| 日本でも金融コングロマリット化が本格化しようとしている。2004年の三井住友と大和証券の経営統合の報道(推測記事)が契機となり、2005年になって多くの金融機関にて金融コングロマリット化に向け動きを加速している。海外では既にシティグループをはじめアリアンツやクレディスイスなど大手の金融グループが1990年代後半から積極的に業態の垣根を越えて統合している。2004年末の金融改革プログラムでも、金融コングロマリット化に対応した金融法制の整備などを掲げ、金融機関の経営者にとって、単なるM&A以上に戦略の選択肢に入っているのではないか。この金融コングロマリットの時代に、個々の金融機関はどういう戦略をとるべきであろうか。大きくは二つの選択肢がある。自らが仕掛けて金融コングロマリットを形成するか、それとも単独で生き残る道を選ぶか。いずれにしても、競争環境として金融コングロマリット化した競合相手が出現することには変わらない。
◇金融コングロマリットの時代・・・「量」から「質」への転換
これまでの同じ業態での経営統合と、金融コングロマリットと言われる異なる業態の金融機関の統合とは何が違うのか。日本でのこれまでの金融機関の経営統合は、同業態で規模を拡大することによって経営効率性を高め、企業価値を向上することに主眼が置かれていた。そこには単に「大きくなることがいいことだ」との論理しか見えない。
一方、今後起こりうる異業態の金融機関統合には、単純な量の拡大にとどまらず、お互いの企業が持っている機能やスキルを融合するという「質」が大きなポイントになってくる。例えば、顧客へのクロスセル一つをとってみても、それぞれの顧客基盤にそれぞれが扱っていなかった金融商品をクロスセルできれば、単に同業態での経営統合に比べて、遥かに大きな収益を上げることが可能だ。すなわち、同じ業態での経営統合は、規模の拡大による経営効率を上げる「量」を狙っているのに対し、金融コングロマリットでは単に量だけではなく、「質」の向上が主眼になるはずである。金融コングロマリットの時代とは、統合で目指すべき中身が「量」から「質」に転換し、本質的に異なるステージに移行することを意味するのである。
◇金融コングロマリットの戦略方向性
複数の業態が統合する金融コングロマリットの狙いは、収益増強とリスク分散の二つである。収益増強は、顧客基盤の拡大と扱う商品の多様化による更なる成長と、同じグループで銀行・証券・保険の商品を取り揃えることによる商品調達コストの低減の両面がある。リスク分散は、違うタイプのビジネスラインを持つことによる収益のブレをなくす効果である。特に投資銀行業務などの手数料ビジネスが主体のビジネスラインは、採算のブレが大きく安定的な商業銀行業務と同じグループになることのメリットはある。
その中でも、金融コングロマリットが取るべき最大の目的は、顧客の囲い込みによる更なる成長戦略と言える。ただし顧客の囲い込みは、リテールとホールセールではその意味するところは若干異なる。リテールでは、銀行や保険・証券などの元々の金融機関が取引していた既存の顧客基盤は異なる可能性が高い。そのため、それぞれの顧客基盤に異なる業態の金融商品を提供することにより、一顧客当りのクロスセル率を高めて収益を拡大できるかが最大のポイントとなる。実際、シティバンクの例を見てみると、一支店当りの収益はトラベラーズと統合した1998年以降2002年までの5年間で年率7%もの伸びを示し、2002年でのシティグループの顧客一人当りのクロスセル率は米国トップクラスになっている。例えば、消費者金融の顧客一人当りのクロスセルは1.4商品に対しHousehold
Internationalは1.1商品、クレジットカード顧客一人当りは1.5商品に対しMBNAは1.2商品、証券仲介の顧客一人当りは3商品に対しメリルリンチは2.5商品、リテールバンキング顧客一人当りは3.6商品でウェルスファーゴの3.8商品に肉薄している。*注1
これらの顧客囲い込みを実現する上で、単に商品を取り揃えればいいというものではない。これまで銀行商品しか扱ったことのない支店行員に、保険や証券の商品を販売させるには個々の行員のスキルをいかに高めるかがポイントになる。実際、シティグループでも単に研修をして商品知識を習得させるだけでなく、FNA(Financial
Needs Analysis)ツールとして、「Citipro」を導入している。このツールは、顧客情報を収集することによって、クロスセルのポテンシャルを特定するもので、投信・変額年金・おまとめローン・消費者金融などの販売に活かしている。
顧客へのクロスセルに続き、金融コングロマリット化により、同一グループ内で他の業態の金融商品を低コストで調達できるメリットもある。ただし最近の動きをみる限り、必ずしも金融コングロマリットにおける戦略の大きな部分を占めているようには思えない。実際、INGなどは、自社商品にとらわれずに競争力のある商品をオープンに取り扱う方針(「オープン・アーキテクチャー」構想)を打ち出しており、その他の金融コングロマリットを見ても、自社商品にこだわっているようには見えない。
ただし今後の可能性として、グループ内の違う商品を組み合わせた新しい商品の開発という観点で、金融コングロマリットの利点を活かすことは可能である。例えば、日本ではそれほど広まっていないリバースモゲージなどは、高齢化とともに益々ニーズは高まってくるように思える。これなども保険と銀行の持っている機能を組み合わせれば、顧客にとって魅力的で、かつ金融機関にとってもリスクをコントロールした商品が開発できるはずである。そのように自らのグループに有する機能を融合することにより、差別化された商品を提供できるスキルを身につければ、顧客の更なる囲い込みだけでなく、新しい顧客基盤の獲得につながるのは間違いない。
