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金融ジャーナル 2003.4 |
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日本の銀行におけるチャネル改革は、ここ数年来の大きな流れである。これまでのチャネル改革は、店舗の統廃合や小規模店舗へのスリム化などのリストラや効率化の視点が中心であった。一方、コンビニATMやダイレクトチャネルなどの新しい顧客接点の拡大を目指したチャネル改革も同時並行で進んでいる。さらに重要な視点は、チャネルの多様化に合わせたマネジメントの変革である。従来の"支店中心主義"ともいえる単一チャネルを前提にしたマネジメントから新しい経営環境に適合したマネジメントへの変革が求められている。
◇本格化しているチャネル改革
日本の銀行におけるチャネルの本格的な見直しは、90年代の後半から今まさに続いている大きな流れである。銀行の統合や合併による重複店舗の統廃合は当然ながら、地域金融機関も生き残りをかけ、飛び石店舗の統廃合を加速化させている。さらに、以前はフルバンキング店舗中心であった銀行も、より効率的な顧客接点を目指し、小型店舗やインストアブランチ、共同店舗などの新しい店舗形態も模索している。
これまでの日本の銀行におけるチャネル改革の内容は、大きく四つに分けることができる。
(1)エリア制などの地域のグループ化による店舗配置の見直し(地域的に飛び石になっている店舗の廃止なども含む)
(2)個人向け小型店舗やローンセンターなどの機能別チャネルの設置
(3)インストアブランチやコンビニATM、共同店舗などの新しい店舗形態の試行
(4)コールセンターやインターネットバンキングなどのダイレクトチャネルの導入
これらのチャネル改革が整合性をもって進められている銀行は少なく、個別の施策を場当たり的に導入している銀行も多い。その結果、期待したほどの効果が得られていないと感じている経営者の方も少なくないだろう。
◇コスト削減としてのチャネル改革
金融機関を取り巻く厳しい経営環境の中、コスト削減は避けては通れない。そのため店舗配置を中心とするチャネル見直しの動機は、その多くがコスト削減といっても過言ではない。確かに、銀行のコスト構造における店舗の占める割合から考えると、店舗の廃店や無人化によるコストインパクトは大きい。
単に重複店舗の削減であれば問題はないが、多くの銀行において「どこをどう統廃合すればいいのか」となると悩みは大きい。なぜなら、銀行の店舗は単に個店取引だけでなく、ある地域における店舗ネットワークの観点を抜きに議論できないからである。逆に個店だけの取引量や収益を見ながら、統廃合を決めていくと大きな落とし穴に入る可能性もある。
それでは店舗ネットワークをどのように考えていけばいいだろうか?一つの考え方として、地域別の店舗シェアと預金シェアを分析する方法がある。一般的に、店舗密度が低い地域は、店舗シェアによりも低い預金シェアしか獲得できない。それが、ある一定の店舗シェアを超えると、預金シェアの方が高くなる傾向がある。これは、個別の店だけを見ても分からない。仮にボーダーラインに近い地域の支店を廃止すると、その地域全体の取引に及ぼす影響は大きくなるわけで、店舗統廃合を決めるときに、それぞれの地域の店舗ネットワークを把握した上で判断する必要がある。
さらに、店舗の統廃合を考える上で、様々の切り口での顧客分析が必要になる。その結果、地域別の戦略的な位置付けが明確になり、支店チャネル全体における優先順位からの統廃合の判断が可能になる。
店舗の統廃合と同様に、最近よく目にするのが、支店のスリム化である。融資業務などをローンセンターや母店(エリアやブロックの核になる店舗)等に集中化して、店舗の小型化と人員削減を実施している。ここでのポイントは、どこまで機能を集中化できるかである。システム上の制約などにより一部の業務が残ると、思ったほど人員を削減できない。また、個人対応の店舗にしたのは良いが、いまだに支店長を置いていれば、コスト削減効果は限定的にならざるをえない。
これらの問題を防ぐにためには、どれくらいのコスト削減を目標にし、どう集約化するのか、をかなり綿密に設計するしかない。
