2018年の予測

 

この予測について

本予測は、A.T. カーニーのマクロ経済部門シンクタンクであるグローバル・ビジネス・ポリシー・カウンシル(GBPC)が、翌年に起こりうる10の重大な出来事と世界的な潮流を予想するもので、今回で2回目の発表となる。グローバルな事業環境に短期的で重大な影響を与えうる各予想について、まず現状を明らかにし、今後12ヶ月でどのように展開していくかを説明している。

 

概要

不安定さが増す現在の世界で、将来予測は極めて困難である。特に昨今は、社会的心理の変化と緊張の高まり、政治におけるポピュリズムとナショナリズムの台頭、テクノロジーの急速な変化が外部環境に著しい不確実性をもたらし、一部の分野についてはもはや予測不可能といえる。とはいえ、将来動向に関する予測には依然としてニーズがあるため、今回も本レポートを公表することにした。この予測が、現在起きている変化に関する議論の一助となることを願っている。

 

2018年のグローバルな事業環境に重大な影響を与えうる10の出来事は次の通り:

  1. 量子超越性(Quantum supremacy)が達成される
  2. 交渉が難航し、2019年初めの「ハード・ブレグジット(英国のEU強硬離脱)」のリスクが上昇する
  3. 顔認証テクノロジーがさらに普及する
  4. IS(イスラミックステート)の脅威が東南アジア、アフリカ、その他地域で顕在化する
  5. ドイツとフランスの国内政治状況が、メルケル首相とマクロン大統領の「蜜月関係」に影響する
  6. 大規模な自然災害が世界の保険市場をさらに圧迫する
  7. 米国の巨大インターネット企業の支配力と独立性に対するの関心が高まり、新たな規制が敷かれる
  8. 電気自動車(EV)への需要が急速に高まり、販売台数が急激に増加する
  9. 中国の海外投資が加速するものの、各国の抵抗が高まる
  10. がん治療のブレークスルーが前例のないペースで加速する

 

予想1

量子超越性(Quantum supremacy)が達成される

コンピューティングの未来は量子にある。量子コンピュータは、従来のコンピュータより飛躍的に高速な処理を行う上で素粒子に独特な性質と挙動を利用する。従来のコンピュータ処理は「0」または「1」を表すビットで構成されるのに対し、量子ビット(一般に「キュービット」と呼ばれる)は同時に0と1を示すことができるため、コンピュータの計算能力が飛躍的に高まる。今や量子コンピュータの商用化競争が始まっており、IBMは2017年初め、商業利用が可能な初めての量子コンピュータ・システムの開発に取り組んでいると発表した。このシステムは「IBM Q」と呼ばれ、クラウド・プラットフォーム上で提供される予定だ。グーグルリゲッティ・コンピューティングディー・ウェイブ・システムズマイクロソフトなどの企業も、コンピュータや様々な産業の未来を変える量子コンピュータ分野で激化する競争での勝利を目指している。

2017年には二つの大きなブレークスルーがあった。7月には、中国の科学者が量子テレポーテーションを使って地球から低周回軌道衛星に光子(素粒子の一つ)を送ることに成功した。研究者によると、このデモンストレーションは「地球規模の量子インターネットに向けた重要な一歩」である。そして8月には最初の量子プライベート通信ネットワークが中国で導入された。これらの開発成果は科学雑誌と主流メディアのいくつかで大きく取り上げられたものの、量子コンピュータの急速な進歩に対するここ数年の関心は、まだ十分とはいえない。

以上のようなブレークスルーがあったものの、量子コンピュータが日常生活を変えるのは数年先になりそうだ。しかし2018年には、「量子超越性」として知られている閾値(量子コンピュータの能力がこれまでに開発された最も高性能な非量子コンピュータを凌駕する)を実現すると考えられる。科学者はこの閾値を約50キュービットと定めている。現在の量子コンピュータの能力はそれよりずっと低いものの、科学の進歩は速いため、2018年中には量子超越性が達成される見通しだ(図1)。そして1社が達成すれば、他社もさほど遅れずに後に続くと思われる。量子コンピュータは、(そのすべてがビジネスに大きな影響を及ぼす)科学的発見の新たな領域を切り開くだけでなく、人工知能(AI)やデータセキュリティの能力を飛躍的に向上させる。2018年には、例えば新薬発見や次世代バッテリー技術の探求の一環として、化学反応のシミュレーションに量子コンピュータを利用し始める可能性がある。