一方、ホールセールの顧客は、そもそも同一の顧客を対象にしている可能性が高く、企業のあらゆる金融ニーズを一つのグループで取り込むことによる、トータルな囲い込みを実現することである。その場合に最も重要なことは、異なる業態の機能を融合することにより、他社との差別化を実現することでだ。例えば、商業銀行・投資銀行・保険の機能などを、個別の顧客ニーズに応じて統合し、カスタマイズして対応する。そのようなスキルが蓄積できると、これまで取引のなかった企業に対しても、新しい提案が可能になり、更なる顧客基盤の拡大につなげられる。
また、これらの新しい機能をもつことにより、一つの企業における顧客カバレッジも格段に向上する。例えば投資銀行業務は企業トップをはじめとする経営陣とのコンタクトが主に対し、商業銀行業務はCFOをトップとする企業財務・経理部門、保険部門は主に総務や個別のビジネスユニットであり、企業のいろいろな部門からの情報を元に最適な提案を実施することが可能になる。シティグループでも統合後に企業を規模別にセグメントし直して、上位顧客に対してはインベストメントバンカーとコーポレートバンカーのデユアルカバレッジを明確にうたっている。*注2
ただし海外を見ても、必ずしも金融コングロマリットが成功しているわけではない。成功していると言われているシティグループにしても、トラベラーズ・グループを買収した後で、損害保険部門を2001年12月に、生命保険部門を2005年1月にそれぞれ売却している。実際、クロスセルによるシナジーが働かなかったことを経営陣も認めている。ただし、これさえも自らのグループに保険商品の開発企業を手放しただけで、保険商品自体は引き続き取り扱っている。その一方で、クレジットカード会社や消費者金融・銀行と、引き続き顧客基盤の拡大を目指した買収は続けている。
◇単独での生き残りにおける戦略方向性
単独で生き残ることを選択した金融機関の取るべき戦略は、それぞれの特性に応じて2つの道がある。1つは、地域金融機関に代表されるような強固な顧客基盤を持っている企業で、2つには外資系保険や消費者金融などの個別の商品に対する高いスキルをもっている企業である。
強固な顧客基盤を持っている金融機関は、既存の顧客とのリレーション強化が益々重要になってくる。これまでの商品を主体とした顧客取引では、金融コングロマリット化した金融グループとはまともに戦えない。例えば、融資や預金取引のある銀行顧客も、保険や証券ではそれらの金融コングロマリットと取引しているかも知れない。そうなると、金融コングロマリットの最大の戦略は顧客へのクロスセルであるために、そのような顧客にも銀行取引で浸透してくる可能性は十分考えられる。特に優良な顧客ほど一本釣りで狙われる可能性がますます高くなってくる。そのような中で、金融コングロマリットと戦うためには、顧客との真のリレーションを強化することが重要で、顧客をよく知り、顧客のニーズにいかに迅速に対応できるかにかかっている。扱う商品は、顧客ニーズを応じて他の金融機関から調達すればいい。要は如何に顧客をがっちりと囲い込むスキルを持つかが生死の分かれ目である。
一方、個別の金融商品に対してスキルのある企業の生き残る道は、自らの得意な分野への更なる特化である。他社と差別化した商品開発や与信スキルにより、金融コングロマリットを含め、顧客基盤をもった金融機関に自らの商品を提供し、それらのスキルを高度化することにより、生き残るのである。
◇最後の勝利するのは、スキルを磨いた金融機関
このように金融機関の競合環境は金融コングロマリットの潮流の中で、大きく変化する可能性がある。しかしながら、これまで見てきたように、金融コングロマリット化の道を選択しようが、単独での生き残りを図ろうが、いずれにしても最後に勝ち残る金融機関の条件は、他社と差別化できるスキルをいかに持てるかにかかっている。
顧客接点では、顧客ニーズを的確に把握し、そのニーズに対応した金融商品を提案することによって、顧客との真のリレーションを強化するスキルが益々重要になるし、商品開発部門では、顧客ニーズに合致した様々な金融商品の開発や他社からの商品調達するスキルが重要になってくる。これらのスキル育成は、本来これまでも各金融機関が最も力を入れるべき分野であったが、残念ながら多くの金融機関ではなおざりになっている。金融コングロマリット時代になると、それらのスキルを身につけた金融機関と、そうでない金融機関では更に明確な差が出てくると思われる。その意味でも、各金融機関がすぐにでも磨くべきスキルは多い。
それぞれの金融機関がスキルを磨く過程で、規模も拡大することができれば、これは更なる収益の飛躍につながる可能性も高い。一方、規模のみにとらわれて経営統合した金融機関が、スキルを磨くのは時間がかかる可能性もある。その意味で、今後の金融機関の戦略方向性としては、それぞれの得意なスキルを磨きながら、他社との差別化をいかに図るかにかかっている。規模の拡大そのものは、その意味では生き残りの必要条件にはならない(図1)。そして、それらのスキルを磨いた金融機関のみ、新しい金融コングロマリットの潮流の中で、強くたくましく生き残るといっても過言ではないだろう。
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| (出所:A.T.Kearney All Rights Reserved.) |
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*注1:「Prudential Financial 2003.4.16」より
*注2:「Global Corporate and Investment Banking Group (アナリスト向け説明会資料)」より
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