コールセンターやインターネットバンキングなどのダイレクトチャネルも、より低コストでのオペレーションを狙い、多くの銀行で導入されている。しかし、米銀で見られたように日本でも、顧客は必ずしも廉価なチャネルにシフトしないばかりか、便利なチャネルを使い分けるという状況になっている。その結果、本来はコスト削減の施策で導入されたダイレクトチャネルも、チャネルコスト全体で見ると、コスト高になっているケースがほとんどである。顧客を廉価なチャネルにシフトしてもらうための施策を打ちつつも、"コスト削減"という視点ではなく、"顧客接点の拡大"という視点で考えた方が、少なくとも当面は妥当ではないか。
◇多様化する顧客接点
顧客接点を増やして、顧客利便性を上げるというチャネル改革も同時に導入されている。以前は顧客接点というとフルバンキング支店と無人店舗(店舗外ATM)程度しかなかったわけであるが、コールセンターやインターネット、ローンセンターや相談センター、さらにはコンビニATMなど顧客がアクセスできるポイントは急拡大している。
顧客接点という視点でチャネル改革を検討する場合、議論の前提として、顧客が現金を引き出すために必要な「キャッシュポイント」と「顧客とのコミュニケーションポイント」を明確に分けるべきである。何故なら、この2つは、その目的や施策の期待効果が全く異なるからである。
キャッシュポイントは、店舗やATM(無人店舗、コンビニなど)であり、顧客の利便性を大きく左右する。しかし、キャッシュポイントが多いからといって、新規顧客は獲得できない。確かに、顧客に銀行を選択する基準を聞くと「支店が近いから」という声が圧倒的であるが、これは有人店舗を指している。過去の当社の調査では「無人店舗があるからといって新規取引をすることはない」という結果であった。一方、他行に比べキャッシュポイントが少ないと、顧客離れが起こる可能性があり、防衛的な側面が大きい。コンビニATMなどキャッシュポイントを増やす施策は、収益上のメリットはほとんどなく、その割にコストがかかるという意味で、かなり慎重に検討すべきである。例えば、コンビニATMと提携すると同時に、自前の無人店舗を大幅に減らすなどのコスト効果をにらんだ施策が重要となる。
顧客とのコミュニケーションポイントは、顧客の利便性を高めると同時に、収益を生む可能性のある施策である。有人店舗は言うまでもなく、コールセンターなどのダイレクトチャネルやローンセンターなども該当する。
有人店舗は従来の画一的な対応から、窓口時間の延長や土日祝日の開店なども工夫されてきている。しかしながら、時間延長も「近所の商店街の財布代わりになっただけ」という笑えない事例もあり、施策を実施するに当っての収益効果の見きわめは極めて重要である。特に、顧客接点は一度拡大すると、銀行の一方的な都合でなかなか縮小・撤退が困難になるからである。また、せっかく顧客とコミュニケーションが取れるコールセンターを構築しながら、有効活用している銀行は、まだまだ少ない。
◇顧客接点としての重要性を増す「センター」
顧客とのコミュニケーションポイントは、店舗が基本であることは変わらないが、顧客の利用がATMなどの機械にシフトしている現在、支店だけでは重要な顧客をフォローしきれなくなっている。実際に支店調査を行うと、個人顧客はもちろん、重要な法人顧客でさえ、100%フォローできているとは言い難い。その意味で、顧客との新しいコミュニケーションポイントとして、コールセンターやローンセンターなどの新しいチャネルの重要性はますます増している。
コールセンターやローンセンターなどの「センター」は、銀行においては位置付けが極めて低い。事務処理部門であるという認識しかない銀行も珍しくない。一方、多くの顧客が、そういったセンターとコンタクトをもっており、そこでの対応一つで離れていく顧客もいる。更に顧客からの各種照会は、金融商品を売り込む絶好の機会にもかかわらず、みすみす機会を逃している。
米銀では、コールセンターに優秀な人材を配置している事例が多い。例えば、米国ルイジアナ州の地銀であるハイバーニア銀行は、コールセンター立ち上げ時に支店のトップセールスを起用し、収益に大きな貢献をしている。実際、コールセンターの方が、支店よりはるかに効率的に多くの顧客とコンタクトできるわけで、日本の銀行でも十分に参考になる。
ローンセンターなどの機能別のセンターも、顧客接点として、営業拠点として、人材を含めて新たな視点で見直す必要があるのではないか。
◇顧客接点としてのチャネル戦略の方向性
銀行において「顧客接点をいかに拡大して収益に結びつけるか」という挑戦は、国内だけでなく海外でも様々な工夫がされている。最初の例は、POS(Point Of