 

 

 

予測2

交渉が難航し、2019年初めの「ハード・ブレグジット(英国のEU強硬離脱)」のリスクが上昇する

2017年のブレグジット(英国のEU離脱)交渉を特徴付けたのは、出だしの失敗、事態の大いなる複雑さ、緊張の高まりである。協議は5回にわたる厳しい交渉を経て実質的な膠着状態に陥っている。本予測発表(2017年12月5日)時点で、欧州連合(EU)の市民権の未来、欧州の裁判所の役割、英国・アイルランド国境の管理、「清算金」を巡る問題に対する答えはいずれも出ていない。英国はEUとの将来の関係に関する議論に意欲を見せているものの、EU27カ国は離脱条件が決着するまでこうした問題についての議論を封じるという厳格なアプローチを堅持している。テレサ・メイ英首相は9月、「ブレグジット 後の2年間にわたる正式な移行期間を模索しており、EUに対して2021年までに少なくとも200億ユーロを支払う意思がある」と発表したが、実質的に(まだ)実を結んでいない。さらに交渉テーブルの両側で内部的な問題が発生している。特に6月の総選挙における保守党にとって失望的な結果を受け、メイ首相に対する党内の風当たりが強まっている。EUでは北部加盟国と南部加盟国の緊張が表面下でくすぶり続けている。

ブレグジット 交渉は2018年にある程度の進捗がみられると思われるものの、リスボン条約第50条で規定された期限である2019年3月の「ハード・ブレグジット(強硬離脱)」の可能性を除外するには十分でなく、企業と個人が直面している不確実性をさらに長期化させるだろう。EUに対する英国の債務残高である「清算金」は、最終的に2018年初めまでに決着する見通しであり、EU27カ国は英国との将来の関係に関する内部的な議論も始めるだろう。だが、そこに至るまでには政治的な代償を伴う。さらに、2022年に予定されている次回総選挙よりずっと前にメイ首相が退任するとの憶測が、交渉を進める同首相の能力を阻害する可能性がある。

また、EUの交渉アプローチにおける手続きと透明性は非公式な交渉を制限し、行き詰まりの打開を困難にする。一連の交渉によってもたらされる噂と声明に投資家が注視する中、金融市場と為替市場のボラティリティは1年を通じて上昇し、ブレグジットは英国経済のパフォーマンスの足かせとなり続けるだろう。英国で事業を展開する企業の間では、「非常にハードなブレグジット」の可能性に備えるためサプライチェーンを英国外に移転させるなど、事業を財務的にも地理的にも分散させるケースが増えると思われる。そして、両サイドが交渉期限を延長して問題を先送りするのか、「合意のない」ハード・ブレグジットが2019年に起こるのか、見通せない状況が2018年の終盤まで続くだろう(図2)。

 

 

 

予測3

顔認証テクノロジーがさらに普及する

顔認証ソフトウェアは既に多くの場面で使われている。初期の顔認証技術は1960年代まで遡り、ここ1年で顕著に応用が増加している。例えば、中国や中東では配車アプリの運転手認証に使用されており、米国立衛生研究所傘下の国立ヒトゲノム研究所の科学者は少数民族における希少な遺伝的疾患の診断に顔認証ソフトウェアを使用している。米国の教会でも、教会員の識別と常連参加者からの寄付金集めに3次元顔認証ソフトウェアを使用している。1956年に上梓されたSF小説「マイノリティ・リポート」で描かれた世界のように、顔認証は一部の在来型店舗や街頭の看板広告で、通行人にパーソナル化されたマーケティングと価格設定を行うために使用されている。さらに、スタンフォード大学の研究者は個人の性的指向の判断などの人相学の目的でこの技術を使用できると主張する研究結果を最近発表した。2017年9月にはホーム画面のロック解除に顔認証を使用するiPhone Xが発表されたことで、顔認証技術は全世界で本格的な普及期に入っている。

