包括的なアプローチがこれまで以上に重要になってきている。

 

(日本語訳注)
本レポートは、BEVに搭載されるバッテリーによる車両コストの増加と言う足元の大きい課題が技術的・政策的等の何らかの手段により解決され、BEVが“爆発的普及”に至る前提での考察である。

一般的に内燃機関自動車(ICE)のコスト構造の約2割がICE関連の部品に相当すると言われている。BEVになるとこの2割がモーター・インバーターなどに置き換わり、更にバッテリー分のコストが上乗せされる。一般的な$200/kWhの水準を日産リーフ並の容量である40kWhのパックに当てはめると、原価ベースで80万円以上の試算になる。

流通コストを除いたマス価格帯の車両コストを150万円程度とすると、バッテリー搭載によって大幅にコストが増加する。燃料費と相殺されることも考慮すべきだが、仮にバッテリーの劣化や残存価格などの問題を無視したとしても、現在のコスト水準では、20万キロ程度走らないとペイしない試算となる。法規・税制等の優遇無しでは、当面は業界として収益化が難しい領域となっている。

なお、本レポート日本語版では、特に注記のない限り、「電気自動車」という用語は広義で用い、「電気自動車」全体に、バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)を含むものとする。

 

執筆者

Romain Debarre, managing director,
Daniel Gilek, consultant

 

A.T. Kearney Energy Transition Institute とは

A.T. Kearney Energy Transition Institute は非営利組織で、エネルギー転換、テクノロジー、戦略に影響を及ぼす重要事項の世界的な動向について、民間企業および公共機関に洞察を提供することです。同Instituteは、急速に変化するエネルギー環境の意思決定者が結果を出し機会を定義できるよう、客観的立場から技術面での洞察と経済的な見通しを統合して提供します。独立組織であることで、偏りのない洞察を提供すると共に、関心を持ったスポンサーがステークホルダーと新たなアイデアを共創できる能力を育成します。

 

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