Sales)という考え方で、顧客が物を購入するタイミングを捉えてローン販売する方法である。そのためには、一般的にローンを利用するような商品を扱う店と連携して顧客接点を確保する。例えば、中古車販売業者と連携し、中古車を購入するタイミングを捉え、そのまま顧客に自動車ローンを販売する形態である。
最近ではインターネットを使って、さらに高度な連携を実現する海外の金融機関も現れている。 ドイツ第2位のHVB(Hypo VereinsBank)グループは、不動産業者などと提携して、不動産購入を仲介するWebサイトを立ち上げた。このサイトは、物件情報の提供から仲介、さらにローン試算シミュレーション、ローン契約までをワンストップで行うことができ、顧客の利便性を高めると同時に、顧客を取り込むということが実現している。
次は、渉外は店舗に属しているのではなく「ヒト」チャネルとして明確に区別することにより、従来とは違った発想での顧客接点を考えることができる。カナダのロイヤルバンク(Royal
Bank of Canada)は、モバイルセールスタッフという「遊軍部隊」による顧客接点を提供している。彼らは自分の家をベースに、顧客(農家やスモールビジネスオーナー)に様々な金融サービスを提供している。更に英国のロンドンスコテッシュバンク(London
Scottish Bank)でも、支店とは切り離された独立採算のエージェントを活用して、収益拡大を実現している。彼らは、顧客(労働者層を中心とした小口先)に週一回の家庭訪問を行い、顧客との信頼関係を獲得し、金融商品だけでなく非金融商品もクロスセルしている。
これらの事例に共通するポイントは、既存の銀行店舗を中心に考えるのではなく、顧客を中心に何が出来るかを徹底的に追求するという発想の転換である。そのため、銀行でよく議論される法人・個人といった単純な区分ではなく、具体的に「どの顧客にどのような商品・サービスを提供するから、どういったチャネルを接点にすべき」と考えることが重要である。その中で、支店やダイレクトチャネル、さらには新しい顧客接点を検討すると同時に、収益性(コスト)の視点を加味しながらチャネル全体を設計する必要がある。
◇チャネルマネジメントの改革の必要性
従来の銀行のチャネルマネジメントは、店舗を核としたマネジメントの仕組みしか無かったと言える。しかも、規制金利時代のボリュームを稼げば、収益が約束されていた時のマネジメントの仕組みが未だに残っている。ボリュームから収益に目標を切り替えている銀行も少なくないが、対前年度比での数字目標を支店長に割り振って、ガムシャラに走らせる昔ながらの仕組みの銀行が多い。しかし、金融機関を取り巻く環境は急激に変化している。一言でいえば、従来の「単一ビジネスモデル」から「マルチビジネスモデル」に大きく銀行のビジネスが変わったのである(図1参照)。
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| 図1:単一ビジネスモデルからマルチビジネスモデルへ |
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以前のようにボリュームをいくら稼いでも、低い金利でやっていれば儲かりようがない。そのために、地域や顧客毎のきめ細かい戦略が必要になっている。商品も以前のような単純な預貸商品だけでなく、デリバティブ、投信、保険、手数料ビジネスと急拡大している。それにチャネルも多様化しているわけで、新しいビジネスモデルに適合したマネジメントの仕組みを再構築する必要に迫られている。それにもかかわらず、銀行におけるマネジメント変革の意識は低いと言わざるをえない。その結果、チャネル改革を実施しても、期待した効果が表れないという問題が発生する。
例えば、エリア制を採用しても、単に地域協力をしやすくなるレベルに留まっており、本格的な地域戦略までに発展しないのも、そこに原因がある。実際、母店の支店長がエリア長などを兼ねている場合がほとんどであり、企画スタッフも置かずに地域毎や顧客毎のマーケティングが本当にできるとは思えない。
また、個人店舗にしてスリム化しても、高コストの支店長を残している例は多い。零細企業や個人ローンの決裁が必要だからと言って、それで本当にコスト割れしないのか?さらに、支店長が残っていることで、ボリュームや収益目標を達成すべく、本来はPULL(待ち受け)型の店舗をイメージしていたのが、支店長が外に走り回るといったことも起きているのではないか?ダイレクトチャネルも収益化すべき、という声もあるが、電話やインターネットだけでどれだけ収益に貢献できるのか?