大幅な技術的進歩の上に構築された顔認証技術の認知度と応用分野は、2018年に急速に拡大し、日常生活の様々な場面に影響を及ぼすと思われる。その一方で、自分が顔認証技術によって「識別されている」と気づくことさえない人が大半を占め、このことはプライバシーとセキュリティの懸念を引き起こすだろう。監視や国家安全保障を目的とした顔認証の使用範囲を巡り、政府側と市民の自由を擁護する側のそれぞれの立場から論争が起こりうる。こうした議論は、容疑者の発見に顔認証技術が絶大な効果を発揮するテロ攻撃(またはその脅威)があった場合に、政策当局と一般公衆の間でより本格化するかもしれない。しかし、顔認証技術の力、使いやすさ、未開拓の市場が持つビジネス上の可能性に、多くの企業と消費者が関心を持つだろう。その結果、顔認証デバイスに欠かせない構成要素である有機エレクトロルミネッセンス(OLED)パネルメーカーは需要増大の恩恵に浴し、その一方で、OLEDパネルの高いコストの引き下げを求める圧力にさらされることにもなろう。

 

予測4

IS(イスラミックステート)の脅威が東南アジア、アフリカ、その他地域で顕在化する

ISは、2014年末の絶頂期以降、イラクとシリアで支配していた地域の90%以上を失っている。連合軍はこの1年で、シリアのラッカ、デリゾール、ダルアー、イラクのモスルとハウィジャなどの戦略的重要拠点からISを排除した。ISの最近の支配地域の喪失は収益の喪失も意味しており、潤沢な利益をもたらす石油生産地域や、課税対象となりうる数百万人の住民がいる都市への支配をもはや失っている。しかし、ISは2015年以降、活動範囲を中東以外の地域に広げており、リビア、エジプト、ナイジェリア、アフガニスタンでウィラヤト(管轄域)を開設し、サウジアラビア、アルジェリア、コーカサス地域にもウィラヤトを有すると主張している(図3)
また、ソマリア、ケニア、フィリピン、インドネシア、バングラデシュなどにおける過激派組織がISへの忠誠を誓ったり提携したりしている。

ISは、2017年にイラクとシリアで支配地域を大幅に失ったことで、2018年には活動拠点の拡散を加速させるだろう。移転先の地域は三つある。一つは北アフリカの特にリビア。ISは、新たな収入源となる石油生産地域を手に入れるため、リビアで長期化している政治の不安定さを利用するだろう。リビアは、ISが欧州にテロリストを送り込むための新たな拠点にもなりうる。ISの影響力が増す二つ目の地域は既にいくつかの連携グループが活動するサハラ以南のアフリカ(サブサハラ)であり、それには同地域で最大級の経済規模を持つナイジェリアとケニアの二国が含まれる。そして三つ目の主な活動地域は、保守的なイスラム教と武装グループの両方の歴史を持つ東南アジアだ。

ISは既にフィリピンのミンダナオ地域で活動しており、2017年にインドネシアで少なくとも1回のテロ攻撃を実行した。1,000人を超える東南アジア出身者が中東でISに参加しており、ISで養成されて母国に送られる戦闘員が増えるにつれて、テロ攻撃の激しさと頻度が増す公算が大きい。東南アジアが世界のバリューチェーンにおける重要な生産拠点であり、国際的な主要航路でもあることを踏まえると、こうした動向は世界にとって重要である。ISは従来保有していた拠点では敗北しているものの、2018年においてもなお、世界の事業環境に不安定さをもたらす大きな要因となろう。

 

 

 

予測5

ドイツとフランスの国内政治状況が、メルケル首相とマクロン大統領の「蜜月関係」に影響する

ドイツとフランスのGDPを合計するとEUのGDPの60%超を占める。2017年はその両国で国政選挙が行われた。そしてその選挙結果がEUの未来を形作ろうとしている。新たに選出されたマクロン仏大統領は、対国内、対国外ともに新鮮なダイナミズムを巻き起こし、フランスにおける大幅な労働規制改革の承認と、EUの統合深化に向けた大胆な展望づくりに取り組んでいる。マクロン大統領とメルケル首相は、両国の歴史的に重要なパートナーシップの再活性化にも乗り出している。タブロイド紙的な表現だが、両首脳の新たな関係は「メルクロン(Merkron)」と呼ばれている。欧州委員会のユンケル委員長が9月の年次一般教書演説で強調したように、「ドイツでの総選挙の結果は、EU当局者が政治活動ではなく政策決定に注力する、またとない機会をもたらすだろう」と期待されていた。しかし、メルケル首相は9月の選挙での党勢後退によって苦境に立たされており、そうした見通しに影を落としている。同首相は選挙結果を受け、複雑な連立政権の樹立を試みつつ、右派系野党の「ドイツのための選択肢(AfD)」との対峙を余儀なくされている。

2018年初め、「メルクロン」の関係は蜜月を迎えるだろう。同時に、米国が内向き姿勢に固執し、欧州の経済活動が力強さを増す中、世界におけるEUの重要性は高まり続け、「メルクロン」首脳会議は投資家から一層注目されると思われる。だが、持続的な景気回復にもかかわらず、蜜月は唐突に終わる可能性がある。メルケル首相とマクロン大統領のいずれにとっても、国内の政治情勢がEU改革の大幅な進捗の障害となりうるからだ。とりわけ、少数派政権による統治を余儀なくされるメルケル首相は制約を受けるだろう。ドイツ自由民主党との連立は少数派政権の別の選択肢であるが、ドイツ自由民主党はユーロにやや懐疑的な見通しを持っており、同党の幹部は、マクロン大統領のEU統合の進展に向けた提案の一部を公然と非難している。また、2017年の選挙結果を受けてメルケル首相の政治力が打撃を受けたことにより、不人気な政策を推し進めるメルケル首相の能力が低下し、衰え続けるだろう。マクロン大統領はEU改革の擁護者として成功を収めるかもしれないが、同大統領自身が国内問題に直面するだろう。支持率は就任直後の数カ月で急低下した後、最近は落ち着きをみせているものの、労働規制の自由化への継続的な取り組みや労働組合の抵抗により、2018年を通じてやや低い水準で推移すると思われる。したがって、「より統合された革新的なEU」というマクロン大統領の大胆な展望が2018年に完全に実現されることはないと考えられる。

 

予測6

大規模な自然災害が世界の保険市場をさらに圧迫する

2017年には大西洋で発生した10の嵐が連続してハリケーンに成長した。ハリケーンがこのように連続した例は過去4回しかなく、直近でも1893年だった。この1年で他にもいくつかの自然災害が深刻な被害をもたらした。中米で発生した地震で数百人が亡くなった。メキシコの地震だけでも最大20億ドルの被保険損失と、それよりもはるかに巨額の無保険の被害をもたらす見通しだ。ペルーは過去数十年で最悪の洪水に見舞われ、南アジアではモンスーンによる豪雨で数千人が死亡し、数百万人が住む場所を失った。一方、南欧では相次ぐ山火事が多くの地域を焼き尽くした。カリフォルニア州の山火事による死者数は1933年以降で最大となった。

残念なことに、こうした自然災害は異常現象ではない。世界全体の自然災害の発生頻度は1970年以降に4倍以上に増え、年間約400件発生している。世界銀行の推定では、自然災害による資産損失額は毎年約3,270億ドルに上る。そのため、災害復旧で重要な役割を担う保険業界は特に深刻な打撃を受けており、20社を超える保険会社が最近の災害によって大幅な損失を被ったと発表している。保険業界では、気候変動に起因する天候関連の保険事故が吸収できないペースで増えているという懸念が高まっている(図4)。