こういった課題に対して、日本の銀行で手を打てている銀行は数少ない。問題意識すらない銀行もまだまだ多い。現在の複雑な金融環境に対応するためには、箱ものだけを変えても根本的な解決にはならないと思える。より本質的な問題として、マネジメントの仕組みそのものを見直す必要がある。
◇新しいチャネルマネジメントの考え方
海外では、これらの課題を解決する方向として、現場への権限委譲をかなり進めている(図2参照)。 |
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| 図2:現場で創意工夫を促すマネジメントの発展の方向性 |
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米国オハイオ州のフィフス・サード・バンク(Fifth Third Bank)は総資産四兆円以上の地銀であるが、ROEはなんと30%近い数字を出している。この銀行の最大の特徴は、地域毎にCEOと役員会を設置し、商品ラインを含めたほとんどの意思決定を各地域で行っており、現場に限りなく権限委譲をしていることにある。一方、各地域のCEOは、収益責任と結果に対する説明責任を持つことによって、銀行全体でのマネジメントを行っている。
英国のアビィ・ナショナル銀行(Abbey National Bank)は、更に一歩踏み込んだ支店のフランチャイズ制に移行しており、順調に収益を伸ばしてきている。すなわち、銀行が支店長とフランチャイジー契約を結び、支店サイドにスタッフの採用、マーケティング、営業時間など大幅なオーナーシップを賦与するかわりに、報酬は純益ベースで企業家精神に則った経営を実現させている。本部は、モニタリングと指導体制により各支店を支援していく。
このような新しいチャネルマネジメント変革のポイントは、従来型のトップダウンによる全行目標の割振りではなく、地域・顧客に適応した戦略を構築し、収益を稼ぐことのできる責任と権限を現場に持たせるマネジメントの仕組みを構築することにある。しかも、現場に単に任せるだけでなく、銀行として現場をコントロールできる仕組みでなくてはならない。
以上の観点から、新しいチャネルマネジメントの仕組みを考える上で、4つのポイントがあると考えている。 (1)どの単位でのマネジメントの仕組みを作るのか
銀行全体の経営から見たときのマネジメントの単位を、支店単位にするのか、あるまとまった地域単位にするか、である。この単位が大きすぎると、地域の戦略単位としての位置付けがあいまいになり、逆に小さすぎると拠点の負荷が大きくなりすぎる。
(2)チャネル毎に何を目標管理にするのか
ボリュームに変わる目標として収益目標にするというのは今の流れであるが、それだけで問題は解決しない。銀行のビジネスはストックビジネスであることから、単年度の収益目標だけにすると不具合が起こる可能性が高い。単純な収益目標とは異なるいくつかの目標を組み合わせる工夫が必要である。さらにコールセンターやローンセンターなどは、支店との協業は欠かせず、収益のダブルカウント化など、協業の仕組みも埋め込む必要がある。
(3)目標を達成するために、権限をどこまで委譲するのか
支店に委譲すべき主要な権限は、決裁、人事、予算である。任せきりにならずに、かといって営業活動の自由度を担保できるバランスが重要であり、かなり細かい設計が必要になる。
(4)最後に銀行全体のマネジメントを実現するためのコントロールの仕組みはどうするのか
従来のように対前年度比の数字で決めた数字を支店に割り振るわけではないので、支店目標が妥当かどうかの判断を行う必要がある。そのためには、経営と現場が議論できる仕組みを構築する必要がでてくる。GE(ゼネラル エレクトリック)で各ビジネスユニットを管理する方法が有名であるが、同様に現場と経営が数字を握るための仕組み作りが欠かせない。一般的にはマーケット状況から各戦略単位の戦略と施策の策定、数字目標の設定までを統一フォーマットで作成でき、それをもとに議論できることが望ましい。最後に、本稿では触れていないが、これらのマネジメントを実現するための本部の支援体制や人事システムの変革も同時に検討する必要がある。
これまで見てきたように、チャネル戦略の基本的な考え方は、「コスト」と「顧客接点」のバランスを取りながら、全体で最適化を図るための設計をすることである。さらに、多様化したチャネルをマネジメントする新しい仕組みを構築する必要がある。特にマネジメントの改革は、支店中心主義であったこれまでの銀行の企業文化を変革することを意味するだけに時間もかかりそうである。しかしながら、こういった課題を一つ一つ解決していく銀行のみが次の時代の勝者になるように思えてならない。
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A.T. カーニー
金融グループ プリンシパル 辻井隆司 |
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