こうした「1000年に一度の事故」は引き続き2018年にも起こる可能性が高く、自然災害に伴う保険請求金額も高止まりするだろう。世界最大手の保険会社と再保険会社の一部は、十分な資本準備金を蓄えていたため、ここ数年の損失を何とか処理してきたが、2018年にはそれらすべての保険会社が足並みを揃えることはできないだろう。最近のスイス・リーの報告書によると、「商業用保険の価格は引き続き大きな圧力を受けており、セクターの大半の企業は持続不可能な保険料率で事業を行っている」。そのため、(契約の必要な)保険契約者の保険料と再保険料は2018年に上昇すると思われる。自然災害に関連した保険請求が保険金の支払い対象となるかどうかを巡る議論が保険契約者と保険会社の間で起こる可能性も高く、政府による保険会社への圧力を求める声につながるかもしれない。

ただし、自然災害に関連した経済損失で保険対象となっているのは全体の3分の1に満たないため、保険業界は2018年に市場の拡大を模索することになろう。こうした取り組みの大半は、保険の適用範囲を拡大して新興国とフロンティア市場における自然災害からの回復力を高めることを目的に、国連と世界銀行、保険開発フォーラム(Insurance Development Forum:保険業界が設立した官民パートナーシップ)を通じて行われることになる。この取り組みは、2018年には保険会社にとって、保険が普及した市場での高い支払額による損失へのヘッジ手段として特に魅力的なものとなろう。

 

 

 

予測7

米国の巨大インターネット企業の支配力と独立性に対するの関心が高まり、新たな規制が敷かれる

シリコンバレーの巨大インターネット企業の時価総額の合計はカナダの経済規模を上回っており、その成長にはなお衰える気配がない。2016年の米国大統領選中、ロシアがフェイスブックやツイッターなどのプラットフォームに不正行為を行ったという疑惑は、ソーシャルメディアやインターネット企業が持つ影響力と支配力について、世界的な議論を引き起こしている。

しかしこの議論は、選挙期間中「フェイクニュース」に揺れ動く有権者に関するものだけではない。規制されていないソーシャルメディア・プラットフォームにより、ISなどのテロ組織の融合や、ヘイトスピーチや児童ポルノの蔓延をもたらしている。立法府が行動を起こしつつあり、米国では、上院民主党が選挙に関連した広告に1万ドルを超えて支出した個人と組織の名前を公表することをインターネット企業に求める法案を起草している。フランスでは、マクロン大統領がEUによる巨大インターネット企業への課税強化を求めている。また、欧州委員会はインターネット企業に対し、テロリストの勧誘、ヘイトスピーチ、児童ポルノの取り締まりを目的として、不法なオンラインコンテンツの削除を一段と強化するよう求めている。

インターネット企業への強い関心は2018年に最高潮に達し、新たな規制をもたらすだろう。次の3つの観点から、インターネット企業が法案の対象となるはずだ。つまり、広告を通じて世論に影響を及ぼす能力、ユーザーデータを商業的に利用するビジネスモデル、寡占的な支配力である。2016年の米国大統領選の最中にネット上に投稿された「フェイクニュース」容疑の捜査が進展し、より洗練された新しい「フェイクニュース」ビデオなどの事例が世界的に広がる中、立法府はインターネット企業がこれまで享受してきた自由を規制したいと考えるだろう。米国では、通信品位法第230条(ユーザーが行ったほぼすべての不法コンテンツ投稿や不法行為に対するインターネット企業の責任を免除する目的で1996年に制定された)に照準が当てられる公算が大きい。また、欧州委員会はシリコンバレー企業に罰金を科す動きを加速させるとみられ、同委員会がグーグルに独占禁止法違反で6月に科した過去最高の27億ドルを上回る罰金が科せられる可能性さえある。 中でも欧州委員会のベステアー委員(競争政策担当)は、2019年の任期満了前に欧州の監視文化を厳正化するべく、積極的に行動すると思われる。

 

予測8

電気自動車(EV)への需要が急速に高まり、販売台数が急激に増加する

国際エネルギー機関(IEA)によると、EVの数は2016年に世界で200万台に急増した。その5年前、その数は皆無に等しかった(図5)。IEAでは、パリ協定で期待された地球温暖化防止のためのCO2削減目標を達成するには、2040年までに世界で6億台のEVが必要になると指摘している。各国政府は注意を向けつつあり、世界最大の自動車市場である中国では、政府の工業情報化部が、各自動車メーカーが生産する自動車の10台に1台以上をEVまたはハイブリッド車とすることを義務付けた。インドでは、2020年代末までにEVしか販売できなくする計画が策定されている。米カリフォルニア州の「排ガスを出さない無公害車」(ZEV)政策は、自動車メーカーの全販売台数の一定比率(現在は14%)をZEVとすることを求めており、ほかにも数十にのぼる中央政府および地方政府が同様の発表をしている。このように気候変動への認識の高まり、テスラをはじめとする革新的自動車メーカーのマーケティングの浸透、中国など大規模市場におけるEV導入の義務化が相まって、EV市場は急速に成長し始めている。

2018年には、EV需要がこれまでで最も高いレベルに達し、販売台数は前年比ほぼ50%増加して150万台を超えると予想される。ここ数年は規制と補助金などのインセンティブがEV販売台数の伸びとEV開発の大部分を牽引してきたが、今では消費者需要が販売増のより大きな要因となっており、市場競争を激化させている。自動車メーカーはこうした競争に直面することでイノベーション精神を取り戻し、よりコストの低いバッテリーを開発したり、EVの車種を増やしたりするだろう。2017~2022年に新たに50車種のEVが登場すると予想される。例えばホンダは広大な中国市場に2018年に参入する計画だ。アウディはEVの四輪駆動高級スポーツユーティリティビークル(SUV)を2018年に発売し、特に欧州を本拠とするその他の高級車メーカーも数年以内に後を追う見通しだ。また、ウーバーは傘下の運転手によるEVへの乗り換えを促進するインセンティブ・プログラムを実験段階から正式なものに移行させる予定だ。これにより、世界中でライドシェアリング・サービスを利用する膨大な数の消費者によるEVへの接触機会がさらに増え、消費者が将来的にEVを購入する可能性を高めることになる。一部の市場では必要となるEV充電ステーションの導入が幾分遅れているようだが、充電ステーションへの投資は2018年を通じて増加するだろう。最も顕著なのは欧州で、4大自動車メーカーがアライアンスを組み、400カ所の急速充電ステーションから成るネットワークに投資する計画だ。バッテリーに使用するコバルトの供給量の不足がEV生産のリスクとなっているが、2018年に市場を大きく制約することはないだろう。

 

予測9

中国の海外投資が加速するものの、各国の抵抗が高まる

中国の国有企業と民間企業による海外直接投資はここ数年で急速に伸びており、映画スタジオ、不動産、ホテル、スポーツクラブなどの海外買収ブームと評する向きさえある。ところが2017年、アンバン・インシュアランス・グループ、フォスン・インターナショナル・リミテッド、大連ワンダ・グループ、HNAグループなど、比較的活発だった中国の投資家の一部は、中国政府から海外事業を縮小するよう圧力を受けた。

中国政府が8月公表した海外投資の新たなガイドラインでは、海外投資は三つのカテゴリーに分類されている(図6)。それによると、中国政府は、一帯一路構想の建設プロジェクトや中国の戦略的利益と合致するプロジェクト、技術進歩を促進するプロジェクトに関連する「推奨」カテゴリーの海外投資を支援する考えだ。一方、世界の多くの政府は、地域の戦略的利益につながる分野(例えば技術インフラや重要インフラといった投資が重複する分野)への中国投資の流入を懸念するようになった。欧州委員会は安全保障の観点から、EUを本拠とする企業に対する海外企業の買収の審査を強化すると提案している。

2018年には、中国の投資家とその投資先の政府との緊張関係は頂点に達するだろう。中国企業は引き続き、技術力の向上と成長機会の増大を目的とした海外企業買収を目指すと考えられるものの、各国政府、中でも魅力的なターゲットであるテクノロジー企業を擁する先進国の政府は、国内重要産業の保護に努める中で、中国の新たな海外投資ガイドラインとの直接的な軋轢に直面するだろう。そうした政府の多くが中国の投資を遮断する理由として、中国市場にアクセスする際の互恵関係の欠如を挙げるだろう。例えばフランス、ドイツ、イタリアは、2017年9月に承認された新たな投資選別プログラムは弱過ぎると批判しており、同プログラムを強化するよう欧州委員会に圧力をかけることで、ドイツのロボット産業など欧州で最も価値の高いハイテクセクターの一部を保護しようとするだろう。米国では、対米外国投資委員会(CFIUS)が中国からの投資は国家安全保障を脅かすと見なし、とりわけ人工知能(AI)、ロボット、拡張現実といった先進技術への投資に対し、より強い姿勢で臨む可能性がある。その結果、2018年には「阻止された」中国の海外投資案件の数が増加すると予想される。

 

予測10

がん治療のブレークスルーが前例のないペースで加速する

2017年はがん治療で目覚しい進展がいくつかみられた。遺伝子情報の解読、人工知能(AI)、ウェアラブル・テクノロジーなどが進化し、高精度治療が腫瘍学研究のツールとして急速に実用化できるようになった。

例えば、CRISPR-Cas9など新たに開発されたゲノム編集技術は、肺がん患者の治療で試験的に使用された。研究者は、AIを使用して遺伝性変異と疾患マーカーをより高い精度で特定し、さらに世界中から集めた臨床情報をAIで整理することで最も効果的な治療法を判断する研究も進んだ。

免疫療法の革新的な分野でも研究は大きく加速している。米国立がん研究所の研究者は最近、免疫療法で次々と成功を収めており、11社の医療関連企業から資金提供と研究協力を得ており、遺伝子ベースの2種類の免疫療法を非ホジキンリンパ腫および白血病の治療に使用することについて、米食品医薬品局(FDA)が承認した。FDAは5月に最初の「汎がん」治療薬として、体内の腫瘍部位の代わりに患者のバイオマーカー(細胞経路)を標的とするキイトルーダを承認した。

2018年には、開発途上の技術とイノベーションがさらに高いレベルの成熟段階に達し、先駆的な腫瘍学的ブレークスルーと臨床応用が登場するだろう。研究開発における様々な流れが加速して、これまで予想されていなかった革新的な形で相互作用を引き起こし、世界中の何百万人ものがん患者の健康寿命を延ばす可能性がある。研究者は、血液を患者に戻す前に白血球を遺伝的に改変する方法を新たに開発することで、転移性がんを標的とするこれまでの治療法を大幅に進歩させると予想される。2017年にFDAによって承認された2つの遺伝子治療に関する臨床研究は、他のタイプの血液がんにも適用される見通しだ。

現在、すべてのがん死亡者の90%を占める「固形腫瘍」の細胞治療法を開発するため、臨床試験への資金提供が認められる可能性も高い。また、転移性がんなどの疾患の包括的な遺伝子配列の決定を可能にしてきた低コストの遺伝子配列決定技術は、新規および既存の薬物治療における標的の特定をより容易なものにするだろう。

さらに、がん研究におけるAIの適用可能性に関して科学者の認識が大きく変化しており、臨床試験の効率化と得られる成果の増大につながると思われる。北米は依然として免疫療法の最大市場だが、この分野はアジア太平洋地域でも急成長を遂げるはずだ。背景には、中国やインドといった経済規模の大きな国が研究活動を加速し、北米や欧州と比べたコストの低さにより多くの研究投資を引き付けていることがある。世界のがんとの闘いは、2018年にようやく転換点を迎える可能性がある。

 

*本レポートは英語版「Year-Ahead Predictions 2018」の抄訳です。原文はこちら

 

【執筆者】

Paul A. Laudicina
A.T. カーニー名誉会長 グローバル・ビジネス・ポリシー・カウンシル会長

Erik R. Peterson
グローバル・ビジネス・ポリシー・カウンシル ヴァイスプレジデント

December 2017